「刑務所のリタ・ヘイワース(Rita Hayworth and Shawshank Redemption)」という、スティーヴン・キングの中編小説があります。小説を元にした映画「ショーシャンクの空に」の名の方が聞き覚えのある人というも多いかもしれません。
ショーシャンクという腐敗した刑務所に入れられた、無実を主張している男が、とあることをきっかけに刑務所内で地位を得て、そして長い年月の末に脱獄するお話です。主人公はこの男ではなく、刑務所内のよろず調達屋をしている別の男。男は、主人公が手配したものを使用してコツコツと脱獄したのです。
脱獄自体のドラマもさることながら、ハードボイルドなヒューマンドラマが魅力的な名作となっています。
『Back to the Dawn ~ブレイク・ザ・アニマル・プリズン~』は、そんな雰囲気を纏っているサスペンス脱獄RPG。そして登場するキャラクターたちは人間ではなく動物です。本記事ではそんな本作のレビューをお届けします。2026年3月5日発売のニンテンドースイッチ/ニンテンドースイッチ2版のレビューとなりますが、2025年に発売されているPC(Steam)版は、Steamユーザーレビュー数が8,000件近くある中で「非常に好評」を獲得し、数々のゲームアワードを受賞している、かなりの実力派な作品です。
※本稿の執筆に当たり、パブリッシャーからダウンロードキーの提供を受けています。
実際「ショーシャンクの空に」にも影響受けているっぽい。「ボウルダートン」が本作の刑務所です●各主人公に用意された豊富な脱獄ルート、エンディング
本作の主人公は、本記事執筆時で2匹実装されています。キツネのトーマスと、パンサーのボブです。主人公ふたりの日本語CVについては、トーマスを仲村宗悟さん(代表作『アイドルマスター SideM』の天道輝、「THE FIRST SLAM DUNK」の宮城リョータなど)、ボブを間宮康弘さん(代表作「ファンタスティック・ビースト」シリーズのジェイコブ・コワルスキー、「忍たま乱太郎」の稗田八方斎〈2代目〉など)が担当されています。また、主人公たちだけでなく刑務所内の囚人仲間や監視の犬たち、脱獄の手助けをしてくれるNPCたちなど、メインストーリーでは基本的にボイスが付いています。
こういう台詞にはボイスが付いていない
主人公は2匹ともそれぞれ違う物語が用意されています。トーマスは悪徳市長の闇に触れた記者として謂れなき罪を被せられて投獄され、次の市長選で当選させないために脱獄を試みます。一方のボブは、潜入捜査官として刑務所に収監され、任務の中で友の死の真相を追うことに。

エンディングもそれぞれ複数用意されており、片方の主人公を味わい尽くすまででもかなりの時間を要します。また、メインストーリーを全く進めなくても迎えられるエンディングも存在し、脱獄手段の多さと相まって、かなり自由度の高い作品となっています。それでいて一部を除き導線もしっかりとしていて好印象でした(除いた一部に関しても、「やりこみ勢向けに難易度の高いルートを用意したよ!」という印象を受けます)。
体験版ではトーマスしかプレイできませんでしたが、かなりの時間楽しめたと感じていました。しかし、こうして製品版を遊んでみると、本当に冒頭の一部分だけだったのだなとそのボリュームに圧倒されました。
ボブ編の序盤で、トーマスのニュース報道が聞こえてきてニヤリ
RPG――つまりロールプレイングゲームは、元はといえば紙とペンを使いダイスを転がす、テーブルゲームのことを言います。今日の日本における「RPG」は、「コンピュータRPG」を指すことが大抵で、そちらはロールプレイングゲームの遊び方や世界設定を元に作られたものとなります。本作の成否判定は、そんなどことなくTRPGを感じさせるようなちょっと懐かしのダイスシステムで、これまた雰囲気に合っていてグッド。出目の悪さをカバーする手段も用意されており(ダイスの振り直しやアイテム、スキルなど)、レトロの良さとモダンの便利さがうまく融合しています。


また、本作はオートセーブなのですが、最大10個まで残せる手動セーブも用意されております。ロード時はセーブデータから好きなものを選んでロードすることができ、目標ポイントが高い時はセーブ&ロードを使用した少しずるい「振り直し」も可能。本作のシステムと相性が良く痒いところに手が届いていると言えます。
●刑務所内で展開する群像劇。ギャング抗争!オカルト!所長の犬、の犬!そして……恋!?
囚人たちに限らず登場キャラクターは皆個性豊かで、最初は種族名で覚えていても、気が付けば名前で憶えていることでしょう。個性豊かな動物たちは、種族故の偏見や悩みもあるもよう。「キツネがウサギを好きになるのは当たり前だろ?」というセリフを始めとした、動物特有のこういうやりとりが出てきた時には「コレコレ!」とテンションが上がりました。

囚人たちはよく雑談をしており、それを耳をそばだてて「噂話」として聞くことができます。内容は他愛のない雑談から、前日話していた内容と続いているもの。ギャングたちの少し物騒な会話、時にはメインストーリーを補完するような内容のものまで、様々なことを話しています。「主人公とは別のラインで物語が進んでいる」って……良いよね……良い……。
めちゃくちゃ近いですが、このトーマスはこっそり聞いています
内容が気になるというのはもちろんですが、この「噂」を金策にするスキルが早い段階で解放されることもあり、物語を楽しむ導線がしっかりしていると感じました。ちなみにスキルは、本を読んだりキャラクターとの好感度を上げてイベントを起こして教えてもらったりなど、様々な方法で解放することができます。
解放したら習得するのだ!
また、トーマス編にはリタ・ヘイワース……つまり、マドンナ的存在もしっかりといます。本作のリタは刑務所に勤務している医師のプードル・ベスです。元恋人であるフェレットのマギーもいて、片方あるいはその両方と恋愛関係になることができます。ちなみに後者の場合はちゃんとしっぺ返しをくらいます。
また、個人的には、自分が操作していないトーマス/ボブと交流できるというのが非常に良かったです。「プレイヤーの手を離れた主人公」に惹かれる人は少なくないのではないでしょうか、筆者もその一人です。
これがボブ編で出会うトーマス。やはり「キツネは、基本的には狡猾で小賢しい種族」という認識がありそうですね
このNPCたちとの交流の楽しさを支えているものの一つが、クオリティが非常に高い翻訳です。しかしながらここで難点が一つ、字幕と音声が一致していないことが割とあるのです。言っている内容自体は概ね変わりないのですが、言い回しや口調が違う……折角実力派の声優を起用し丁寧な翻訳をされているというのに勿体なく感じます。こういう「ゲームに没頭しているのに「醒めてしまう」瞬間の積み重ねがかなり気になりました。
あと、トーマス編メインストーリーでテキストコードが崩れている?箇所がありました。音声と字幕の相違がかなりあった箇所でもあるので、ぎりぎりまで手を入れていた箇所なのかな……と思ったり
トーマスが脱獄に重きを置いているのに対して、ボブはとある事件から刑務所内に潜入調査に赴いている警官。しかしそこで、友の死因に関係ありそうなことを知ります。友の無念を晴らすため、ボブは刑務所の秘密を探るのでした。

トーマスより1ヵ月早く入所しているということもあり、ゲーム開始時点ですでに何箇所かボブが探索済み。医務室を調査していたボブが「ここにも手がかりはなかった」と地図にバツ印をつけるところから始まります。地図が最初からありある程度の動物関係ができているためトーマスより簡単……かと思いきや、ギャングに所属しているため資金繰りが厳しかったり、そもそも全体的な難易度自体がトーマスより難しいです。歯ごたえのある上級者向けで、体験版ではトーマスしか選べなかったのも納得です。
●やっていることは非常にシンプル。「物語をどこまで楽しめるか」次第で変わる印象
トーマスもボブも、基本的には「おつかい」をしている状況です。メインストーリーそのもの、またストーリーを進めるためや好感度を上げるために何かと入用なお金や評価点(刑務所ですので、働いたり融通してもらうために必要)を稼ぐため、脱獄の手筈を整えるため……。
また、豊富な脱獄ルートは、見方を変えるとどれも中途半端に進めて終わってしまう可能性が高いです。計画している行動が理想通りにいくととても気持ちが良い、「爽快」状態になるとはいえ、ルートが多く常におつかいが複数発生している状況は、自由度の高さと比べてちぐはぐな印象も受けました。
動物関係や謎解きといった物語を楽しみ、スリルのある脱獄を味わえるゲームではありますが、結構タイトな時間制限がある都合上リソース管理ゲームの側面が強いかもしれません。リソース管理ゲームが得意か否かでこのあたりの評価はだいぶ変わるだろうなと感じます時間、体力、集中力、お金、アイテム、好感度……管理するものはたくさんあります。時間もかなりタイトで、初回プレイ時はバッドエンドを迎えやすいと感じました。しかしスキル引継ぎ要素があり、初回は必然的に難易度が高くなる印象もあります。
初回プレイ時に脱獄することも不可能ではありません。実際に筆者は初回のトーマス編を、ギリギリで何とかクリアできました。良い笑顔だ。
とはいえ、難易度を軽減するオプションもあります。ウオオオ!
初回プレイはチュートリアルと割り切った方が良いと感じました。勿論「チュートリアルだから楽しめない」という意味ではなく、本作の操作リソースの管理に慣れるまでのプレイ、という考え方です。初プレイは最適を目指すのではなく、思うがままにプレイするのが良いかもしれません。
また、先も言った通りマルチエンドが魅力の一つ、すなわち周回を推奨するようなつくりをしているのですが、会話スキップができないのも少しずつ積もってきます。何せ主人公が2匹いて、それぞれ複数エンディングあります。エンディングを見るための道中で中だるみすることは否定できません。ゲーム側もそれがわかっているのか、ミニゲームで気分転換をさせようとしている感じも感じました(ミニゲームが苦手な方は一部を除き、複数回プレイすることにより、操作キャラに任せることが可能です)。
ボブは結構愉快なヤツで、こういうオタクみたいなことも言ったりする
少しの面倒さが、時として魅力で、時として欠点となる。そんなゲームですが、しかし脱獄というのはそういうものかもしれません。
箇所箇所に気になる点があることは確かで、それを指摘されたり、「思っていたジャンルとちょっと違う」と言われれば「そうだね……」と返しつつも、「でも面白いよね!」と自信をもって続けられる、そんなゲームでした。
Game*Spark レビュー 『Back to the Dawn ~ブレイク・ザ・アニマル・プリズン~』 ニンテンドースイッチ/ニンテンドースイッチ2/PS5 2026年3月5日(PS5は2026年発売予定) フィルム・ノアールな世界で味わえる脱獄劇と、気が付けば引き込まれている作りこまれたハードボイルドストーリー GOOD ハードボイルドな物語、多種多様な脱獄方法・エンディング1匹1匹の個性がわかるバックボーンの作り込み、またそれを支えている丁寧な翻訳刑務所内で繰り広げられる群像劇、キャラ同士の会話に耳を傾けることでわかる BAD 時として単調に感じるおつかいクエスト周回が魅力の一つなのに、周回において中だるみがあることも否定できない字幕と音声が一致していないところがある
