Oscar Holland, Will Ripley

(CNN) 人影のない終末後の風景のなか、主に徒歩で荷物を運ぶ――。大ヒットゲームとしては異色の設定だ。だが、日本の著名なゲームデザイナー小島秀夫氏の手にかかると、この見せかけの郵便配達シミュレーターは(ノーマン・リーダスやレア・セドゥ、エル・ファニングといったハリウッド俳優を起用してはいるが)、今年最も批評家から絶賛されたゲーム機向けタイトルのひとつとなった。

ゆったりしたテンポながら癒やしをもたらす傑作と評される「DEATH STRANDING(デス・ストランディング)2: ON THE BEACH」では、フリーランスの配達人、サム・ブリッジズが、壊滅的な超自然現象の余波を受けて孤立したコミュニティーに装備や食料、医療物資を届ける様子が描かれる。道中で人間の敵と闘ったり、「Beached Things」の魔の手から逃れたりする場面もあるが、アクションは例外にすぎない。ゲーム時間の多くは、一見すると地味な作業に費やされる。主人公の荷物管理や、養子として迎えた赤ん坊の世話、そして(文字通り)膨大な荒野での放浪だ。

小島氏のアートシアターのような世界では、エンターテインメントは様々な形で展開される。最新作の成功には、メキシコとオーストラリアをモデルにした、プレーヤーが自由に動き回れる驚異的なグラフィックの景観も寄与している。一流の俳優たちは声優としてだけでなく、バーチャルなキャラクターとしても登場した。

だが、おそらく、小島氏がゲーム業界で最も称賛される人物の一人となり、熱狂的なファンを獲得した背景には、複雑な物語構築の巧みさがある。この評価は、1990年代後半から2000年代初頭にかけて大ヒットした「メタルギア」シリーズにさかのぼる。社内データによると、「デス・ストランディング2」は発売初月でプレーヤーの79%がゲームをクリアしたという驚異的な数字がある。一般的なオープンワールドの作品のクリア率は、その半分以下が普通だ。

「デス・ストランディング2」では、サム・ポーター・ブリッジズがメキシコとオーストラリアの荒野をモデルにした広大な世界を旅する/Kojima Productions Co.
「デス・ストランディング2」では、サム・ポーター・ブリッジズがメキシコとオーストラリアの荒野をモデルにした広大な世界を旅する/Kojima Productions Co.

「作家」のレッテルを頻繁に貼られる数少ないゲームデザイナーの一人である小島氏は、自身の優先順位について臆することなく語る。プレーヤーの楽しさは、少なくとも時系列的には後回しにされる。小島氏の第一の目標は、「飽きない」プロジェクトを見つけることだ。

小島氏は香港で開催された米ウォルト・ディズニーのイベントでCNNの取材に答え、ゲーム制作には4年か5年かかり、24時間体制で、膨大なエネルギーを必要とするため、心から愛するものでなければ耐えられないと語った。まず自分自身の創造的な本質から始めて、そのうえにエンターテインメントの要素を重ねていくという。

小島氏の物語は、映画的なムービーを通して展開される。これは感情的かつ物語的な目的を果たす、インタラクティブではない場面だ。「デス・ストランディング2」には、回想や夢の場面を含め、6時間以上のムービーが存在する。ゲーム情報サイトIGNの推計によると、平均的なプレーヤーはゲーム時間の約15%を、こうしたドラマチックな場面の鑑賞に費やしている。もっとも、これは小島作品としては控えめだ。同じ計算によれば、08年の傑作「メタルギアソリッド4」ではプレーヤーは平均40%をムービーの視聴に充てていた。その中には27分間に及ぶムービーがあり、これはビデオゲーム史上最長のムービーとしてギネス世界記録に認定されているという。

「デス・ストランディング2」と19年発売の前作はいずれも、人類が抱える大きな問いに取り組んでいる。テーマは、職場の自動化(配達ロボットの登場によりサムのような人間の配達人が失業の危機に直面している)や、汚染(キラリウムと呼ばれる謎の物質への長期間の暴露が様々な健康問題を引き起こす)、気候変動(この未来世界では嵐や洪水がますます頻繁に発生している)など多岐にわたる。

ストーリーも、気軽に楽しめるようには作られていない。実際、サウンドトラックを手掛けたフランス人ミュージシャン、ウッドキッド氏によると、小島氏は初期のテスターがゲームを気に入りすぎたため、続編の筋書きを変更したという。ウッドキッド氏はローリング・ストーン誌に対し、「小島氏は自分の作品が賛否を分けるものでもなく、感情を十分に刺激するものでもないと考えていた」と語っている。

こうした報道について、小島氏は「半分は正しい」としたが、どの半分かは明言しなかった。小島氏は、10年や20年たっても忘れられないのは、少し不快感やひっかかりを残すものだと説明し、食べ物に例えて、ちょっと消化に悪くて体に残るようなものだと続けた。何度も反芻(はんすう)するうちに徐々に理解できるようになるという。

小島氏によれば、あまりにも心地よいというものはプレーヤーの中にとどまらず、いわば、体内に残らないという。小島氏は、何度もかみ砕かなければ全てが理解できないように意図的に設定していると言い添えた。

小島氏にとって、映画や小説は何十年も残るものなのだ。だから、ゲームだって同じではないだろうか。

デザイナー、ディレクター

大金をかけたビデオゲームと、ほかのエンターテインメントとの境界はますますあいまいになっている。人気俳優たちがゲームのキャラクターをより敬意を持って扱うようになっている。なぜなら、こうした役は業界で大きな影響力を持ち、通常は高額な報酬が伴うからだ。

「メタルギア・ソリッド4・ガンズ・オブ・ザ・パトリオット」のサイン会に参加したファンたち=2008年、英ロンドン/James Mccauley/Shutterstock
「メタルギア・ソリッド4・ガンズ・オブ・ザ・パトリオット」のサイン会に参加したファンたち=2008年、英ロンドン/James Mccauley/Shutterstock

家庭用ゲームを原作とする映画やドラマの映像化も、いまや珍しくない。かつて映画スタジオは、知的財産をライセンス取得し、人気キャラクターを劇場向けの物語に移し替えていた(「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」や「トゥームレイダー」など)。だが最近は、配信プラットフォームが、より直接的な、あるいはほぼ場面ごとの忠実なリメイクを選ぶ傾向が強まっている。原作に忠実に制作されたHBOの大作ドラマ「THE LAST OF US」の成功は、ゲーム業界の物語性の可能性を証明したように見える。

ディズニー社の配信サービス「ディズニープラス」が「デス・ストランディング」をアニメ化すると発表したのも驚きではなかった。米インディー大手スタジオA24による実写映画化も進行中だ。コジマプロダクションが両プロジェクトに関わるという。ただ、小島氏は「今は忙しすぎる」として、自ら映画監督を務めることは考えられないと語っている。

長編映画を一度も制作したことがないにもかかわらず、小島氏は長年にわたってゲームデザイナーとディレクターのはざまを歩んできた。英国映画テレビ芸術アカデミー(BAFTA)からフェローシップを授与された業界関係者はごくわずかだが、小島氏はその一人。この栄誉は通常、マーティン・スコセッシ監督やケン・ローチ監督といった映画界の巨匠に贈られる。近年では「レッド・デッド・リデンプション」や「ゴッド・オブ・ウォー」など、魅力的で映像的なゲームを制作するスタジオはほかにもあるが、小島氏は間違いなくその先駆者だと言えるだろう。

1987年、コナミで「メタルギア」を立ち上げたころ、ゲーム機は物語の複雑さに対応するには単純すぎた。

当時のゲームは2Dで、色も限られ、音楽もなく、キャラクターはしゃべれなかったと小島氏は振り返る。全てが記号で、キャラクターは基本的に円か三角形だった。それでも、小島氏はこのメディアに将来性を感じ、進化すると確信していた。

「プレイステーション2」史上最も売れたゲームの一つである「メタルギアソリッド2 サンズ・オブ・リバティ」は社会や哲学、テクノロジーといったテーマに挑んだ作品だ/Konami Digital Entertainment
「プレイステーション2」史上最も売れたゲームの一つである「メタルギアソリッド2 サンズ・オブ・リバティ」は社会や哲学、テクノロジーといったテーマに挑んだ作品だ/Konami Digital Entertainment

実際、ゲームは進化した。グラフィックエンジンやプロセッサーの進化とともに、ドラマや会話、哲学を表現する能力も高まった。「メタルギア」は「メタルギアソリッド」になり、スパイ映画さながらの世界観を持つステルスゲームの先駆けとなった。シリーズは批評家から称賛されたが、なかでも2001年にプレイステーション2向けに発売された「メタルギアソリッド2 サンズ・オブ・リバティ」は、多くの人たちが世界初の「ポストモダン」なゲームとみなしている。プレーヤーが矛盾する情報と信頼できない語り手を巡って迷走する中、キャラクターは「第四の壁」を破り、何がシミュレーションで何が現実か、ゲーム内ゲームなのか分からなくなる。その複雑な物語は、後年の「ポスト・トゥルース」の政治やSNSの台頭によってもたらされる問題を予見していたとの分析もある。

技術革命

最初の「メタルギア」から約30年後、小島氏はコナミを(伝えられるところによると激しい対立の中)退社した。その前には、小島氏も数年にわたり携わっていた「サイレントヒル」の開発中止が発表されていた。その後、小島氏はコジマプロダクションを設立し、最初の「デス・ストランディング」の制作に取りかかった。

当時、小島氏は若い頃には夢にも思わなかったデジタルツールを使えるようになっていた。小島氏は、テクノロジーがこれほど急速に進化して、4Kや8Kの映像が実現し、実在の俳優をスキャンできるようになるとは想像していなかったと語った。そうした進化が不可能だと思っていたわけではないものの、実現するのはもっと先の未来だと考えていたという。

人工知能(AI)の登場は、さらなる変革をもたらす可能性がある。AIというと、画像や動画の生成を思い浮かべがちだが、小島氏はAIの可能性について、美的な観点ではなく、技術的な観点から捉えている。AIという言い方は、ゲームの世界では長らく「ノンプレーヤーキャラクター(NPC)」の行動を説明するために使われてきたが、次世代のアルゴリズムは、NPCに前例のない学習能力と適応能力を与える可能性がある。

小島秀夫監督の次回作「OD」は、映画「ゲット・アウト」のジョーダン・ピール監督が共同脚本を担当した/Kojima Productions Co.
小島秀夫監督の次回作「OD」は、映画「ゲット・アウト」のジョーダン・ピール監督が共同脚本を担当した/Kojima Productions Co.

小島氏は、AIにビジュアルを作成させるといったことよりも、操作システムにAIを活用することに興味があると語る。小島氏によれば、100人のプレーヤーがいれば、それぞれ独自の癖や傾向、操作感覚、動き方があり、それらは人によって異なる。

AIがこうした差異を補完することで、ゲームプレーはより深みを増すという。ほとんどのゲームでは敵の挙動は現実の人間とは程遠いが、AIを活用すれば、敵の行動はプレーヤーの経験値や行動パターンに応じて変化し得るとし、小島氏は、そうした動的な応答によって、はるかに深みのあるゲームプレーが実現できるだろうとの見方を示した。

コジマプロダクションの次回作「OD」については、詳細はほとんど明らかになっていない。これは、映画「ゲット・アウト」を手がけたジョーダン・ピール氏が共同脚本を担当するホラー作品だ。9月に公開された不気味な予告編は、完璧な映像と複雑なゲームプレーを予感させる。だが、小島氏はテクノロジーに強い関心を持っているものの、今後の作品の成功は、過去の作品と同様に、比較的技術嫌いの性質、つまり古き良き物語を紡ぐ能力にかかっているのかもしれない。

原文タイトル:‘You won’t understand unless you chew on it’: Hideo Kojima wants you to remember his games for decades(抄訳)

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