「パラノマサイト FILE38 伊勢人魚物語」

 この時を首を長くして待っていた。スクウェア・エニックスより、Nintendo Switch/Android/iOS/PC用ミステリーアドベンチャー「パラノマサイト FILE38 伊勢人魚物語」(以下、「伊勢人魚物語」)が2月19日、ついに発売される。

 2023年に発売され、その圧倒的なシナリオの完成度と、昭和レトロな雰囲気、そして「呪殺バトル」という斬新なシステムでアドベンチャーゲーム界隈を震撼させた傑作「パラノマサイト FILE23 本所七不思議」(以下、「本所七不思議」)。Switchなど今作と同様のプラットフォーム向けにリリースされ口コミで評判が広まり、またたく間に多くのファン(筆者含む)を沼に突き落とした。あの衝撃から、今回満を持して発表されたシリーズ最新作。舞台は東京・錦糸町から神話と伝説の地・伊勢へ、そしてテーマは「本所七不思議」から「伊勢人魚物語」へ。

 「またあのヒリヒリするような呪い合いができるのか!」という興奮と、「今度は一体どんな地獄(褒め言葉)を見せてくれるんだ」という期待で、発売日まで夜しか眠れない日々を過ごしてきた。本稿では、そんな期待度MAXでプレイした「伊勢人魚物語」のレビューをお届けしたい。

 前作とはまた違ったベクトルで攻めてきたシナリオ、美しくも不気味な伊勢の風景、そして何よりキャラクターたちの関係性が、あまりにも“濃密”すぎる。なお、本稿では物語の核心に触れるネタバレは避けているが、ゲームのシステムや雰囲気、キャラクターの魅力については触れていくので、できるだけ情報を入れずにプレイしたい方は注意して読み進めてほしい。

【『パラノマサイト FILE38 伊勢人魚物語』プロモーション映像】

まずは前作「本所七不思議」をサクッとおさらい

 新作の話をする前に、偉大なる前作「本所七不思議」について、ほんの少しだけ触れておこう。前作は、昭和後期の墨田区・本所(錦糸町駅近辺)を舞台に、「蘇りの秘術」を求めて「呪いの力」を手に入れた様々な世代の男女が、それぞれの思惑で殺し合う群像劇だった。

 360度見渡せる全天球背景による臨場感、昭和レトロな空気感、そして「条件を満たした相手を呪い殺す」という緊張感あふれるシステムが特徴。何より、プレーヤーを驚かせるメタフィクション的な仕掛けや、魅力的なキャラクターたちが織りなすドラマは、多くのアドベンチャーゲームファンを唸らせた。

 「伊勢人魚物語」は、その「パラノマサイト」シリーズの系譜を受け継ぐ完全新作だ。ストーリー的な直接の繋がりはほとんどないと言っていいため、本作から始めても全く問題はない。だが、前作をプレイしているとニヤリとできる小ネタやシステム的な勘が働くので、余裕があれば前作からのプレイも強くおすすめしたい。

最初に前作のプレイ/未プレイを「案内人」に聞かれる。今回「知っている」を選んだところ、「以前にもお会いしましたね」と言われた。「知らない」を選ぶと前作のプレイを勧めてくる基本システムは「安心と信頼」の前作踏襲! 360度の伊勢を探索しよう

 ゲームシステムに関しては、基本的に前作「本所七不思議」を踏襲している。これには「変に変えなくてよかった!」と安堵したファンも多いのではないだろうか。かくいう筆者も「ああ、あのパラノマサイトだな」としみじみしたものだ。(実はしみじみするほどの月日も経っておらず、筆者はSwitch版とiOS版の両方を所持しているので、思い出すたびにプレイしているのだが)

 プレーヤーは、画面内の怪しい箇所をクリック(タップ)して調べていく「ポイント・アンド・クリック」形式のアドベンチャーゲームとして、物語を進めていく。

 本シリーズの最大の特徴である「360度パノラマ背景」はもちろん健在だ。今回は舞台の中心が伊勢にある架空の孤島「亀島」ということで、背景は海を中心としたものが多くなる。

物語の始まりも海上から。人魚を題材をしているだけに、必然的に海は物語に深く関わってくる

 波が打ち寄せる砂浜、昭和を思い起こすどこかさびれたような漁師町。視点をぐるりと回せば、そこに広がるのは70年代産まれの筆者の世代ならばどこか見慣れた日本の風景。だが、そこには常に「何かがいるかもしれない」という不穏な空気が漂っている。美しいのに、怖い。この絶妙なバランス感覚は、さすが「パラノマサイト」チームと言わざるを得ない。

どこか懐かしさが漂い、漁師が集う「亀島」。物語に出てくるのは海女(あま)を営んでいる人が多い

 ちなみに前作では会話の中に紛れ込んだ違和感から呪いの条件を満たさないように立ち回るヒリついた駆け引きが中心となっていたが、本作ではあのホラー要素はだいぶ薄れた。実際、呪詛バトルは本作ではほとんど登場しない。物語の中心人物が呪詛珠を持っていた前作とは異なり、本作ではあくまで人魚にまつわる様々な伝説について追っていくという形になる。

 その中で「あれ? 今の話って別の主人公で出てきたあの話のことだよね?」、「この人とこの人の話を統合すると、こういう結論ってこと?」という、そんな暗中模索に陥りながらシナリオを繋ぎ合わせていく面白さは、前作譲り。むしろ、このシナリオから徐々に明かされていく真実の解明こそが、本作の最大の魅力とも言えるだろう。

 UI周りも前作同様に洗練されており、ストレスなく物語に没頭できるのも嬉しいポイントだ。個人的にはゲーム開始時点でコントローラの設定ができるようになったのが嬉しい。

今回はSwitch版をプレイしているが、カメラの上下左右反転はもちろんのこと、決定ボタンをAにするかBにするかも選べる「ホラー」から「伝奇ミステリー」へ。恐怖よりも物語の深淵に触れる

 さて、実際に遊んでみて感じた前作との最大の違い。それは「恐怖の質」の変化だ。

 前作「本所七不思議」は、夜の公園や学校など、ロケーション自体が持つ不気味さも相まって、急に驚かせる演出や、生理的な嫌悪感を催すような「直球のホラー要素」が強かった。夜中に一人でプレイしていて、トイレに行くのが怖くなった人もいるだろう。

 対して今回の「伊勢人魚物語」は、前述の通りホラー要素自体は控えめになっている印象を受けた。もちろん、不気味なシーンやドキッとする演出はある。あるのだが、それ以上に強く前面に押し出されているのが人魚に関わる悲哀や因縁といった、重厚な「伝奇ミステリー」としての側面だ。

もちろん本作でも惨殺的なシーンはあるのだが……

 それよりも「人魚の肉を食べると不老不死になる」という古くから日本に伝わるこの伝説をベースに、伊勢志摩という土地ならではの歴史が絡み合い、物語は予想もしない方向へと転がっていく。

呪いによって次々と殺されていく島民たち。この惨劇から島を救うのが本作の主目的となる

 怖くて叫ぶ、というよりは、じっとりと肌にまとわりつくような湿度の高い物語。真実が明らかになるにつれて、心の中は切なさややりきれなさへと変わっていく。

伊勢志摩地方で繰り広げられる人魚にまつわる様々な事件。そしてこの物語は最後の最後で思ってもいなかった方へと舵を取ることになる

 筆者は終盤のとあるシーンで、あまりの悲しさにボロボロと涙を流してしまった。ミステリーアドベンチャーでこんなに泣かされるなんて驚きでしかない。

 今更であるが、本作はいわゆるムービーシーンと言われるようなものはほとんどない。基本、背景+立ち絵、表情差分というシンプルな構成のゲームである。それでも、文章と各キャラクターの絵で感情の爆発が充分に描き切れており、比較的低予算なゲームでここまでのものが作れるのかと改めて感動した次第だ。

 「怖いのは苦手だけれど、ミステリーや物語を楽しみたい」という人には、むしろ前作よりも今作の方がおすすめかもしれない。逆に「心臓が止まるような恐怖を味わいたい!」というガチのホラーファンには少し物足りないかもしれないが、それを補って余りあるストーリーの牽引力があることは保証しよう。

 もちろん、「ただ読み進めていくだけのミステリー」ではなく、ゲームとしての面白さもきちんとある。ところどころで「プレーヤーへの挑戦」と言わんばかりに、ここまでの物語をどこまできちんと把握できているかのようなテキストの入力を求めるシーンもある。必要な情報は「資料」欄にあるので、わからなくなった時はじっくり資料を読み返してみてほしい。

必要な情報は必ず過去の物語及び資料で語られている。もちろんそこからの推理力も必要だが、そこまで高度な推理は求められないので、難易度としてはそこまで高くないと言っていいだろう謎解きでわからなくなった時はその場にいるキャラクターに話しかけることによってヒントを得られたりする場合もある。左下の「考える」コマンドはいつでも出現するわけではないが、場合によっては試すことも必要だ10~15時間という、忙しい大人に優しい絶妙なボリューム感

 クリアまでのプレイ時間は、およそ10時間から15時間程度。(ぶっちゃけ、非常に詰まってしまう場面があり、筆者は結末に辿り着くのにそこそこ時間がかかったのだが、詰まることがなければ12時間もあれば終わりそうである)これは前作「本所七不思議」とほぼ変わらないボリュームだ。

 「最近の大作RPGは100時間越えが当たり前で、クリアする前に疲れてしまう……」という、そんな忙しい現代人の皆さん、安心してほしい。このゲームは、週末にがっつりプレイすればエンディングまで辿り着ける、非常に手ごろなサイズ感なのだ。

 だが、ボリューム不足などとは微塵も感じさせない。無駄な引き延ばしがなく、密度が濃い。すべてのテキスト、すべてのシーンに意味があり、怒涛の展開が続くため、体感時間はあっという間だ。「やめ時が見つからない! 気づいたら朝だった!」という、あの没入感を再び味わえる。

 そしてクリア後の満足感と、「良い物語を摂取した」という充足感は、何十時間分ものゲームに匹敵する。社会人ゲーマーの筆者にとって、質の高い中編という立ち位置は本当にありがたい。暴論なのはわかっているのだが、全ゲームこの長さでこの満足感を得られてほしいとしみじみ実感する。

ボイスがないのでさくっと読みやすいというのはある公式が最大手!? キャラクターたちの関係性が尊すぎてしんどい

 さて、ここで主要キャラクターを紹介する。ここからが本稿のメインディッシュと言っても過言ではない。

 「パラノマサイト」シリーズの魅力、それは一癖も二癖もあるキャラクターたちだ。前作でも、津詰警部と襟尾刑事の相棒コンビや、マダムこと志岐間春恵とプロタン(プロの探偵の略らしい)こと櫂利飛太の凸凹コンビ、ミヲちゃんと約子ちゃんの友情コンビなど、キャラクター同士の関係性が多くのファンを狂わせた(良い意味で)。

 だが、今作「伊勢人魚物語」はその傾向がさらに強まっている。 ハッキリ言おう。公式が、狙ってやっている。性別年齢を問わず、特定のキャラクター同士のコンビを意識させるような描写や展開が、これでもかと盛り込まれているのだ。

 本作のベースの主人公となるのは、水口 勇佐(みなくち ゆうざ)。亀島に住む、真面目でマイペースな少年で、5年前の海難事故で両親を亡くしており引退した祖母を継いで海女をはじめた。

水口 勇佐(みなくち ゆうざ)

 勇佐のパートナーとなる幼馴染は、雲居 アザミ(くもい あざみ)。勇佐の幼なじみで、親友。亡き父の漁船を継いで、漁師をしている。勇佐のことをとても信頼している。

雲居 アザミ(くもい あざみ)

 白浪 里(しらなみ さと)は、数カ月前に亀島に流れ着いた、謎の少女。どうやらその時のショックで記憶を失っているようだ。テレビが大好きで、テレビから最近の情報を仕入れている。

白浪 里(しらなみ さと)

 沫緒 つかさ(あわお つかさ)は、亀島で生まれ育った、明るく活発な少女。今は高校に通うため本土に下宿している。勇佐やアザミとは、幼なじみ。夏休みの帰省中に、里と仲良くなった。

沫緒 つかさ(あわお つかさ)

 アルナーヴ・バーナムは、ロマンを求めて来日中のアメリカ人。本業はファンタジー作家兼オカルトライター。伊勢志摩で人魚を探している。愛称は「アヴィ」。

アルナーヴ・バーナム

 キルケ・ルナ―ライトは、悪魔祓い師(エクソシスト)の少女。イギリスの名家の出身で、日本に留学中。日本の伝承やオカルトについて詳しいため、親戚のアヴィの依頼でガイドを務めている。

キルケ・ルナ―ライト

 志貴 結命子(しき ゆめこ)は自称・東京の主婦。主婦であることに異様なこだわりがある。何やら目的があって調査をしている。

志貴 結命子(しき ゆめこ)

 霧生 双奴(きりゅう そうど)。結命子の助手を務める青年で、結命子と調査を共にする。

霧生 双奴(きりゅう そうど)

 ……と、メインに登場するキャラクターは、大体何かしら二人一組で登場する。勇佐には幼馴染のアザミが、里には島で親友のように仲良くなったつかさが、アヴィにはキルケが、結命子には双奴という相棒がいるのだ。

 そんな彼ら、彼女らの間に流れる感情は、単なる「友情」や「恋愛」といった言葉では括れないほどに巨大で、複雑だ。互いに背中を預け合い、時には激しくぶつかり合い、それでも相手を信じて命を懸ける。そんなクソデカ感情の応酬を浴びせられ、筆者の情緒は何度も崩壊した。

 特に筆者が推したいのは、とあるふたりである。ネタバレになるので、名前は一切出せないのだが、最初は反発しあっていた二人が互いに想い合うようになっていく過程。これを見て、「尊い……」と呟かない人間がいるだろうか? いや、いない。あまりに尊すぎて、プレイ中に何度かSwitchを置いて天井を仰いだ。神様、ありがとう。スクエニ様、ありがとう。シナリオ担当で本作のディレクターの石山貴也氏、ありがとう。

 前作以上にキャラクター同士の関係性が強化されており、キャラクターたちの掛け合いを見ているだけでも楽しい。そして彼らを待ち受ける運命に涙したり、笑ったり、これこそが「パラノマサイト」シリーズの真骨頂なのだ。

自分のことを「茂野尻 識子(ものしり しきこ)」と言うなど、清楚そうな見た目と違って茶目っ気たっぷりな里。実は勇佐なども物語の主人公とは思えないような軽口を叩くタイプだったりするアヴィは地味に顔芸(?)が面白い。その首の傾げ方はなんなの、というツッコミを入れたくなる。キャラクターデザインは今作でも続投の小林元氏。きっとアヴィの顔芸とかはノリノリで描かれていたのだろうと想像してしまう(もしかしたらあまりのへんてこぶりに生みの苦しみのほうが強かったかもしれないが)音楽もやっぱり最高! 伊勢の空気を震わせる旋律

 前作に引き続き、音楽も素晴らしい。

 昭和レトロでジャジーな雰囲気が強かった前作に比べ、今作はより神秘的なサウンドが特徴的だ。そしてそこに静寂を彩る環境音もが一体となって、伊勢という土地が持つ神聖さと、そこに潜む禍々しさを見事に表現している。

 特にクライマックスで流れる楽曲は、鳥肌モノだ。運命に抗おうとするキャラクターたちの叫びとリンクするように、哀切なメロディが流れ出す。サントラが出たら即買い決定である。

音楽も前作に引き続き岩崎英則氏によるもの。筆者の大好きな作曲家のひとりである呪いと絆の物語を、今すぐ体験してほしい

 「パラノマサイト FILE38 伊勢人魚物語」は、前作の良さをそのままに、舞台とテーマを一新することで新たな魅力を開花させた、正統進化と呼べる傑作だ。

 ホラー要素が苦手で前作を敬遠していた人も、今作の「切ない伝奇ミステリー」ならきっと楽しめるはず。そして何より、キャラクターたちの濃密な関係性に飢えている人には、これ以上ないご馳走となるだろう。

 10~15時間というコンパクトな旅路の中に、忘れられない感動と衝撃が詰まっている。ホラーゲームで感動するという時点で色々察してほしい。語りたいけど語れない苦悩がここにある。

 伊勢の海を巡る人魚伝説の真実を、ぜひあなたの目で確かめてほしい。この物語はプレーヤーの心を、きっと深く深く突き刺すことだろう。

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