半導体大手AMDの2025年第4四半期決算説明会は、単なる財務報告の場を越え、世界のゲームプラットフォームの勢力図を塗り替える歴史的な転換点となった。CEOのLisa Su博士は、長らく憶測の域を出なかったMicrosoftの「次世代Xbox」の発売時期が2027年になること、そしてValveが展開する「Steam Machine」が2026年早々に出荷を開始することを事実上認めた。

今回の発表は、現行のコンソールサイクルが第7年目という「成熟期」から「衰退期」への移行局面にある中で、AMDがいかにして次の成長エンジンを設計しているかを浮き彫りにした。

コンソールサイクルの終焉と「次世代」への助走

AMDの2025年通期決算は、売上高346億ドル(前年比34%増)という驚異的な数字を記録した。しかし、その輝かしい成長の影で、ゲーム部門を含むセミカスタムSoC事業は明確な踊り場を迎えている。Lisa Su氏は「2026年のセミカスタムSoC収益は、コンソールサイクルの第7年目に入るため、2桁台の大幅な減少を見込んでいる」と明言した。

PlayStation 5やXbox Series X|Sが登場してから丸5年以上が経過し、市場は飽和状態にある。需要の減退は不可避であり、AMDにとっては、次なるシリコンの需要を創出する新たなハードウェアの登場が急務となっている。その回答こそが、2026年のSteam Machineであり、2027年の次世代Xboxである。

特筆すべきは、今回の決算説明会において、AMDの長年のパートナーであるSonyの「PlayStation 6」に関する言及が一切なかったことだ。これは、Sonyが少なくとも2028年以降まで次世代機を投入しない可能性を示唆しており、Microsoftが先行して次世代市場を掌握しようとする戦略的意図が透けて見える。

2027年の衝撃:次世代Xbox「Magnus」の技術的野心

Microsoftが準備を進めている次世代Xbox(開発コードネーム:Magnus)は、従来のゲーム機の概念を根底から覆す「プレミアムなハイブリッド体験」を目指しているようだ。Lisa Su氏のコメントによれば、AMDのセミカスタムSoCの開発は2027年のローンチに向けて順調に進んでいるという。

Zen 6とRDNA 5:シリコン・パラダイムの刷新

最新のリーク情報とAMDのロードマップを統合すると、次世代Xboxに搭載されるSoCは、TSMCのN3Pプロセスノードを採用したチップレットデザインになると予測される。

CPUアーキテクチャ(Zen 6):次世代機にはAMDの次世代コア「Zen 6」が採用される見通しだ。構成としては、高性能なZen 6コア3基と、効率性を重視したZen 6cコア8基を組み合わせた合計11コア構成が有力視されている。これにより、バックグラウンド処理の最適化と、ゲーム実行時の圧倒的なスループットを両立させる。

GPUアーキテクチャ(RDNA 5):グラフィックスエンジンには、現行のRDNA 3を2世代飛び越えた「RDNA 5」が搭載される。68基のコンピュートユニット(CU)と4基のシェーダーエンジンを備え、レイトレーシング性能とラスタライズ性能の双方で劇的な飛躍を遂げる。特に、ハードウェアレベルでのAI推論アクセラレータの強化が、後述するアップスケーリング技術の鍵となる。

メモリと帯域幅:192-bitバスで接続される48GBのGDDR7メモリの採用が噂されている。現行機の16GBから3倍の増量となり、より高精細なテクスチャや、広大なオープンワールドのシームレスな読み込みを可能にする。

AIとレイトレーシングの融合

AMDが第4四半期に投入した「FSR 4 Redstone」は、完全にAIベースのアップスケーリング技術へと進化した。次世代Xboxでは、SoC内に統合された強力なNPU(最大110 TOPSの処理能力と推定)を活用し、AIによる画質補完とフレーム生成を標準機能として提供するだろう。これにより、ネイティブ解像度に頼らずとも、8Kに近い視覚体験や、120fpsを超える高フレームレート環境が現実のものとなる。

「Xbox Ally」から見える、コンソールとPCの境界消失

Microsoftのゲーミング担当CEOであるPhil Spencer氏や、プレジデントのSarah Bond氏の発言からは、次世代Xboxが「PCとコンソールのハイブリッド」になるという明確なビジョンが読み取れる。

Sarah Bond氏は10月の発言で、次世代機が「非常にプレミアムで、高度にキュレーションされた体験」になると語った。これは、単にゲームをプレイする機械ではなく、Windowsエコシステムと深く統合され、場合によってはSteamなどの外部プラットフォームのライブラリをも飲み込む可能性を示唆している。

実際、MicrosoftはXbox開発キットのソフトウェアアップデートを通じて、PCとコンソールのハイブリッド機能をテストしている形跡がある。ASUS ROG Ally XなどのハンドヘルドPCでの成功を「Groundwork(土台作り)」と位置づけている点は非常に重要だ。2027年のXboxは、据え置き機でありながら、PCの汎用性とコンソールの最適化されたユーザー体験を完全に融合させた、全く新しいカテゴリーのデバイスになるだろう。

しかし、この高スペック化はコストに跳ね返る。Magnus SoCの製造原価(BOM)は非常に高く、最終的な製品価格が1,000ドル(約15万円)を超えるという予測も現実味を帯びている。Microsoftは、普及価格帯のモデルと、エンスージアスト向けの超ハイエンドモデルの2ライン展開を模索している可能性が高い。

2026年Q1:Valveの反撃とSteam Machineの再臨

Microsoftが3年後の未来を見据える一方で、Valveはより近い将来に照準を合わせている。Su氏は、AMD製のセミカスタムSoCを搭載したValveの新しい「Steam Machine」が、2026年早々に出荷される予定であることを公式に認めた。

リビングルームの再定義

かつてのSteam MachineはOSの未熟さとハードウェアの乱立により失敗に終わった。しかし、Steam Deckでの成功を経て、Valveは「SteamOS」という強力な武器を手に入れた。新しいSteam Machineは、以下のスペックを備えた「4K対応のミニゲーミングPC」になると見られている。

SoC: カスタムのZen 4 CPUとRDNA 3グラフィックスを搭載。

メモリ: 16GBのシステムRAMに加え、VRAM専用に8GBを確保した構成。

性能目標: Valveによれば、既存のゲーミングPCの70%と同等、あるいはそれ以上のパフォーマンスを発揮し、リビングルームでの4Kゲーミングをターゲットとする。

経済的課題:メモリ危機の影響

Su氏も決算説明会で触れた通り、現在、半導体業界はメモリ価格の高騰という深刻な課題に直面している。特にDRAMとHBM(高帯域幅メモリ)の供給逼迫は、ハードウェアの価格設定に直結する。

当初、Steam Machineはコンソールに対抗しうる戦略的な価格設定が期待されていたが、最新の予測では、512GBモデルが950ドル、2TBモデルが1,070ドル程度になると囁かれている。これはコンソールとしては高価だが、同等の性能を持つスモールフォームファクタ(SFF)PCとしては競争力がある。Valveはこのデバイスを「コンソールの代替品」としてだけでなく、「最も手軽なハイエンドPC」として位置づける戦略だ。

AMDの二重戦略:データセンターの知見をコンソールへ

Lisa Su氏が率いるAMDの真の強みは、コンソール向けチップの開発が、同社の主力事業であるデータセンター向けAIアクセラレータ(Instinctシリーズ)の開発と密接にリンクしている点にある。

決算説明会でSu氏は、次世代AIアクセラレータ「Instinct MI400」シリーズや、2027年投入予定の「MI500」について詳細に語った。MI500はCDNA 6アーキテクチャを採用し、2nmプロセスで製造される。ここで培われる2nmプロセスの知見や、チップレット間接続技術、そして高度なメモリ制御技術は、そのまま2027年の次世代Xbox向けSoCへとフィードバックされる。

つまり、次世代Xboxは「世界最強のAIサーバーのサブセット」をリビングルームに持ち込むことに他ならない。コンソール側でのエージェント型AI(Agentic AI)の実行や、動的なゲーム内世界の生成など、クラウドを介さないローカルAI体験において、AMDのシリコンは決定的な役割を果たすことになる。

なぜMicrosoftは「2027年」を選んだのか

Sonyが沈黙を守る中で、Microsoftが2027年という、現行機からわずか7年でのリプレースを急ぐ理由は、同社のビジネスモデルの転換にある。

ハードウェア販売からエコシステム利用へ:Microsoftはすでに「ハードウェアで赤字を出し、ソフトで回収する」モデルから脱却しつつある。Sarah Bond氏が語る「プレミアムな体験」への移行は、ハードウェア単体での収益性を確保しつつ、Game Passを中心としたサービスへのゲートウェイとしての価値を最大化することを意味する。

停滞するコンソール市場の打破:決算説明会でのJean Hu氏(CFO)の報告によれば、Xboxのハードウェア収益は前年同期比で32%も減少している。現行機のライフサイクルを引き延ばすことは、もはや経営的な正解ではない。2027年に「PC/コンソール・ハイブリッド」という新機軸を打ち出すことで、ゲーミングPC市場のユーザーをXboxエコシステムに引き込む狙いがある。

ハンドヘルド市場への布石:Su氏は「living room and in your hands」という表現を用い、Microsoftとの提携が据え置き機だけでなく、ハンドヘルドデバイスをもカバーしていることを強調した。2027年には、据え置きの次世代Xboxと同期する、AMD製SoCを搭載した「純正Xboxハンドヘルド」が登場する可能性は極めて高い。

ゲーミングの未来を支配するシリコンの覇権

AMDの2025年Q4決算は、同社が単なるチップベンダーではなく、ゲーミングの未来を設計するアーキテクトであることを証明した。

2026年のValveによるリビングルームへの再挑戦(Steam Machine)、そして2027年のMicrosoftによるコンソール概念の破壊(次世代Xbox)。これら全ての背後には、AMDのZenコアとRadeonグラフィックス、そしてAIを司るNPUが控えている。

ハードウェアとしての「Xbox」は、特定の箱を指す言葉から、AMDのシリコンによって担保される「どこでも、最高の品質で、PCと境界なく遊べるプラットフォーム」へと昇華しようとしている。Lisa Su氏が語った「マルチイヤーのデマンド・スーパーサイクル」は、データセンターだけでなく、我々のリビングルームにおいても、今まさに幕を開けようとしているのだ。

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