
可能な限り低予算でゲーミングPCを組もうとする場合、「Windows 11」のコストに頭を痛めた経験はないだろうか? Windows 11のHome版なら現在1万7000円程度、Pro版なら2万3000円程度で売られているが、低予算であればあるほどこの2万円の出費は大きい。とはいえ、Windows 11はハードとソフト両面の資産が膨大、かつノウハウも見付けやすい。この安心感を得るための2万円は決してムダではない。
しかしメモリ価格は今夏の3倍以上に膨れ上がり、ドル円レートも不利な方向に振れるなど不安材料も多い。Windows 11の約2万円を浮かすことができれば、CPUやGPUをもう1ランク上にできるかもしれないし、よりよいモニターやゲーミングデバイスを追加することも可能になる。だがOSなくしてPCは動作しない。このジレンマをどう解決すべきか……?
こんなときだからこそ“Linux”という選択肢に向き合ってみる
そこで注目したいのがLinuxディストリビューションのひとつ「Bazzite(バザイト)」である。これはValveのポータブルゲーミングデバイス「Steam Deck」に搭載されている「SteamOS」にインスパイアされ誕生した、ゲーミング向けのディストリビューションである。
Linuxと言えば「Ubuntu」や「Linux Mint」などの知名度の高いディストリビューションが思い浮かぶが、このBazziteは「ChromeOS」のメンテナンスフリーなスタンスを採り入れ、アップデートに手を煩わせないことにフォーカスしている。そしてBazziteは無料で使用できる。運用がシンプルでしかも無料、ということであれば使わない手はない。
最初に言っておくが、Bazziteとて万能ではない。PCゲームにおいてWindows 11に勝る環境はないのだ。BazziteはOSのコストを削ってでも予算を圧縮したい人、最近のWindowsのトラブルに嫌気がさした人に使っていただきたいOSである。主にソロプレイのゲーム向けPCと割り切って使う人であれば、積極的に試していただきたい。
そこでBazziteを使ってみたいが、具体的な解説が欲しい人のために短期連載的にまとめてみる。第1回目はBazziteをPCにインストールする手順を解説する。
数あるLinuxからBazziteを選ぶ理由は何か?
Linuxには多数のディストリビューションがある中、なぜBazziteを選ぶのか? まずはその理由を列挙してみよう。
1.Steamなどゲームを遊ぶための環境が導入済み
Bazziteのセットアップが終了すれば、すぐSteamクライアントを起動できる状態でセットアップされる。Ubuntuのような“一般向けの”Linuxディストリビューションでは後から自分で導入する必要があるが、実はこれが意外と曲者なことがある。Steamクライアントの導入ルートはディストリビューションにより違う上に、導入しても素直にSteamが起動してくれるとは限らない。たとえばUbuntu 25.04のプレーンな状態では、Steamクライアントは起動してもウィンドウが出ず、そこから設定が必要になる。
BazziteならばOSセットアップ後すみやかにゲームのセットアップに進むことができる。ゲームを遊ぶためのOSなのだから、この割り切りと気楽さは最高である。
Steam以外のゲームもプレイしたい人向けには、標準でセットアップ済みの「Lutris」、あるいはストアアプリ「Bazaar」から入手できる「Heroic Game Launcher」を利用するとよい。Epic Gamesで配布されている「原神」や「ゼンレスゾーンゼロ」といったゲームはこれらを通じて導入することになる。これらの使い方に関してはいずれ解説するとしよう。
Lutrisを利用してBazziteにインストールした原神とゼンレスゾーンゼロ2.GPUドライバが導入済み、かつ更新頻度も高い
LinuxにおけるGPUドライバ導入は初心者がつまずきやすいポイントだ。ディストリビューションごとにパッケージが異なるため、Windowsのように公式からドライバをダウンロードすればよいという話でもない。ディストリビューションのパッケージ管理システムで配布されるドライバを待つほうがよいケースもままあるのだ。
だがBazziteでは最初からGPUドライバが導入済みの状態でISOイメージが用意されているため、GPUドライバ導入というステップを完全に飛ばすことができる。もっと言えばチップセットやLANのドライバ導入すら飛ばすことができる(例外は多分あるだろう)。
Bazziteでは主要なドライバはパッケージの一部となっており、OSのアップデートでGPUドライバも一緒に更新される。この気楽さがUbuntuやDebianではなくBazziteをお勧めする理由でもある。ちなみにGPUを乗り換える場合は、rebaseと呼ばれる作業を行いOSのコアイメージを入れ換えることになる。この辺はWindowsのほうが気楽と言える。
3.システムを壊しにくい
システムのセットアップであれこれといじっているうちに動作が変になって最初からやり直すのは“Linux初学者のあるある話”だ。だがBazziteではシステムのコア部分は管理者権限でも書き込み禁止となっているため、ユーザーが破壊的な操作をしてしまう可能性が相対的に低い(Immutableと呼ばれる)。OSアップデートで何か不具合があっても、以前動いていた状態にロールバックすることもたやすいのもありがたい。
さらにBazziteではアプリはアプリとライブラリーをパッケージ化して展開する「Flatpak」を用いるのが定石となっているのも、アップデートにまつわる失敗を大きく軽減してくれる。アプリで必要なライブラリーがほかのアプリと競合する可能性を排除し、アプリのアンインストール時にもほかのアプリに影響をおよぼさない。これもシステムの壊れにくさに貢献している。
しかしその一方でFlatpakはアプリをサンドボックス環境で動かすため、アプリ間の連携を取りにくいというデメリットもある。この仕様ゆえにBazziteはシステム開発などにはあまり向かないLinuxという評価もある。だがすべてはPCゲームを気楽に遊ぶことに注力しているがゆえの仕様なのである。
BazziteのアプリストアであるBazaarは、実のところFlathubのフロントエンドである。「OBS Studio」や「Discord」といったゲームには欠かせないアプリはここから導入できる
OBS StudioをBazaarで導入する手順はInstallボタンを押すだけでよいBazziteに向いているハードは何か?
以前は「Linuxは最新ハードが苦手」などと言われていたこともあったが、現状のLinux、とりわけBazziteでは最新ハードでも問題なく利用できる。GeForceのRTX 50シリーズやRadeon RX 9000シリーズといった最新GPUはもちろんのこと、大抵のWi-Fiや有線LANのドライバもビルトインのドライバで動作する。よほど特殊なRAIDやネットワーク系カードを使っているのでなければ、ドライバを用意する必要もない。
ただ注意したいのは、GPU(ゲームで利用するGPU)によってISOイメージが分かれている点だ。その選択さえ間違わない限り、最新のRadeonやGeForceでも問題なく利用できる。特にGeForceのLinuxドライバは、ウィンドウマネージャ「Wayland」との相性が最悪とされてきたが、BazziteのGeForce向けイメージであれば間違いなく動作する(失敗した例は寡聞にして知らない)。
ただし注意点としては、Bazziteに収録されているGPUドライバはコア部分だけであり、Windows環境におけるドライバ付属のアプリは導入されない。Radeonなら「AMD Software」、GeForceなら「NVIDIA App」がこれに該当するが、これらが提供する録画機能や画質の設定機能が使えないことを意味する。特にRadeonの場合ドライバで処理するフレーム生成機能「AFMF」があるが、こうした機能もBazziteでは利用できない。画面録画機能は「OBS Studio」を導入すればカバーできるだろう。
次回はBazzite生活の“質の向上”を目指す
以上でBazziteのセットアップは完了だ。ここまで進めばSteamクライアントを起動し、ゲームをダウンロードして遊び始めることができる。
この状態でもLinuxを利用してWindowsのゲームを遊ぶという目的は達成できたが、QOLを高めるためにはもう少々手を入れたほうがよい。そこで次回は、BazziteライフのQOLを向上させるための設定を解説することにしよう。
動画によるKTUのBazzite紹介はこちら
【無料のゲーム用OS「Bazzite」(バザイト)が低予算ゲーミングPCに効く!どんなゲームが動く?パフォーマンスは?】
