『夜逃げ屋日記5』より
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【注・この記事にはDV・暴力の描写が含まれます。フラッシュバック等の不安のある方は閲覧にご注意ください。】
「夜逃げ屋」とは、暴力を振るうパートナーや毒親などから逃れたい人々の夜逃げを支える特殊な引越し業者のこと。その夜逃げ屋の社長の姿に感銘を受け、実際に現場で働きながら取材を続けてきた漫画家の宮野シンイチさんが綴る話題のコミックエッセイ『夜逃げ屋日記』。さまざまな悩みや苦しみを背負う人々が夜逃げを通して人生をやり直していく姿を描き、注目を集めています。
DVなど壮絶なエピソードの多いこの作品の中でも、最も緊迫した現場の様子が綴られた最新刊の『夜逃げ屋日記5』。交際相手から激しい暴力を受けた女性の夜逃げのエピソードをご紹介し、その時の現場の様子について宮野さんにお話を伺いました。
■『夜逃げ屋日記5』あらすじ
『夜逃げ屋日記5』より
今回の依頼者は、彼氏のDVからの夜逃げを希望する今野アカリさん(仮名)。束縛がきつく職場に行くことすら禁止し、些細なことでも暴力を振るうようになったと言います。
『夜逃げ屋日記5』より
依頼の打ち合わせにはアカリさんの親友・ヨウコさんが同席していました。彼女は夜逃げ屋の社長を詐欺師ではないかと疑い、社長に面と向かって「一般の業者よりも割高な料金はおかしい」と言い放ちます。ヨウコさんは不安そうなアカリさんを説き伏せ、依頼をキャンセルさせました。
しかし、その2週間後に事態は一変。
『夜逃げ屋日記5』より
ヨウコさんが1人で夜逃げ屋の事務所に現れます。他の友だちと4人でアカリさんを夜逃げさせようとしたものの、アカリさんの彼氏がその場にいて大暴れし警察沙汰に。
『夜逃げ屋日記5』より
『夜逃げ屋日記5』より
その後、ヨウコさんはどうにかアカリさんと連絡を取り、改めて夜逃げ屋への依頼を希望するメッセージを録音しました。その音声は、彼女がひどい暴力にあっていることが容易に想像できるものでした…。
急遽アカリさんの夜逃げを実行することになった夜逃げ屋。会社イチの武闘派である副社長のブルさんと宮野さんが現場へ向かうと、先に到着していたヨウコさんが「女性の悲鳴が聞こえた」と話します。副社長が部屋に入ると、アカリさんは激しく顔を傷つけられ、血まみれの状態で倒れていました…。
『夜逃げ屋日記5』より
アカリさんの被害の様子を見て、副社長は暴力で加害者を制止しました。被害者の命を守るためとはいえ、その苛烈な様子は宮野さんが息を飲むほどでした。
『夜逃げ屋日記5』より
その後、社長とともにやってきた警察が、加害者を取り調べのために連行していきました。ひどい怪我を負ったアカリさんは救急車で病院へ。結局夜逃げは翌日に持ち越しとなり、依頼者不在のまま行われました。
『夜逃げ屋日記5』より
『夜逃げ屋日記5』より
夜逃げ作業を手伝ったヨウコさんは、最初に依頼をキャンセルさせたことを深く後悔し、社長に謝罪をします。社長はアカリさんから「あの子のこと許してあげてください」と言われたことを告げ、ヨウコさんにアカリさんを支えるように伝えるのでした。
■著者・宮野シンイチさんインタビュー
――依頼者・アカリさんとの打ち合わせに介入してきた親友・ヨウコさんに対する印象と、当時の宮野さんの心境をお聞かせください。
宮野さん:自分が打ち合わせから同席することはあまり多くないんですが、社長曰くお友達や親戚が突然同席してきて、依頼者本人とまともに会話できないままキャンセルされることは時々あるそうです。実際、社長がメディアに出てから夜逃げ屋を語る詐欺集団が複数現れたこともあるそうですし、誰でも知ってるメジャーな仕事ではないので、警戒されてもある程度は仕方ないのかな……と思います。
ただ、それを踏まえても最初の印象は正直良い気持ちにはなれませんでした。「そんなに言う!?」ってくらい言われたので。とはいえ、その後再び依頼に来られた時は前回のような勢いもなく、たどたどしい様子だったので、なんかあったのかな?とは思いました。
『夜逃げ屋日記5』より
――2回目にヨウコさんが夜逃げ屋を訪れた時、ヨウコさんが録音してきたアカリさんの音声は明らかに壮絶な暴力の被害を感じさせる話し方でした。その生々しい音声を聞いたときの気持ちを教えてください。
宮野さん:実は、夜逃げ屋が引越後の裁判のために加害者の暴行の証拠となる映像や写真、音声などを預かることがありまして、何度か見たり聞いたりしたことはあるんです。素人目に見ても裁判の資料としては十分すぎると思うくらい、凄惨なものを見たこともあります。
そういった写真や音声は、見ず知らずの方でも背筋が凍って胃が握りつぶされるような感覚になります。それが一度会って話した方となると、なんて言っていいのかわからないんですが、とにかく、しばらくは頭から離れなくなりました。音声が。きついです。
『夜逃げ屋日記5』より
――夜逃げ決行の当日、アカリさんはひどい暴力被害を受けます。凄惨な描写に思わず目を背けたくなるような場面でしたが、彼女のDV被害を目の当たりにしたこの時の率直な気持ちを教えて下さい。また、この痛ましい場面を読者に伝えるにあたり、どのような思いで描写に臨まれましたか?
宮野さん:やはり現場に入ってその光景を見た時は何が何だかよくわからなくて、目の前が真っ白になってしまってそれを正直に描こうと思いました。
原稿にする際、最初は自分が見たものをそのまま描いて社長にも「しっかり再現できてる」というお墨付きをもらいました。ただ、キツすぎて担当編集からNGを出されまして、かなり表現を抑えて描き直しました。それでも伝えられる範囲で最大限描こうと思って、描きました。
――SNSでこのエピソードを発表した時、どんな感想が寄せられましたか?
宮野さん:暴力の度合いが、かつてないほどキツイエピソードだったので、衝撃を受けてしまった方もたくさんいらっしゃいました。いつもみたいに何度も読み返せないという方もいらっしゃいましたね……。
『夜逃げ屋日記5』より
――これまでもDVのエピソードがたびたび登場した「夜逃げ屋日記」ですが、その中でもこの描写は特に壮絶でしたね……。この時のエピソードで、最も印象に残っていることを一つ挙げるとしたら何ですか?
宮野さん:たくさんありますが、副社長のブルさんが暴走したところですかね……。夜逃げ屋に入る前から、裏稼業の人=怖い=暴力的みたいな図式がうっすら自分の頭の中にありました。入ってみると案外みんなフレンドリーで、その図式が薄れかけていたのですが、それが突然体現された瞬間だでした。
『夜逃げ屋日記5』より
――ヨウコさんの行動は結果的に加害者の激しい暴力を招くことになってしまいましたが、それでもアカリさんは自分を支えてきてくれたヨウコさんを信頼しています。ふたりの女性の友情を見て、どんなことを感じましたか?
宮野さん:社長が言ってた通り本来出来るだけ関わりたくないことなのに、身を挺して自分を助けようとしてくれるのは、やっぱり嬉しかったと思います。結果的に暴力を受けることに発展してしまったけれども、ヨウコさんからアカリさんへの感謝の気持ちは消えなかったのかなと。
『夜逃げ屋日記5』より
* * *
さまざまな暴力を描いてきた「夜逃げ屋日記」シリーズの中でも、この一篇はDVの恐ろしさが強く印象に残ります。しかし、アカリさんを助けようと尽力するヨウコさんの行動と勇気、彼女を責めないでほしいと願うアカリさんの思いに、希望と救いが後味として残りました。凄惨な暴力の闇と、人が人を思いやる気持ち、その対比が印象に残るエピソードです。
■DVの相談窓口
※パートナーからの暴力に悩んだら、まずは第三者に相談しましょう。「DV相談ナビ #8008(はれれば)」では全国共通の電話番号で、最寄りの相談機関の窓口に電話が転送されます。また 「DV相談+」 でも、24時間メールや電話、チャットで相談を受け付けています。
取材・文=レタスユキ
