Steamでゲームを発売予定の開発者にとって、ウィッシュリスト登録数はそのゲームタイトルの注目度を推し量る指標となるだろう。一方で、そうしたウィッシュリスト登録数を絶対視するような風潮に警鐘を鳴らす業界関係者の投稿が話題を呼んでいる。
ウィッシュリストとは、登録したゲームの発売時やセール開始時などに通知を受けることができるSteamの機能のこと。つまりウィッシュリスト登録者の数は、その作品に興味を持っている人の数を示すひとつの指標ともいえる。
今回ウィッシュリスト登録数についての見解を述べているのはDaniel Lyozov氏。同氏はtinyBuild GAMESやCRITICAL REFLEXに勤めていた人物だ。CRITICAL REFLEXではパブリッシングチームのリードプロデューサーとして、『Buckshot Roulette』や『Mouthwashing』のパブリッシングに関わっていた。現在はCRITICAL REFLEXでの職を辞し、日本国内のインディーゲームパブリッシングチームTomoe Gamesを共同設立。またパブリッシャーのOro Interactiveにてビジネス開発およびスカウト部門の責任者を務めている。
i wish every indie dev nothing but success, and i am sorry if this is a little mean:
having a good amount of wishlists doesn’t mean that your game will do well, and the release window has little to do with your game’s success. it needs to have The Juice. https://t.co/11CQEXjiVD
— Daniel Lyozov (@peligrrr) October 22, 2025
Lyozov氏は10月23日、『Katanaut』の開発者Eugene氏の投稿に反応。Eugene氏は、今年9月11日に満を持してリリースした『Katanaut』の平均ピークプレイヤー数が11人と伸び悩んでいることを吐露し、AMA(何でも聞いて)を“開催”するなど、自虐も交えたコメントを残している。
『Katanaut』はハイスピードなアクションローグライトゲームだ。舞台となるのは宇宙ステーション。ある出来事によって人が人でないものに変化し、混沌に陥った宇宙ステーションで、主人公ノートは探索をおこなう。襲い掛かる敵を退けつつ、何が宇宙ステーションで起きたのかを解き明かすことになるわけだ。ゲームプレイでは斬撃を中心としつつ、スキルなども活用して敵をなぎ倒していく。
Eugene氏によれば、『Katanaut』は10か月で計5万2000件のウィッシュリスト登録数を獲得していたという。過去にマーケティング調査機関GameDiscoverCoが伝えたところでは、2025年6月頃から8月頃の推計ウィッシュリスト登録数ランキングにおいて、対象ソフトが3万3000本以上ある中でトップ1000位にランクインするには4万4000件のウィッシュリスト登録数があればよいとされていた(関連記事)。5万2000件という登録数は、そうした基準と比較すると十分に多い登録数と言える。しかしながら、『Katanaut』は好評を博しつつも大ヒットには程遠く、最大でも同時接続プレイヤー数が83人と苦戦を強いられていることがうかがえる(SteamDB)。

そんな現況を嘆いたEugene氏の投稿に対し、Lyozov氏は意地悪ではなく、あくまで成功を祈る立場からの発言としつつ、「ウィッシュリスト登録数の多さがゲームの成功につながるわけではない」と述べた。そしてゲームの成功に大事なものは「魅力(The Juice)」であるとの持論を述べている。
Lyozov氏は『PEAK』や『Megabonk』を例に挙げつつ、ゲームに押し出せる魅力がある場合には、最小限の準備期間、あるいは適度なウィッシュリスト登録数さえあれば好調なスタートを切れる、と説明。とはいえ「魅力」を備えているかどうかを事前に正確に推し量ることは難しく、プレイヤーによるフィードバックを収集したり、人気のジャンルを選ぶことが有効だとしている。
なお「魅力」の定義をユーザーから問われた同氏は、ゲームのビジュアルスタイルやゲームプレイ、物語上の設定などどんな要素であれ「めちゃくちゃクールと思わせる(that makes you go “woah fucking hell that’s so cool”)」要素になっているかどうかを基準として挙げている。かなりざっくりとした説明ではあるものの、膨大な新作ゲームの中で異彩を放つことが重要という考えなのだろう。
Lyozov氏のいう「魅力」が『Katanaut』の初動売上に影響したかどうかは定かではないものの、“発売時期”は伸び悩みの要因になった可能性がある。というのも『Katanaut』は日本時間8月21日未明にgamescom 2025にて実施されたFuture Games Showにて、9月11日にリリースされることが発表された。ところが日本時間ではその当日夜に『Hollow Knight: Silksong』が9月4日に発売するとサプライズ発表。Lyozov氏によればすでにパブリッシャーとリリース時期を相談し、多額の費用を費やしてgamescom 2025でのリリース日発表やプレスリリース・解禁日指定などが固まっていたこともあり、もはやリリース延期をできる状況ではなかったという。このほか9月25日には『Hades II』が正式リリースされるなど、9月は規模を問わずさまざまな話題作が集まることとなった。発売時期の設定が初動の売上に大きく影響した可能性は考えられるだろう。

そのため、たとえウィッシュリスト登録数を多く集めていたとしても、ほかの要因に左右されて売上本数に繋がらない例もあることがうかがえる。またそもそもウィッシュリスト数から売上を推測することは難しいという見方についてはこれまでにも度々議論されてきたトピックだ。そもそもSteamを運営するValveもウィッシュリストに関して、売上を正確に予測するための数式はないと案内している。
それでも一定の指標を見出そうとする試みはあり、たとえばゲーム開発者向けマーケティング情報などを提供するGameDiscoverCoの創設者Simon Carless氏はSteamで販売されたPCゲームの売り上げ本数と、そのウィッシュリスト登録者数の関係をコンバージョン率として長期にわたって分析(関連記事1、関連記事2)。一定の傾向も推察されているものの、やはりウィッシュリスト登録数自体がかならずしも売上に直結するとはいえないことがうかがえる。
発売前の作品のユーザーからの期待値を推し量る指標のひとつとなっているウィッシュリスト数。ただ実態としては、たとえば“セール待ち”を目的として登録するユーザーもおり(関連記事)、少なくとも初動の売上本数を正確に測る指標とはならないのだろう。裏を返せばセールなども含めた長期的な売上に影響する可能性はあり、今後もGameDiscoverCoをはじめ業界でのコンバージョン率の分析は注目される。
ちなみにEugene氏の投稿は現時点で800リポストを超えて話題となっており、返信では購入したというユーザーや、Lyozov氏の投稿を受けて「“ジュース”がたっぷり(so much juice)」と魅力にあふれたゲームであると評価する声も寄せられている。Lyozov氏の愚痴が一転宣伝効果を発揮したかたちと言え、『Katanaut』の再起にも期待が寄せられるところだ。
