ゲーミングPCでもAI性能が問われる時代になってきた。今回紹介する「Acer Nitro 16S AI」も、製品名に「AI」の文字が付いている通り、AI性能が大きく向上し、コスパに優れたAMDの最新CPUであるAMD Ryzen AI 7 350を搭載した、AIにも強いゲーミングノートPCだ。
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生成AIが驚異的なスピードで進化を遂げている。現在ある主要なサービスはクラウドなので、どんな環境でも稼働する代わりに月額課金のようなコストが発生することもある。また自分の情報を学習に使われているかもしれないという不安を抱く人もいるだろう。
そこで今後は、プライバシーやセキュリティーを強化したローカル環境で動くAIの利用が増加していくという予想がある。もちろんクラウドAIにはクラウドにしかないメリットがあるため、それぞれの利点を生かすような活用方法が模索されているということだ。
今回は本製品のUSモデルを使用して、ゲームはもちろん、AI活用にも真価を発揮するゲーミングノートPC「Acer Nitro 16S AI」の使い心地を様々な角度から検証してみたい。
【Acer Nitro 16S AI】
CPU:AMD Ryzen AI 7 350プロセッサー
GPU:NVIDIA GeForce RTX 5060 Laptop GPU
液晶ディスプレイ:2,560×1,600ドット(WQXGA)、16型180Hz 非光沢液晶
メインメモリ:32GB、DDR5-5600MHz SDRAM
ストレージ:1TB SSD
キーボード:Acer FineTip RGBバックライト付きキーボード(103キー/英字配列/Copilotキー搭載)
光学ドライブ:なし
OS:Windows 11 Home
電源:230W ACアダプター、ACコード(約1.8m)
本体サイズ:356.78×275.5×約19.9mm(横×縦×厚さ)
本体重量:約2,160g
価格:314,800円(公式サイト実売価格)
製品ページ:https://store.acer.com/ja-jp/acer-an16s-61-n73z56-e
■ 20mmを切る薄さ。高級感のある黒い金属筐体
まずは外見から見ていきたい。天板を閉じた時の高さはもっとも高い部分で約19.9mmとかなりスリム。サイズが大きいため重量は2.16kgあり、ゲーミングノートPCとしては決して最軽量の部類とはいえないが、女性でも持ち歩ける程度の重さとサイズに収まっている。
筐体は全体が金属製でカラーはオブシディアンブラック。表面は細かいテクスチャ感のある処理がなされており、高級感がある。また天板にはAcer Nitroのロゴである「N」のマークが刻印されている。マークは電源を入れるとLEDで七色に輝く。
背面と両サイドには合計4つの大きなエアインテークがある。底面は半分以上がメッシュになっており、メッシュの奥には2基のファンが見える。このデュアルファン構成と、クアッドインテーク、さらにCPUに使用されている液体金属熱グリスなど筐体を冷やすための様々な工夫がなされている。
I/Oポートは左サイドにはLANポート、USB2.0、microSDカードリーダー、イヤホンジャック。背面にHDMIポート、USB4(Type-C、最大40Gbps、映像出力対応)、USB3.2(Type-C、Gen 2、最大10Gbps、映像出力対応)とACアダプターのコネクタがある。右サイドにはUSB 3.2(Type-A、Gen 2、最大10Gbps)が2ポートある。このうち1ポートは電源オフUSB充電機能に対応している。
キーボードは英語配列のフルキーボード(日本語配列は選択不可)。こちらも電源を入れるとデフォルトでは虹色のグラデーションが楽しめる。ゲーミングPCらしく「WASD」と矢印ボタンは他のキーよりも目立つデザインになっている。
キーピッチは標準的な19mm。キーストロークも1.5mm程度の標準的な深さで、ノートPCを使い慣れている人なら打鍵感に違和感はないだろう。
キーの配列はかなり個性的で、ここは好き嫌いが分かれるかもしれない。Copilot+ PC対応モデルなので、矢印キーの横にはCopilotを呼び出すためのCopilotキーがある。またテンキーの左上には、本機の様々な機能を操作するためのアプリ「Nitro Sense」を呼び出すための「N」ボタンが設置されている。
キーボード下にあるマルチジェスチャータッチパッドのサイズは約126mm×83mm。電源ボタンはテンキーの右上隅にある。Back SpaceキーやDELキーなどよく使うキーとは離れているので、うっかり触って電源を落としてしまうという事故の心配はなさそうだ。キーボードの左上には細い「モード切替キー」がある。
ACアダプターの重さは700g弱。今回使用したのものはUSモデルのため、コンセントのプラグはアースが付いた3ピンコンセントとなっていたが、国内版は日本仕様の2ピンプラグとなる。
■ Copilot+ PC対応のAI性能。最新の超解像度技術DLSS 4にも対応
搭載されているCPU「AMD Ryzen AI 7 350」は第5世代Zenアーキテクチャのモバイル用AI対応プロセッサ。高効率の「Zen 5」が4コア、省電力の「Zen 5c」が4コアの8コア、16スレッドの構成で、カタログベースのベースクロックは2GHz、最大ブーストクロックは5GHzになる。
CPUには他に、内蔵GPUのAMD Radeon 860MとNPUが搭載されておりNPU TOPSは最大50TOPS。チップ全体のOverall TOPSは最大66TOPSとされている。これは40TOPS以上のNPUを搭載というCopilot+ PC対応モデルの要件を満たしている。これにより、過去にPCで何をしていたのかを覚えておいてくれる「Recall」機能やNPUを活用して、背景ぼかしや視線補正、ノイズ除去などの処理をする「Windows Studio Effects」など、Copilot+ PCならではのローカルAIの機能を使うことができる。
GPUは「NVIDIA GeForce RTX 5060 Laptop GPU」。第5世代Tensorコアを搭載しており、FP4(4ビット浮動小数点)による高いAI演算性能と、DLSS 4による美麗な画面を楽しむことができる。
搭載されているVRAMは8GBと少な目ではあるが、AI性能(TOPS)は572と高性能。「VR Chat」などには不向きだが、ゲームから動画編集などクリエイターの作業まで幅広く快適にこなせる性能を有している。
今回はGeekbench AIでCPUとGPUのベンチマークを行なってみた。NPU単体のベンチマークは取れなかったので、参考程度に見て欲しい。
近年は、ローカルで駆動するLLMや画像生成AIを家で使いまくりたいという人に向けたミニスパコンも登場しているが、そこまでではないが勉強のために自分でLLMが動く環境を構築してみたい人や、クラウドではセキュリティが心配な人、課金コストを抑えたい人などAIに対するニーズは様々だ。環境さえあれば、新たな挑戦への敷居が大きく下がることになる。
■ 独自のモニタリングアプリ「Nitro Sense」
本機種には「Nitro Sense」というモニタリングやLEDコントロールなどを一括操作できるアプリが搭載されている。キーボードの「N」キーを押すと立ち上がる。
ホーム画面にはCPU、GPU、システムの温度、CPUとGPUの周波数などの情報が一元化されている。「モード切替ボタン」で変更できるモードには、AC電源を接続している時には「静か」、「バランス」、「パフォーマンス」、「ターボ」、バッテリー駆動時には「エコ」と「バランス」というモードが選択できる。
■ 「モンスターハンターワイルズ」と「FFXIV」ベンチマークで計測
ゲーム性能を測るために「モンスターハンターワイルズ」と「ファイナルファンタジーXIV」ベンチマークを試してみた。
「モンスターハンターワイルズ ベンチマーク」は、フルスクリーン、NVIDIA DLSSは有効にしたうえで、グラフィックプリセット「ウルトラ」、「高」、「中」の3段階をテストした。
「モンスターハンターワイルズ」ベンチマークは予測VRAM使用量を確認することができる。ゲームを快適に遊ぶための目安として、中で3.68GB、高で4.52GB、ウルトラでは7.52GBが必要となる。
本機種に搭載されているGeForce RTX 5060 Laptop GPUはVRAMが8GBなので、「ウルトラ」設定にするとグラフィックスメモリがいっぱいになっている警告が表示された。動作させた結果は次の通り。
【モンスターハンターワイルズベンチマーク】
フィールドの俯瞰や村のカットシーンなどで「ウルトラ」ではフレームレートが30程度にまで落ちることがあったが、「中」と「高」は終始60fps以上を維持していた。「ウルトラ」はそもそもハイエンドデスクトップPCなどに適しているプリセットなので仕方がないとしても、「高」プリセットでこれだけ快適にプレイできるのは、なかなかいい結果ではないかと思う。
なおインターネット視聴や事務作業など日常の稼働時にはほぼ無音といってもいいくらい静かなPCではあるが、ベンチマーク中には、冷却のためのファンが気になる程度の音で駆動していた。
パフォーマンスモードに設定し、ウインドウモードでベンチマークを回しながらモニタリングしてみたところ、GPUは使用率が80%から98%程度で温度は約68℃から70℃程度、CPUは使用率が35%から60%程度で温度は65℃前後だった。ベンチマーク終了後は1分程度でCPU、GPUとも温度が40℃程度まで下がり、ファンも静かになるなど冷却性能を実感することができた。
次に「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク」の結果は以下のようになった。
本作は「黄金のレガシー」でグラフィックスアップデートが行なわれ推奨環境が引き上げられた。その上でベンチマークのスコアは最高品質でも1万を超えており、デスクトップ並みの性能があることがわかる。本機のスペックがあれば、AAAゲームをリッチなグラフィックスで楽しめるだろう。
【ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク】
■ GOTYタイトル「Clair Obscur: Expedition 33」でゲームプレイを検証
では実際のゲームではどうなのか。2025年にThe Game AwardsのGOTY(ゲーム・オブ・ザ・イヤー)ほか9冠を総ナメにした大ヒット作「Clair Obscur: Expedition 33(以下、Expedition 33)」でプレイを検証してみた。本作はゲームパッドが推奨されているので、ゲームパッドを接続して検証している。
本作が配信されているSteamにはフレームレートやCPU、GPUの状態をリアルタイム表示させる機能があるので、そちらを活用してプレイ中のPCの状態を観察した。
「Expedition 33」は元Ubisoftのソフト開発者などが在籍するフランスのゲームスタジオSandfall Interactiveが開発したRPG。アクション性の高いターン制のバトルが特長で、ジャストガードやパリィを成功させると反撃で敵に大ダメージを与えることができる。そのため、コマンド入力型ながら、戦闘中にはシビアなタイミングでの入力が求められる。
本作のPC版にはPCのスペックに合わせて自動調整されるクイックプリセットがある。今回の検証では起動時に「中」が選択された。このプリセットでDLSS 4を有効にした上でプレイしたところ、おおむねフレームレートは50から60の間くらい。CPUの温度は50℃から65℃、GPUの温度は60℃から75℃程度を推移していた。
GPUが高温になっているためファンはかなり強く回っていたが、2時間近く連続プレイしている中で極端にフレームレートが下がったり、遅延したり、フリーズしたりという熱に起因するような不具合は一度も発生することなく、シビアなタイミングの読み合いが楽しい戦闘や、デカダンスあふれる冒険の世界を楽しむことができた。
■ 高性能ゲーミングPCを買うなら今しかない!
ゲーミングノートPCとしては申し分のない性能を見せてくれた「Acer Nitro 16S AI」。もちろん安い買い物ではないが、十分に投資に見合う活躍をしてくれるはずだ。筆者が特にいいと思うのは一般的なモニターよりも正方形に近い形のWQXGA(2,560×1,600ドット)ディスプレイだ。ゲームで縦方向の視野を広げてくれるのはもちろん、例えば縦のPDFを読む時にも横長のディスプレイとは読みやすさに明らかな違いがある。縦長の絵を描いたりといったクリエイティブな用途でも利便性を発揮してくれる。
2025年後半からメモリ価格は高騰し始め、12月3日にはMicron Technologyがコンシューマ用のメモリやSSD製品の販売を終了することを発表した。このためDDR5メモリの価格は数倍に跳ね上がっており、来年以降PCが大幅に値上げされるのではないかと危惧されている。
これまでもPCのパーツは値上がりと値下がりを繰り返してきたが、今回は数年にわたって高止まりが続くのではないかと危機感を募らせている人が多い。つまり、PCを買い替えるなら高騰前の在庫がある今が一番の買い時であるということになる。
本機種は英字配列だが、GeForce RTX 50シリーズを搭載したエントリー向けの「Nitro V 15」には12月11日に日本語キーボードモデルが登場している。他にもNitroシリーズにはハイエンドからエントリーまで多彩な機種がラインナップされている。自分がやりたいことにぴったりの機種が見つけられるはずだ。
GAME Watch,石井聡(クラフル)
