明け方にトイレかなんかで起きちゃって二度寝する時、浅い眠りの中で見る三本立てぐらいの夢。妙にリアルだけどフワッとしてて、なんか思いがけない展開とかアイデアに「これ起きたらメモしなきゃ」って思うけど、起きたら完全に忘れてるかメモの内容がよくわかんなくて楽しいあの感じ。
Q-Gamesの新作『
Dreams of Another』は、そんな感じのふにゃふにゃした不思議な魅力のある作品だ。プレイステーション5(PS VR2も対応)およびPCで10月10日に発売される本作をひと足先にプレイしたので、本作のディレクターのBaiyon氏(Q-Games クリエイティブディレクター)へのQ&Aも交えつつ、その内容をご紹介しよう。
銃で物体を具体化する逆TPS。でもそれだけじゃない 『Dreams of Another』では、なにもかもがモヤーっとした世界にアサルトライフルを撃ち込むと、そのモヤモヤが散って人やさまざまなモノの形が出来上がっていく。普通のFPS/TPSみたいに銃を撃って何かを壊すんじゃなく、銃を撃ったら何かが形作られていくという一種の“逆TPS”とも言えるだろう。
さて、本作で使われている点群(ポイントクラウド)は、点の集合によって3Dの空間を表現するという、最近再注目されている手法だ。それを応用して、ふにゃふにゃした夢の世界を表現したこのビジュアルと仕掛けは印象的だし面白い。だけどもそれは『Dreams of Another』の体験の一面でしかない。
ディレクターBaiyonへのミニQ&A
――夢の世界を体験していくコンセプトと、点群を使ったビジュアルはどちらが先にあったんでしょう?
Baiyon
元々クリエイターとして長年持っていた“破壊と創造”というテーマが、ポイントクラウドの映像を見た時に結びつきました。
よくある点群の映像では、点群が集まって形をつくりだすものがほとんどでした。それを逆再生して、大きい点群を銃で撃つことで、破壊され小さくなり細かくなって飛び散って元の場所へ戻ってくる。
そのプロセスを繰り返すと点群がどんどん細くなって景色やモノが見えてくる。「これによって“壊しているけど創っている”という感覚が得られるのでは?」と思い、実験するところからプロジェクトはスタートしました。
最初に思いついた時にもう全体的なアイデアはできていたのですが、その時点でストーリーを絡めた夢というのも組み込まれていたと思うので、ほぼ同時かも知れないです。但しアイデアとしてはポイントクラウドが必須でした。
モノのボヤキに思わず納得 『Dreams of Another』はこれまでのキュー・ゲームスのタイトルの中でもかなりストーリー要素が大きく、サイドコンテンツも含めた複雑な物語体験が核となっている。
たとえばこの世界では、点群のモヤモヤから出現した何気ないもの、たとえばベンチやブランコが、
”ベンチやブランコならではのボヤキ”を語り始めたりする。話の本筋とはあんまり関係ないんだけども、「そりゃまぁ“ベンチ界”ではそれが常識だろうね」って変に納得しちゃったりして、妙におかしいのでつい聞いちゃう。
「あー、なんとなくわかる」って感じの話が多くて、ついクスッと笑わされるというか。
そんな感じに、ヘンだけど美しく、尖ったデジタル表現でありながら妙に人間くさい部分があり、哲学的なテーマが見え隠れするけどユーモアもたっぷり。相反しそうな要素がいい感じにミックスされているのが『Dreams of Another』の不思議な魅力だ。
ビジュアルだけでなく、もともと実験的なクラブミュージックのアーティストでもあるBaiyon氏によるサウンドも、ローファイなビートが妙にヨレてたり、エフェクトがかってモコモコしてたり。ボイスも同じように、妙に抑揚が抑えられてたり、声が重なって聞こえたりといった感じだ。(※ちなみに
シングル『A Farewell Redrawn』が配信中とのこと)
ディレクターBaiyonへのミニQ&A
――アーティストとして、デジタルな手法とアナログな手法など、異なる要素を混ぜるのは普段の制作から意識していることなんでしょうか?
Baiyon
そうですね、とにかく対になるものを融合しようとする癖はあると思います(笑)。たとえばゲームは、ロジカルにプログラムを組み立て、制御することで成り立っている。そうするとどうしてもゆらぎというか、グルーヴみたいなものを入れたくなるんですよね。
自分としては、無限の可能性があるデジタルの世界に対して、アナログの性質を持ち込むことによって、それは紛れもない一度きりの本物の痕跡ですから、それをどうよく体験してもらえるかを考えることになります。
つまりそれ(アナログな素材や要素)を可能な限りそのまま使うことを考えるので、選択に対して迷いがなくなるというか……言い換えると、制約を与えることで想像力の限界を突破しようとしているのかも知れません。そして、そのリアルな痕跡を組み込むことによって、よりプレー体験が豊かになると信じています。
――モノの声がちょっと変調されて聞こえるんですが、ボイスについてのこだわりは?
Baiyon
主要キャラ以外のモノのセリフ群は、モノの性別を特定したくなかった(というかそもそも出来ない)ので、同じセリフをわざわざ男性と女性の声優さんに演技してもらい、それを混ぜることで、あの声を実現させています。
当然、話すスピードやタイミング、アクセントなどがずれますが、ある程度は修正するものの微妙なズレが残ることで音楽におけるグルーヴのような、夢のようなズレた感覚が表現できていると思います。
実際プレーしてもらった人に聞くと「あのドアは男性に感じた」とか「女性だと思う」と人それぞれに解釈があり、それがまさに私が実現したかったことでした。体験したプレーヤーの耳がその瞬間どちらの声に意識が向くのか、それによってまた受け取り方が変わるのは面白いですよね。
探索で聞いたボヤキは後でまとめてチェックできる。メニュー画面に戻された時にでも気分転換に見直すとよい
夢のように蛇行しながら進む物語 いろんなものがミックスされたモワッとした感じは、ストーリー体験にも共通している。ゲームとしては一種の3Dアドベンチャーゲームで、どこかの街角とか遊園地っぽい場所といったようなバラバラのシーンの中を探索してていき、何があったのかわかってくると次のシーンへ……という感じで進んでいく。
だけどもそれぞれのシーンはシャッフルされた断片的な話で、前後はあんまり繋がらない。しかも定期的にメニュー画面に戻ってきたり、突然脈絡もないシーンが出てきてブツッと切れたりもするので、本当に夢でも見てるみたいだ。
とはいえ、それらバラバラな断片はやがてひとつに繋がっていく。直線的にパキッと話が進行するのをあまり期待せずに、フワッとした空間の中で日常的なモノのイメージと戯れながら、流れに身を任せて目の前の物語をゆるく体験していくのをオススメしたい。
ディレクターBaiyonへのミニQ&A
――定期的にメニュー画面に戻るような構成にしているのはなぜ?
Baiyon
そこで一休みしてもらう感じですね。実際に夢から覚めて続きを見ようとするあの感覚って面白いですよね。
続きが気になれば再開してもよし、Sentimentsメニューで集めたモノのセリフをぼーっと眺めて物思いに耽るもよし(ちなみにランダムにセリフが表示される機能もついています)、区切りとして続きはまた明日にして、本当の眠りにつくのもよし…といった感じです。焦らずゆっくりプレーしてもらえたらとても嬉しいです。
主人公のパジャマの男が行く先々にいる兵士風の男。彼らの関係性などもやがて見えてくる。
断片的なシーンの連なりから投げかけられる根源的な問い ちなみに、ゲーム内の用語としていきなり“アウラ”(ドイツの思想家ヴァルター・ベンヤミンが提唱した概念)とか出てくるので面食らってしまう人もいるかもしれないが、それがなんなのか知ってる必要はないので大丈夫。
むしろそういった言葉を知らなくても、「モノの“本質”って何?」とか「“表現”ってなんなんだ?」というような根源的な問いを、さまざまなエピソードを通じてわかりやすく投げかけてくるのが本作なのだ。
参考までに筆者のクリアーまでは5時間程度。公式には7~10時間程度を想定しているとのこと。ゲームは10月10日にプレイステーション5/PC向けに発売される。
ディレクターBaiyonへのミニQ&A
――この作品を作るにあたって影響を受けた映像・音楽・文学作品などがあれば教えて下さい。
Baiyon
ゲーム作りを目指すようになったきっかけとして、強く影響を受けたのは『MOTHER』シリーズです。今回も影響は計り知れないと思っています。
それとミランダ・ジュライの映画
『君とボクの虹色の世界』や、彼女が手掛けた、フリーペーパーの「売ります・あげます」欄に“へんてこなモノ”を掲載している人たちへのインタビュー集『あなたを選んでくれるもの』、哲学ではアラン・ワッツやジャック・デリダ、生物学では福岡伸一氏の『動的平衡』などにも影響を受けています。日本のテレビ番組では『探偵!ナイトスクープ』でしょうか。
いずれの作品にも共通しているのは、洞察の深さや独自性、そしてユーモアの絶妙なバランスです。今回の作品でも、そうした影響のもと、本来なら相反する感情――“泣き”と“笑い”が同時に起こるような体験を目指しました。