とある“AI生成映像”が注目を浴びたことをきっかけに、それが再現されたかのような「3Dドット絵ゲーム」の制作がゲーム開発者の間で盛り上がりを見せてきた。そうした中では、プロジェクト名が発表され、開発が本格的に進行しているゲームも登場している。
発端となったのはXユーザーのDesimulate氏が7月21日に投稿した動画だ。同氏が「on my way(今向かってる)」を意味する「omw」との言葉を添えて投じた動画は、松明と剣を持ち、遠景の城に向かって歩く一人称視点のゲーム風映像となっている。ドット絵で広大な3Dフィールドが表現されたこの映像は大きな反響を呼ぶこととなった。
しかし、制作したDesimulate氏本人の説明によれば、これはAIツール「Midjourney」を用いて生成されたコンセプトアートだという。ただ、背景とキャラクターの身体が綺麗に独立して描写されており、実際のゲームプレイのようにも見える。実在するゲームのティザーだと勘違いしたユーザーも多く、またこうしたドット絵での遠近表現を「AIが発明した」といった見解を述べるユーザーも現れ、コミュニティで物議も醸していた。
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Interesting to see the praise for this AI-invented visual style. Everybody wants it, and indie devs are rushing to prototype it & make it real. https://t.co/rASfMaZpxM
— Tim Soret (@timsoret) July 21, 2025
こうした状況を受けて、さまざまなゲーム開発者たちが、同様の3Dドット絵ゲームを“人力”で開発してきたことを反論したり、あるいは再現できることをアピールしたりする流れも見られた。一連の投稿を引用リポストするかたちで、人の手で制作されたゲームの一場面が次々と投稿されていくムーブメントへと発展。あくまでも人の手で作られ、実際にキャラクターを操作してプレイすることもできるという点などがアピールされている。
そうしたなかで、先日にはステルスシミュレーションゲーム『Project Shadowglass』が発表。開発者のDominick John氏が、前述した投稿からインスピレーションを受けて開発したことを公言している作品だ(関連記事)。PC(Steam)向けに2027年の早期アクセス配信を予定しているそうで、製品化に向けて本格的に開発されている様子。John氏は開発元Starhelm Studiosのリードソフトウェアエンジニアであり、独自に開発したという3Dドット絵技術を導入。360度見渡すことのできる3D空間がすべてドット絵で再現されるとのこと。Steamのウィッシュリスト登録数はすでに2万2000件に達しているといい、先述したAI生成映像の文脈も踏まえて大きな注目を集めているようだ。そんな経緯もあってか、同作の公式サイトには、AIで生成された映像であることを否定する文章が掲示されている
ところで、「omw」の投稿で議論を巻き起こしたDesimulate氏本人はというと、今年8月になんと自身もゲームを作ることを発表。現在は「omw」の名を冠したOMW Game Studioとして、Unreal Engine 5を用いた作品を制作している。一緒にゲーム開発に協力してくれるアーティストを募っており、制作の中ではAIツールを用いないとしている。海外メディアPush To Talkによるインタビューの中での発言によれば、Desimulate氏はエンジニアであり昔からゲームを作りたかったものの、かつて挑戦して挫折したという経験があったのだという。しかし同氏は「omw」の動画がバイラル化してたくさんのユーザーが関心を寄せたことを受けて、そのチャンスを活かすことに決めたようだ。
いずれにせよ、AIツールによって生成されたゲーム風のコンセプト動画が引き金となって、3Dドット絵ゲームというアイデアが日の目を浴びている格好だ。AI生成技術自体は、権利問題などを巡って一部クリエイター間で批判視されている状況があり、「omw」の動画はそうしたクリエイターの反抗心に火をつけた側面もあるかもしれない。結果としてゲーム開発コミュニティの盛り上がりへと繋がっており、今後どのような3Dドット絵ゲームが現れるのかも注目される。