動物性脂肪、卵、牛乳、クリーム、バター等の乳製品、はちみつを一切使用しない、100%植物性由来の素材のみで作るパンとパティスリーのお店「Land & Monkeys(ランド・アンド・モンキーズ)」。
日本の麻布十番に本店を構える名店「メゾン・ランドゥメンヌ(Maison Landemaine)」のパン職人であり、日本そしてパリをまたいで実業家としても活躍中のロドルフ&芳美・ランドゥメンヌさんがオーナー。乳製品や卵など動物性の素材を一切使わない美味しさを追求し、2021年2月に100%ヴィーガンのブーランジュリー「Land & Monkeys(ランド・アンド・モンキーズ)」をパリにオープンさせた。
「Land & Monkeys(ランド・アンド・モンキーズ)」は2025年12月時点で、直営とフランチャイズ展開を合わせるとすでに11店舗に増えており、プラントベースであることや健康志向であることをうたわず、美味しさの面でパリジャン・パリジェンヌたちの心をつかんだ。今回は実際にパリ・北マレ地区にできた新店舗を訪れ、「Land & Monkeys」が目指すこれからの世界と現在地点を取材させていただいた。
あえて「ヴィーガン」「プラントベース」の文字は一切なし。パリジャン・パリジェンヌの衣食住に溶け込む「Land & Monkeys」の凄さ
20区からなるパリの街で、最新トレンド発信地である北マレ地区。小さなブティックや有名セレクトショップ、個性的なカフェが建ち並び、おしゃれなパリジェンヌたちが集うエリアだ。この北マレ地区という、絶好の立地に今年オープンした。朝からひっきりなしにお客が次々にお店に入る盛況ぶり。
店内に入ると、焼きたてのパンがズラリと並ぶ。定番のバゲットから、ハード系のパンも数多く取り扱っている。そして旬のフルーツを使ったタルトや人気というタルトレット・シトロンやショコラをはじめとしたプチガトーもあり、そのきらびやかな見た目は‟本当に100%ヴィーガンなのか?”と目を疑うほど。そしてマドレーヌやブラウニーなどの焼き菓子や世界的に流行っているチャンククッキーはこの店の人気商品のひとつだ。
店内にも外の看板にも「100%ヴィーガン」という文字はどこにもない。見た目・味わいからも、その美味しさは間違いなく、本当にプラントベースであるとは思えなかった。
バターの代わりに植物性油脂、牛乳の代わりにアーモンドミルクや豆乳を使用。中でもお菓子づくりに欠かせない卵は、ランドゥメンヌ芳美さんらが開発した代替品である「ユンゴ(Yumgo)」を使っている。
さらに「Land & Monkeys」は売り上げの利益の2%を動物保護協会に寄付するなど、そのエシカルな取り組みと姿勢で社会に貢献している。ブランド名にある「猿」は、自然や人間の原点を意味している。
「言われなければわからない」美味しさが意味する「ヴィーガン」という言葉への挑戦
人気の商品を伺うと、季節のフルーツを使ったタルト・フレーズやフランスでひそかなブームになっているという“ちぎりパン”(写真左)がオススメという。どれもヴィーガンと聞いて、食べて驚く美味しさだ。
取り分け驚いたのが鶏肉の代わりにプラントベースの大豆ミートで作られたこちらの照り焼き風のサンドイッチだ。フランスではサンドイッチがとても流行っているようにみえた。ごま油と醤油でマリネし、しっかり大豆ミートに味をしみ込ませている。味の染みこんだ大豆ミートをコールスローサラダでサンドし、さっぱりしながらもちょっと味濃いめ。実は一番人気のサンドイッチで、簡単な言葉で表すと“がっつり系お食事パン”でパリジャン・パリジェンヌの心をつかんでいる。
この大豆ミートをそのものを試食させていただいたが、これだけで食べてもまったく違和感がなく、食感も満足度もお肉そのものだった。
先に述べた通り、ここで販売されているものが100%植物性とは全く思えないほどの商品ラインナップだ。大前提として「ここに来る皆様へ美味しいものを提供したい」という想いがあるそうだ。実際にお店を訪れる7~8割の人々はプラントベースの自然食であることを、気づかずに来て食べているという。
「これはヴィーガンの食べ物です」そんな意味を連想してしまう「ヴィーガン」や「プラントベース」という言葉はもはや意味をなさないのではないか? 取材し、フランス人の衣食住に「当たり前の美味しさ」として自然に馴染んでいる様子をみて、強くそう感じた。
そして本ブランドを立ち上げ、その想いをオーナーであるランドゥメンヌ芳美さんにお話を伺うことができた。
次世代に“どういう地球を残すか”
Q.なぜヴィーガン・プラントベースの世界へ入ろうと思ったのでしょうか?
芳美さん「日本で約10年パン職人として働いたのちにパリへ。その後夫と出会い、会社を立ち上げて『ヴェジタリアンに移行しないか?』と夫に言われたのが2015年。家からも動物性を排除するということ”は、生活を大きく変えるものであり、最初はどうしたものかと思いめぐらせてすぐに飲み込めませんでした。その時に『メゾン・ランドゥメンヌ』を立ち上げました。そこから「Land & Monkeys」を2018年から準備しローンチしたのが2020年です。
夫は動物擁護団体『L214』と知り合ったことがきっかけでヴェジタリアンに傾倒。夫の両親も同じ理由でもともとヴェジタリアンでした。私はヴェジタリアンとは何か?というところから色々と勉強していく中で、ふと日本においては精進料理があり、日本人としても共通点があるのではないかと考えました。パリにいたこともあり、日々の食事は洋食だったのでいっそのこと和食に切り替えてみようと思い、そこからヴィーガンの生活が始まりました。意外と和食は肉(動物性)が少ないと気づき、その動物が環境問題につながっているのではないかと意識しはじめました。
そこからリサーチをはじめました。地球環境のことを考えると、放牧や牛の飼育による温室効果ガス(メタンガス)の排出(ゲップや排泄物から)の環境への悪影響は周知だと思います。食事における二酸化炭素の排出量で89%が動物性由来であったり、食事に由来することが多いと気づきました。もちろん化石燃料を減らして持続可能なものにするとかCO2の排出量が大きいので飛行機を1回のらないとか、そういうことも大事なことかもしれませんが本当の意味でCO2を削減するためには日々の食事が大切だとわかりました。私たちはパン屋なので、そこに取り組むべきではないか?そう夫と決断し立ち上げたのが17年前です。
そこでぶち当たったのが私たちがパン屋として運営している「メゾン・ランドゥメンヌ(Maison Landemaine)」です。「メゾン・ランドゥメンヌ(Maison Landemaine)」では、当たり前のように卵もバターも使っていました。そこで夫も私も矛盾を感じてしまったんです。
そこで行き着いた考え方というのは、ターゲットはあくまで「マス」。その意味で「メゾン・ランドゥメンヌ(Maison Landemaine)」必要なブランドであり、マスに向けてのアプローチをしていこうと決めたんです。実際このお店は3割ぐらいの商品がプラントベースです。
そして2018年に私たちが次に着手したのはプラントベースの食材のイノベーションです。卵の代替品となるYUMGOの開発でした。卵は呼吸によって二酸化炭素(CO2)を多く排出するもので、当時は卵に代わるものはありませんでした。お菓子作りおいても卵はもっともよく使うものだったので、卵に代わるものは絶対に必要だと思っていました。」
Q.2020年に「Land & Monkeys」を立ち上げたのは、なぜですか?
芳美さん「食に携わるものとして、もっともっと何かできないか? その時に考えアイデアとして出たのが『Land & Monkeys』です。国も大企業も環境問題において“二酸化炭素(CO2)の削減をやらなきゃ”と口をそろえて言いますが、どうしていいかわからないというのが現状です。食の面からのフォローアップをすべきだと思っています。
初めの入り口は動物保護だったけれど、今は私たちが考えていることは次世代にどういう地球を残すか。です。」
「ベジタリアン」ではなく「フレキシタリアン」という選択
フランスでは完全なるヴィーガンではなく『今日はお肉を食べるのをやめよう』という選択をする“フレキシタリアン”が多くなっていると芳美さんは話します。
芳美さん「自分たちが食べているものが直接CO2を排出しているという意識は持ちづらいかもしれませんが、単純に乳製品や肉・魚をやめるだけでも、CO2年間排出量の約1.2トンを減らせるという計算。全部排除することは難しくても、適宜選択するというフレキシタリアンになれば、また、一人ではなく世界中に広がっていけば、当然CO2排出量は減っていきます。“フレキシタリアンであることが凄くスマートでおしゃれだよね”そういう価値観がもっと広まっていったらいいなと思っています。そういう意味でフランスでは都心部ですが、意識が変わってきています。そこが日本との大きな違いかもしれませんね。」
今回取材をしながら、未来のことをみんなで‟少し考える”だけでも大きな前進になるのではないか? そして食べても、作り手も少しずつみんなで前進していくことの大切さを肌で感じた。日本でも年々異常気象が続き、果物や野菜の収穫にも大きな影響を及ぼしている。
当たり前の「食」を守るために、何をすべきか?は我々の創造する以上に難しいことではなく、日々の衣食住に根付いている。そう気づかされる取材だった。
profile
Yoshimi Ishikawa Landemaine
石川芳美
夫でありパティシエのRodolphe Landemaine(ロドルフ ランドゥメンヌ)と、天然自然酵母を使った伝統的製法にこだわったブーランジェリー・パティスリー「 Maison Landemaine」(メゾン ランドゥメンヌ)を展開。ビーガンとオーガニックにこだわった「Land & Monkeys」(ランド&モンキーズ) もパリで店舗拡大中。
日仏の食文化交流の橋渡しをモットーに精力的に活動。また、30代から描き続けてきた絵の才能を活かし、Maison Landemaine(メゾン ランドゥメンヌ)グループ のアートディレクターを務め、アーティストとしても活動中。
取材・文・写真/坂井勇太朗(ufu.編集長)
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