木村文乃とSnow Manラウール共演ドラマ『愛の、がっこう。』(フジテレビ系、毎週木曜よる10時から放送)に出演する田中みな実が、どうしてこんなに頼もしいのか!

 テレビ局の敏腕デスクというパワフルな役柄も味方している。同じ「木10」枠で放送された『あなたがしてくれなくても』(2023年)での副編集長役以来、田中は“悟りキャラ”をはまり役にしている。

 局アナから俳優へ、悟りの演技で躍進する田中みな実について、コラムニスト・加賀谷健が解説する。

◆田中みな実的な演技の空気感

 夕方の放送に向けて、局員たちがせっせと意見をだしあっている。カメラが報道局フロアを俯瞰で写す。メインのネタはどれにするのか。部下たちのネタ出しを秒でさばいていく腕がいる。

 報道番組のデスク・町田百々子(田中みな実)だ。なんだよなんだよ、もっといいネタはないのか。百々子は部下たちの周りを巡回しながら、びしびし的確に突っ込みを入れる。

 これは木村文乃主演ドラマ『愛の、がっこう。』第1話、木村演じる主人公の高校教師・小川愛実の親友役でもある田中みな実の初登場場面。

 田中みな実が場面のトーンを完全に掌握する。役柄自体がチャキチャキしているが、田中もまたすごい的確な動き。フロア全体が画面におさまるワンショット目から、田中みな実的な演技の空気感が画面をコントロールしている。

◆局アナから“良好気分”の俳優人生へ

 あれ、田中みな実っていつからこんなに優れた演技者になったのか? 『愛の、がっこう。』初登場場面を見て、2009年にTBSにアナウンサーとして入社した頃の、いわゆるぶりっ子キャラのイメージなんて嘘みたい。

 2014年にフリーに転向。好感度をぐんぐん上げていった。『絶対正義』(東海テレビ、フジテレビ、2019年)で俳優デビューを果たすのだが、ごく初期の出演作『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日、AbemaTV、2020年)で演じた眼帯の秘書役は、まだキャラクターの感情とアクションがチグハグでうまく噛み合っていなかった。

 それが初主演映画『ずっと独身でいるつもり?』(2021年)での作家役で表現に深みがでた。今ではテレビドラマには欠かせない存在だ。

 2024年放送の松岡茉優主演ドラマ『ギークス〜警察署の変人たち〜』(フジテレビ系、以下、『ギークス』)では産業医役を演じた。主人公たちが常連の居酒屋があるのだが、店名が「良好気分」と書いて「II Ki Bun」と読ませる。

 第1話で田中が店の外で笑う場面を見て、あぁ、田中みな実は、まさに“良好気分”の俳優人生なんだなと思ったりもした。

◆鋼の翼を授けた副編集長役

 田中みな実が俳優としてのキャリアを形成する上で、ターニングポイントだと理解すべき出演作がある。奈緒主演で、二組の夫婦のセックスレスを描いた不倫ドラマ『あなたがしてくれなくても』である。

 田中が演じたのはファッション雑誌の副編集長・新名楓。仕事は自宅に持ち込むのはが当たり前。帰宅して呼び出されたらまたすぐに出社する。建設会社の管理職の夫・新名誠(岩田剛典)が献身的に作る夕食もなかなか食べられない。完全にワーカホリックで夫婦生活は破綻寸前。

 寂しさと侘しさがつのる夫は主人公・吉野みち(奈緒)との不倫関係に走る。みちの夫・陽一(永山瑛太)もまた職場の従業員と肉体関係を結ぶ。不倫の円環がぐるぐるする中で、ただ一人、楓だけは不倫などしなかった。

 結果的に夫との夫婦生活は破綻するが、自立した精神を持ち続けた。楓役の芯の強さが田中みな実の演技に鋼の翼を授けたように感じた視聴者は多いと思う。

◆段階的に演じる“悟りキャラ”

 楓役を演じたことで、田中は自分が演じるべき役柄を見定めたところがある。以降、決してぶれず芯が強い“悟りキャラ”を段階的に演じる田中は、同作と『ばらかもん』(フジテレビ系、2023年)、『Destiny』(テレビ朝日系、2024年)と『ギークス』で2クール連続ドラマ出演するようになった。

『ブラックペアン シーズン2』(TBS系、2024年)からちょうど1年空いて、さらにバージョンアップしたかのような『愛の、がっこう。』町田百々子役は、悟りキャラの最高地点に達した感がある。

 百々子は親友である愛実の元恋人を寝とったことを武勇伝として語り、離婚も経験した。恋愛に関して悟りを開き、今は愛実の保護者のようにいろいろ心配して助言をする。

 第2話では、愛実の婚約者となるへにゃへにゃ男・川原洋二(中島歩)を「川原某」と呼んで品定めする。焼酎はロック。グラスの持ち方は縁あたりを豪快に鷲掴み。

 酔ってはいるが、鋭い洞察力でぐいぐい。有り体にいってはまり役。悟りの演技を特とご覧に入れようとばかりの田中みな実が頼もしい。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu

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