2025年10月からフジテレビほかで放送中のアニメ「破産富豪 The Richest Man in GAME」。同作でリン・ワンを演じる声優の高野麻里佳さんを招いて行ったゲーム座談会の模様をお届けする。
アニメ「破産富豪 The Richest Man in GAME(以下、破産富豪)」は、中国の配信サイトbilibiliで人気を博した作品の日本語吹き替え版。大学生にタイムリープした主人公のペイ・チェンが、財産変換システムと名乗るリッチェストからの資金提供を受けて、とある理由から赤字を出すゲームを作ろうと画策していく物語が描かれる。

高野さんが演じるのは、そんなペイ・チェンの会社に入社してくるヒロインのリン・ワン。今回は彼女のキャラクター性や本作の魅力を掘り下げつつ、ゲーム好きで知られる高野さんと、Gamer編集部のTOKEN、そしてライターの小林白菜、胃の上心臓の計四人での座談会を実施することとなった。
高野さんが演じるリン・ワン
とはいってもさすがはゲーム好きの高野さんなので、我々が何かするまでもなく、次々とさまざまなタイトルを挙げてその魅力を語りつくしてくださった。後半では「破産富豪」の魅力にも触れていただいているので、ぜひ作品を知ったり、振り返ったりする際の一助としてご一読いただければ幸いだ。

制作協力:株式会社フジテレビジョン
高野さんを唸らせた「ポケモン」シリーズのタイトルとは!?
TOKEN:まずは、高野さんとゲームの出会いから伺えますでしょうか。
高野:生まれてから気が付いたら、一番身近にあった最初の娯楽がゲームでした。そんなタイミングから触っていたと思うのですが、おそらく最初に遊んだのはスーパーファミコンの「ぷよぷよ通」でしたね。
あの頃のゲームのボイスって「ぷよぷよ」ならコンパイル(当時)の制作者さん、社員さんが入れていたじゃないですか。それもめちゃめちゃ面白かったし、その独特なイントネーションの加減とかが凄く脳裏に焼き付いていて。そういう「あれ好きだったんだよな」っていうのを理解し合えるリー・シー役の杉田智和さんとかと一緒に言い合ったりしています。
小林:対戦前に入るちょっと一言的なボイスですよね。
高野:「アイスストーム!」のような掛け声もなんだか初々しく可愛くて、それぞれ癖も強かったですが大好きでした。杉田さんは本作にも出演されているのですが、今回は収録でお会いする機会がなく残念でした。こんなにもゲーム好きで豪華なキャスト陣が集まっていたけれど、中々スケジュールがあわなかったんです。だけど、今振り返ってみると現場では本当にゲームの話題が尽きることはありませんでした。
小林:最初に遊んだのが「ぷよぷよ」というのは意外でした。
高野:「ぷよぷよ」はまだ小学校にも上がっていない頃の記憶で、パズルゲームが一番最初だったっていうのをよく覚えていたんです。
TOKEN:親御さんもゲーム好きな方ですか?
高野:お父さんが好きで、だからスーパーファミコンが家にあったんだと思います。「パロディウス」があったことは覚えているのですが、子供と遊べるソフトが多かったことは感じます。私の家は三姉妹だったからなのか、「美少女戦士セーラームーン」の対戦格闘ゲームもその中にあって。今だと私の周りでは「あったよね?」って聞いても「え?」みたいな反応をされるから、都市伝説なのかと思っていたんですが……ありましたよね?
TOKEN:スーパーファミコンでいくつかの作品が発売されています。
高野:よかった……安心しました! やっぱりゲーム媒体の方はご存じなんですね。
TOKEN:ですが、このあたりのタイトルはもう少し世代的にも上の方たちが遊んでいるような印象がありますね(笑)。
高野:そうですよね。私は保育園の頃にはもうそれが家にあったので、やっていた形になると思います。状況が揃っていたから触れられたのだと思いますし、だからこそゲーマーに育ちました。
小林:高野さんの年代だと、やっぱり「ポケットモンスター」などのタイトルが一番に上がるものだとばかり思っていました。
高野:「ポケモン」はもちろん触っていましたよ! 三人姉妹で赤、緑、青を買ってもらって、私は「ポケットモンスター 青」でした。確か何かの限定版でしたよね?
TOKEN:コロコロコミックでの限定販売でした。
高野:その後、「ポケットモンスター ピカチュウ」も遊びましたし、私の世代から始まったようなタイトルなので、ずっとやり続けています。本当にハードからソフトまで、ずーっと「ポケモン」は寄り添ってくれているような感覚があります。
小林:全てのバージョンが家にあったのは凄いです。特に印象的だった「ポケモン」のシリーズ作品もお教えください。
高野:8bitのドットが好きなので、作品的にはゲームボーイの「ポケットモンスター 金・銀」が好きです。だけど、忘れられないのは「赤・緑」のシオンタウンに入った時のBGMなんです。シオンタウンという場所そのものがポケモンのお墓を建てていたり、ご先祖様を祀っていたりするところなので、ちょっと静かな雰囲気が漂っていて。だけど、そこに入った瞬間に突然、ホラーのような不協和音のようなBGMが流れ出す……。
とっても小さな町なのですが、素早く通り過ぎるためにはどうしたらいいのかをよく考えていました。だから、シオンタウンへ向かう道に入るまでに「よし、じてんしゃに乗ったとか」「あのルートでこうやって通り過ぎよう」と頭の中でシミュレーションして、極力長居しないようにしていました。
ですがああいうBGMが今でも耳に残っているとか、あの町にはこういう思い出があると語れるのは、本当にその作品が作り込まれていて、秀でていたことの証拠だと思います。だから私は「赤・緑」のシオンタウンが忘れられません。
後は「ポケットモンスター ルビー・サファイア」のひみつきちも好きでした。色々な場所にひみつきちを作れる穴があって、インテリアとかを置けるんです。場所ごとに間取りも違うので、狭い一本道の廊下だからドレミファソラシドの順に音が鳴るマットを置いたら歩いた時に気持ち良いよねとか、そういうことを考えるのが楽しかったなって。
小林:最近のシリーズ作品はどんなタイトルで遊んでおられますか?
高野:「Pokémon LEGENDS アルセウス」は感動しましたね。私の中のポケモン史が凄く覆されました。これまではゲットしたポケモンと一緒に旅をするというのが当たり前だったのに、この作品のポケモンたちは当初謎の生物という立ち位置で、そんな存在と人間たちが出会ったところから物語が始まるんです。
人間とポケモンとがどうやったら共存できるのか、ある意味敵同士な状態からのスタートなのが新鮮で。会話もできない相手とどうやったら歩み寄れるのかというところで、互いに少しずつ助け合って敵ではないことを理解し合っていく。
そこから人間同士の村が広がっていくような感覚を人間とポケモンとの間で感じられたので、そういうシミュレーションゲームもありじゃないかと考えさせられたり、さすがは株式会社ポケモンだなと思ったりしました。まだまだ「ポケモン」というタイトルに可能性を感じさせてくれたなって思っています。
小林:「ポケモン」というタイトルひとつでここまでお話を広げていただけるなんて、驚きました。「Pokémon LEGENDS アルセウス」は過去の物語でしたが、この作品の主人公たちが頑張ったから今の人間たちがポケモンと仲良くやれている感じがありましたものね。
高野:そうなんです。最新作の「ポケットモンスター スカーレット・バイオレット」にも繋がっているのですが、そちらの登場キャラクターのご先祖様たちらしきキャラクターが「アルセウス」にいるんですよね。だから、ご先祖様たちがポケモンたちと仲良くなれていなかったら、「ポケットモンスター スカーレット・バイオレット」は生まれていなかった。そういう過去の伏線をタイトルを超えて回収することもあって。
今までは「ポケモン」でそんなことはしなかったんです。ちょっとずつ世界が繋がっているんだろうなっていうことを匂わせはしても、伏線をひとつのタイトルに残していくことはそんなになかった。それが感じられたのが、最近のタイトルたちでした。
ひとつのタイトルを遊んだら物語が一段落するのが今までの「ポケモン」で、それでしっかり満足感をもたらせてくれていました。だけど、大人たちは意外と伏線とかが大好きじゃないですか。ちょっとした違和感や何かを触ったら回収できるんじゃないかと期待させる伏線を見つけてしまうと、もうひとつタイトルを買ってしまいますし。そういう心をくすぐってきたのが最近の「ポケモン」だなって思っています。
TOKEN:他にも印象に残っているタイトルはありますか?
高野:「牧場物語」や「戦国無双」に乙女ゲーム、RPGだったら「ドラゴンクエスト」シリーズや「ファイナルファンタジー」シリーズでしょうか。後は「大神」には感銘を受けました。後は侍っぽいゲームだったら「SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE」もやりましたけれど……流石にコンプリートまではできなかったですね。でも「Ghost of Tsushima」はちょっと柔らかいゲームだったのでクリアできました。後はちょっと古い作品なのですが、アクワイアさんの「侍道3」は神ゲーだと思っています。
小林:以前、ラジオ「高野麻里佳のスーパーマリカクラブ」で話題に上がっていましたね。
高野:そうなんです。だけど動画内のコメントで「侍道」なら「2」だろう、「4」だろうと作品によって派閥に分かれることがあったので、ちょっと一回話し合おうかという気持ちではありました。やっぱりみんなが本当に好きだからこそ、ナンバリングタイトルの中でもあれが好き、これが好きって別れる。私としては喧嘩ではなくて、凄く面白い話を一緒にできる人が居る……っていう確認ができるのが嬉しいんです。自分のフィールドにいなかった人たちと中々できないようなおしゃべりができることが、最近のSNSの良いところだなって。
「ファイナルファンタジーX」は自身の人格形成にも大きな影響を受けた
TOKEN:お一人ずつにお聞きするのですが、これまで遊んだタイトルの中で、自分にとって一番だと言えるタイトルをあげるならどの作品になりますか?
高野:「ファイナルファンタジーX」ですね。以前、NHKで放送された「発表!全ファイナルファンタジー大投票」で第1位になった時は、「みんな選んでくれてありがとう……同じ気持ちだったんだね!」と思って大拍手でした。色々なタイトルを遊んでこれ好きだな、あれも好きだなってなりましたが、私は「FFX」に出会ったおかげでゲーム好きになったんだと思うくらいです。
2002年当時はまだブラウン管テレビにPS2でしたけれど、こんなにも美しい映像で物語が描かれる、ゲームってこんなにも可能性を秘めているんだっていう感動に震えてしまいました。「世界一ピュアなキス」っていうキャッチコピーと共に描かれたキスシーンがロマンチック過ぎて、どんな漫画からも味わえないようなものを体験した感覚もありましたね。
やっぱり女の子はおませさんだから、キスシーンがあるような漫画ってたくさん読むんです。だけど、私はあれを超えるピュアなキスを見たことがないと思ったくらい感動して、もう涙が出てしまいました。小学4年生くらいのことだったかと。
TOKEN:「FFX」と出会ったのがその頃だとすると、受けた影響も大きそうですね。
高野:しかも、「FFX」は恋愛要素だけではなくて、人種差別や戦争、宗教の違いなど深堀りすると現代社会でも当てはめられるようなことがたくさん含まれている。主人公のティーダをはじめとするパーティメンバー同士でもそういった対立があって、それをどうしていこうかって考えていくんですよ。
みんな一緒に同じ問題に直面するのではなく、違う悩みを抱えているからこそ衝突したりだとか。これまで生きてきた場所や時間が違い過ぎると、「お前は出ていけ」と言い放ってしまうくらい大きな喧嘩になってしまう。その現実に小さい頃の私は切なくなったんです。
その相手の人柄や信じているものを一緒に信じてあげられない辛さだったり、それこそ生まれを差別されてしまう悲しさだったり。そういうものを感じた時に、ただただショックでした。当時の私よりも大人……とはいえ彼らも10代後半の少年少女たちだったんですけれど、そんな高校生くらいの少年少女たちが、生まれや育ち、信じているもので本当に絶縁するかもしれないという喧嘩をしているのが苦しくて……。
それが判明する前はあんなに仲良く同じ目標を掲げていた人たちが、何かひとつを違えるだけで一生会えないかもしれない喧嘩をしちゃうなんて辛すぎる。そこで、どうにかしてこのパーティを続けていきたい、みんなの気持ちを守っていきたいと考えたのですが、ゲーム内でそこをしっかり回収してくれたことで私の人格形成もなされた気がしていて。
もし倫理観やモラルがちょっとズレている人がいたとしても、そういう人の話を1回ちゃんと聴いてあげたい。そして、なんで人と変わっていると言われるのか一緒に考えてあげたい。そう思うようになったのは、「FFX」のおかげだなって思っています。
TOKEN:やっぱりひとつを選ぶとなると、自分の人生にも影響を与えた作品になりますよね。「FFX」はその時の年齢や時代でも受け取り方が変わりそうですし。
高野:登場人物をここまで描いていたからこそですよね。例えばワッカなら「FFX」の世界で広く知られる宗教の教えにのっとって生きている。その宗教が機械を使うものは敵だと言っているから、機械を扱う人たちをみんな卑下していくんです。でも相手からすれば、便利になることの何がいけないのかがわからない。
パーティメンバーの中でも妹分的な立ち位置のリュックというキャラクターは、松本まりかさんが演じる今見ても本当に可愛らしいキャラクターで、誰かが困っているとすぐに駆けつけるような女の子なんです。だけど、彼女はアルベド族という機械を扱う種族で、そのアイデンティティの違いだけでワッカは否定してしまう。
そんな姿を見てワッカを嫌いになりそうだったのですが、最初にビサイド島でティーダを助けてくれたのもワッカだという事実があって。あんなに優しくしてくれた兄貴分みたいな人が、どうしてこんなにも怒るんだろうかということも気になりました。
TOKEN:基本的には良いやつですものね。
高野:だから私もワッカのことを信じていました。ワッカはあの世界のスポーツであるブリッツボールの大会に優勝することを目標に生きてきた人で、勝てるかどうかはプレイヤーの手に委ねられるのですが、最後の試合で優勝した時のワッカを見るとこいつが目標を遂げる瞬間を見届けられて良かったと純粋に思いましたし。
そこから次のもっと大きな夢を掴みにいく……そういうカッコよさや背負っているものの大きさを感じてカッコよく見えていたのに、そういう小さいことをする一面を知った瞬間に「あんなに良いやつだったじゃん」と思ってしまいました。だけどそうなる理由がちゃんとあって、人間らしさを感じたんですよね。
キマリがロンゾ族の間でツノなしと言われるようになった事件もめちゃめちゃ思い入れがありますし、「FFX」はキャラクターひとりひとりにドラマがあって、最終的にティーダと一緒に何を選び取るのか選択していく。最後の最後までよくやってくれたというか、大団円では終わらせないっていうことを感じさせられました。
最後に父親のジェクトとハイタッチしてティーダは消えていくのですが、エンディング後に海から出ようとするカットがあって。だけど、海面にでる寸前で終わるんです。その理由が気になって開発者インタビューをアルティマニアで読んだら、「あれは顔を出すシーンで終わらせても良かった」と書いてあって。
あそこで止めたのは、この先がどうなるのかわからないから。ティーダは本当にスピラという世界に戻ってこられたのか、また夢の世界なのか、それとも死後の世界なのか。そういった部分を、プレイヤーのみなさんに託すためだったんです。日本人ならではの情緒の部分に訴えるものだったので、私としては「答えを出してほしい!」と思いつつ、「ファイナルファンタジーX-2」に繋がっているからいいと思ったり。
TOKEN:今のお話を聞いて、自分も「FFX」をもう一度やらなきゃならないなと思わされました。
高野:やってください! 後は「クロノ・トリガー」も好きでしたね。
TOKEN:「クロノ・トリガー」は自分も小学生の頃に触って熱いドラマに惹かれて今も本当に好きなタイトルです。クロノが死んでからの流れとか、あの客観視しながらも主観的にも楽しめるRPGの良さが確かに詰まっていて。
高野:「クロノ・トリガー」はやっぱり、スクウェアとエニックスが初めて手を組んだと言えるドリームプロジェクトだったからこそ、おそらく主人公が喋らなかったんじゃないかと考えていて。私は「FF」を長く遊んでいる民なので、主人公が喋らないRPGというと「ドラゴンクエスト」だなっていうイメージで見ていました。
タイムリープものなので、未来を変えたいから過去に干渉していくハッピーなストーリーかと思いきや、何かを変えた代償がキッチリあって、それが人の命だったりする。誰かが救われたことで幸せになる人が出たりもするし、いたはずの人がいなくなったりもする。そういう業を背負いながら未来を変えていかなきゃならないんだって感じさせてくれたんです。
きっと小さい頃に遊んだらスカッとして終わっていたと思うんです。だけど、大人になればなるほど「あれ?ここにあったものはどうなったの?」って世界の異変に気付きやすい。全てを救える訳ではないけれど、その人の覚悟も背負って未来を変えにいく。たとえその人がいなくなってしまっても、その覚悟が胸に残っているという熱さがあって。それが旅をする理由になっていて、本当に重い作品だけど学ぶものがあるし出会えて良かったと思います。
TOKEN:過去と未来を行き来するからこそ、そこにドラマがちょくちょく差し込まれて心に沁みるような感覚があるんですよね。
高野:私は記憶力がなさ過ぎるので、「ここでこの人はこう言っていた」とか「この村のこの女の人はこうで」みたいなところを全部書きおこしながら遊びました。そのおかげで、未来に帰った時に変わった部分にちゃんと気付けました。
名前が変わっているとか、居場所が変わっているけれど必要とした人がここにいたとか、そういう伏線を回収するためにやっていたんですよ。これは書いておいて良かったなと後になって思いました。やっぱり昔のゲームは覚えておかなきゃならないことが多いので、あえてメモすることをやってみました。
TOKEN:小林さんと胃の上さんが1本選ぶとしたらどの作品になりますか?
胃の上:自分は高野さんとほぼ同じ世代なので、「FFX」のお話には共感しっぱなしでした。
高野:誰が好きでしたか?
胃の上:アーロンですね。
高野:みんなそう言うんですよ。「もう、おまえたちの時代だ!」ですよね。
胃の上:そうですそうです。それと、自分は「ディシディアファイナルファンタジー」のAC&NTのプレイヤーでもあったので、当時の配信などで語られていた「FFX」のお話をまたこういった機会に聴くことができてちょっと嬉しかったです。
高野:「ディシディア」は「ディシディア デュエルム ファイナルファンタジー」として生まれ変わりますが、私もアーケードの民として応援しています。後はアーロンの脇……ツルツルなんだって小さい頃から思ってたんですよ(笑)。
一同:(笑)。
高野:なんでおじちゃんなのに脇ツルツルなんだろう……お父さんと違うなって。でも、後々「ディシディア」のイラストか何かで登場した時も脇がツルツルだったので、「ああ、やっぱり」って思ったことを時を経て思い出しました。
胃の上:自分の妹も当時同じことを言ってましたよ。アーロンの脇がツルツルだって(笑)。
高野:本当ですか!? やっぱりそう思いますよね(笑)。ジェクトとアーロンの絡みは本当に最高ですし、「ディシディア」というタイトルが改めて発表された時には、またキャラクター同士の絡みが見られるんじゃないかと期待しました。
コンシューマーゲームだからこそ新規で追加ボイスがないので、アプリゲームはありがたいし、DLCもありがたい。もちろんリメイク版の制作にも感謝しかありません。だって、それらをやるとしても絶対に熱量が必要じゃないですか。なので、常日頃からゲーム会社さんありがとうと思っています!
小林:僕が多感な時期に遊んだ思い出深いタイトルは「ゼルダの伝説 風のタクト」でした。あの作品は等身大の少年が成長していく話が良かったと思いつつ、その思い出を超えてくれたのが「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」だという感覚があります。
当時はあの絵柄が賛否両論だったのですが、デフォルメされたからこそのギミックや攻略のためのヒントが隠されていたりする。あの絵柄がゲームプレイに繋がる工夫がなされていたのですが、それが「ブレス オブ ザ ワイルド」にも繋がっているように思えました。
高野:後々のシリーズ作品に繋がって、小さい子でもゲームを遊びやすいようになっている感覚はありますよね。「ゼルダの伝説」でいうと、私は「リンクの冒険」をNintendo Classicsで遊びましたよ。ちゃんと最初の頃の作品もやってみたいと思って始めたのですが、5時間やってもクリアできずに最初に戻されてしまいました。
それこそ「破産富豪」の序盤で描かれた「孤独の砂漠ハイウェイ」を思わせる鬼畜な難易度だったので、「これをクリアした小学生たちが本当にいたのか?」と疑問が湧いてしまいました。だけど、ソフトを何本も買ってもらうのはお金がかかるので、ひとつのゲームをクリアするぞと意気込んだ部分もありそうですし、記憶力が試されるのが理にかなっていたのだろうなと。
そこからゲームキューブあたりになると誰かと一緒に遊ぶゲームが増えて、例えば「太鼓の達人」なら本当に太鼓みたいなコントローラーを繋げて遊べたり、「大乱闘スマッシュブラザーズ」ならコントローラーをたくさん繋いでみんなで遊べたりする。
最近発売された「カービィのエアライダー」も元の「カービィのエアライド」はゲームキューブのソフトだったので、私としてもゲームキューブは神ゲーが詰まっているハードだと思っていますね。
今でもゲームキューブで遊んでいたタイトルって、大人になってから遊んでも絶対に面白いし、これからNintendo Classicsに追加されていくタイトルや、リメイク、リマスターされるタイトルたちが楽しみだなって、未来はまだまだ明るいなって感じています。
破綻しているようで理にかなっているペイ・チェンたち滕達社のゲーム作り
TOKEN:ありがとうございます。ゲームについては存分に語っていただいたので、ここから「破産富豪」についてもお話ししていければと思います。作品自体にはどんな印象を受けましたか?
高野:よくゲームを購入して遊ぶカイロソフトのことが浮かびました。ゲームを作るにしても、アイディアがあってそれをシナリオにおこす人がいて、グラフィックを作る人がいて、その全てを監修する人がいる。それだけの人を集めなきゃならないんだけど、その段階でもプレイヤーが優れていないと良い作品はできないっていう前提があるんです。
ペイ・チェンが設立した滕達社はそんな時に、ゲームを遊びはするけど作ったことのない人や、色々な会社を渡り歩いてきたクビを切られてばかりの人だったり、社長令嬢だけどいつクビになってもおかしくない人だったり、赤字を出すべくできない人たちを雇用していこうとするじゃないですか。
私の演じるリンちゃんがまさにそういう立場の子なのですが、これじゃ良いゲームなんて作れない……カイロソフトのゲームだったら終わってるよと思っていたんです。ペイ・チェンの当初からの思惑通り、赤字ばかりで初期の段階で詰んじゃうと思っていたのですが……そこで人間ドラマというか、ゲーム好きの面白いところが出てくる。

この「破産富豪」に登場するキャラクターたちは、偉いプロデューサーがいるとかグラフィックを作るのが上手い人がいるとかではなくて、みんながゲーム好きなんです。ただただゲームが好きな人が集まっている……そのことが一番大事なところになっていて。
例えばペイ・チェンやマー・ヤンも、大学が終わったら寮で仲間とオンラインゲームで遊んでいるじゃないですか。当たり前みたいに見えるけれど、隙間時間にゲームをする友達がいる、人とゲームをする時間を捻出することに時間を使うなんて、その時点でもうコミュニケーション能力お化けだし、明らかにゲーム好きじゃないですか。

そういう前提から始まっているので、ふたりには相手がゲーム好きかを見抜く力は絶対にある。仲間を探す段階でネットカフェに住みついているゲーマーのホウ・シュクと接触しましたけれど、彼も一見するとダメンズでネットカフェに住みつくなんて駄目だよとか、お風呂に入ってQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を上げようよとか思ってしまいますよね。

はたから見ると「この人、今後はどうやって生活していくつもりなのかな?」って疑問を覚えるような人なんですよ。2年生の時に大学から退学勧告まで受けてますし。そんな人をペイ・チェンの滕達社は招き入れる訳ですが、やっぱりそんなホウ・シュクにゲーム愛がない訳がないんです。なにせネットカフェに住みつく勢いでゲームをしていたくらいですから。
実は、リンちゃんもそうなんです。社長令嬢なので何もしなくても優遇されるし、お給料もいっぱいもらえるけれど、そういうことがむず痒くてもっとやらせてほしい、もっとこうしたいっていうゲームへの刺激を求めている。彼女がゲーム好きなことが垣間見えたのが、自宅で他社のゲームで遊んでいたところ。
例えば「鬼将軍」をやっている時にポロっと「レアが出た」っていうシーンがあるじゃないですか。普通にみるとただ遊んでいるだけなのですが、ゲームを作る人たちって他社の面白いゲームは大体遊んでいるんですよ。私の周囲にいるゲーム会社の友人もそうで、ご飯を食べに行った時とかに「あそこの会社のあの作品、良かったよね」って語り始めて。

自社のゲームがどんなに好きでも、他社のゲームを遊んで面白いと感じた部分は素直に受け入れて、それを自社ではどう活かせるだろうかと考える。また、こういうゲームを作りたかったけれど先を越された……みたいな悔しさをバネに、次のフィールドに歩き出すのがゲーム会社の人たちなんです。
周囲の影響でそういう熱量の高さを感じていたからこそ、滕達社にこのメンバーが集まったのは必然だったのかなって思えてきました。だって、そんな人たちにお金を与えて好きなようにして良いよなんて言ったら、やっぱり奮起するじゃないですか。
しかも、この作品ではそこから生まれたアイディアを実現できるだけの予算が、リッチェストのおかげで前提としてある。正直、その資産がないことが最初に躓くポイントだと思うんですよ。それを絶対に通過できる時点で滕達社は勝ち組。意外と気付いていないだけで、ゲーム愛とやる気はあるし。
私は、下手でも気持ちとお金さえあれば神ゲーはできると考えています。ペイ・チェンは赤字を出そうとして上手くいかずに葛藤していて、それを面白おかしく見てもいるんですが、上手く行って良かったなと思います。だけど、社員のみんなは疑心暗鬼なんですよ。
TOKEN:ペイ・チェンがその場を誤魔化したり、はぐらかしたりするために言った発言が社員のモチベーションを上げてしまっていたり……。
高野:響いちゃってるんですよね。そんなにクオリティアップしなくていいと言ったのが、「おい、今の聞いたか?」「社長は俺たちを試してるぞ」ってなる。多分今のままでも及第点だけれど、まだまだ自分たちはやれることを社長は見せてほしいんだと解釈してくれる(笑)。

みんなこの会社で初めてこういう企画をやるみたいな人ばかりだから不安になるけれど、「だってあなた、ゲーム好きじゃん」っていうだけで凄く説得力が増すんですよね。そうしてお互いを高め合って、社員同士の絆みたいなものが生まれる描写もありますし。滕達社がそんなアットホームな雰囲気だからこそ、熱量を共有して良いものを作ろうとする流れが本当にスカッとするお話になっているのかなと思えて。
また、ゲームを作る側の人たちだけじゃなくて、いわゆるクソゲーをレビューする配信者のチャオ・ラオシーのようなプレイヤー側のキャラクターも出てくるんですよ。檜山修之さんが演じていましたが、クソゲーだと指摘する鋭いツッコミだったり、そこからいや待てよと冷静になる切り替えの素早さだったり、彼を檜山さんが演じていなければ「孤独の砂漠ハイウェイ」のレビューシーンに説得力が生まれなかったような気がします。

そういうキャストの良さもあってチャオ・ラオシーのキャラクター性が凄く際立っていましたし、ゲームはやっぱり遊んでくれる人がいて初めて成立するものなんだと思わされました。遊んでくれた人が作品を評価することで、その制作会社自体がどんな評価を得て成り上がっていくのかが決まるじゃないですか。ゲーム業界の今を物語っているようで面白いですし、この作品に関わって色々なゲームをもっと遊んでもらいたいなとも思いましたね。
きっと日の目を浴びることのない作品や、触ってもらえていないだけの神ゲーって世の中にはいっぱいあるんだろうなって思うんですよ。今の世の中だとGamerさんのようなゲーム媒体の方たちが拾ってくれているのだと思いますし、ゲーム好きはそういうところを見てちゃんと拾い上げているので安心してくださいと私は伝えたいです。
そして、ゲーム会社さん自体に熱量がないと、新しいゲームは本当に作り続けられないし、継続していかないんですよね。その継続が一番大変だということを「破産富豪」は教えてくれます。この後もどんでん返しがあったり、コミカルな描写で笑わせてくれながらゲーム好きの心をくすぐってくれます。本当に細かいところまでご覧になっていただきたいです。そうしたら、登場人物たちや作中のゲームタイトル含めてもっと面白がってもらえるんじゃないかなとも思っています。

TOKEN:最後に、高野さんご自身がゲーム制作に携わるならどんなお仕事をしてみたいかもお答えいただけますか?
高野:それこそ「ぷよぷよ」の初期ボイスは私ですみたいな感じで、中の人だけど輝けるポジションがいいです。このキャラクターの声は誰々なんだよねではなくて、実はセガの社員さんなんだよって言えるような……名前も知らない人がやっている感動みたいな部分として楽しんでもらえる小ネタみたいなところがいいなって思います。
TOKEN:当時は人が居ないから仕方なくというものでしたが、敢えてというのはいいですね。開発としても何かに関わりつつということですよね?
高野:気になった人が誰なんだろうって調べたら、開発者さんだと知って驚くような。声優さんが当たり前な世の中で、敢えて使わない奥深さみたいなものも出せますし。
TOKEN:開発者の方のことをもっと知ってもらいたいと。
高野:なんで声優さんを使わなかったのかとか、あえて声を入れずに発売する意図も気になるじゃないですか。「ドラクエ」もフルボイスの時代になってきたけれども、「ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて」は声が入っていないバージョンを先に出してから、声が入っている「ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて S」を発売しましたし。これって、「ドラクエ」を愛してきた人たちへの配慮だったんじゃないかなって思うんです。
だから私は、両方楽しめるような世界になったら嬉しいなって。ボイスがないと本を頭の中で読み上げるように自分の中の世界が広がっていく感覚があるし、そういう日本人らしい奥深さを感じる作品に携わりたい。「FFX」ラストシーンのティーダの描き方と同じですね。
TOKEN:そのお話がここに繋がるわけですね。それでは最後に、視聴者のみなさんへのメッセージをお願いします。
高野:奇抜なアイディアや安い課金額……「孤独の砂漠ハイウェイ」や「鬼将軍」がとても安いコストパフォーマンスで遊べたのは、ゲームを遊びたいけれど中々遊べずにいる現代の子供たちを癒すような作品にしたかったのかなと思いました。
ペイ・チェンは赤字を出すためにやっているんだろうけれど、実は滕達社の作品は理にかなっている作品ばかり。そういうものを触って来た子供たちはきっと、「このゲーム、神ゲーだったよな」って何度も遊んだゲームのことを一生大切にしながら大人になります。
だからペイ・チェンたちが生み出してきた破産するためのゲームも、遊んだ子供たちがずっと後の世に語り継いでいく神ゲーへなっていくんだろうなって思います。この先も登場する滕達社のゲームや滕達社のみんなの行方を追ってほしいですし、リンちゃんがヒロインとしてどんな活躍を見せるのか……その姿も楽しんでいただければ嬉しいです。よろしくお願いします。
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公式サイト
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アニメ・ゲーム系の媒体でお仕事をしているフリーのライター。Gamerさんでは2022年夏頃よりお仕事をいただいている。
主にプレイするのは大作RPGからFPS、18禁の美少女アドベンチャーゲームなど。ゲームセンターが好きで「BLAZBLUE」や「MELTY BLOOD」などのコンボ重視の対戦格闘ゲームや、「機動戦士ガンダム VS.(バーサス)」シリーズなどをよく遊んでいたが最近はちょっと年齢を感じて辛い。
最近は仕事のために始めたカメラにハマり、スナップ写真や動物写真を撮ることも。使用しているカメラのメーカーはNikon。
(C) bilibili 閱文動漫 改編自閱文集團旗下起點讀書小說《虧成首富從遊戲開始》 作者:青衫取醉
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