イシイジロウ×人狼TLPT×ケムコによる新作人狼ADV『Depth Loop』(デプスループ)が発表されてから約1年。東京ゲームショウ(TGS)2025にて、満を辞して試遊バージョンが出展されており、TGS期間中の9月27日にはSteamストアページもオープンするなど、ADVファンを中心に話題となっている。

さて、突然だがイシイジロウ氏が『Depth Loop』で目指すのは、単なる人狼シミュレーターではない。

本作の人狼ゲームはタイトルからもわかるとおり、人狼TLPTの中でも人気シリーズである「DEPTH」(2015年2月初演)を題材としており、「13人ルール」を採用。一方で、「人狼を見つけ出す」という体験こそパーティーゲームとしてのそれと一致しているものの、前提はまったく異なる。

“パンデミックを救うワクチンを作るために人間が人狼を実験に使う。逃げ出した人狼は、生き延びるために人間を襲う”──。

そんな、単純な正義と悪の二分法では割り切れない状況下で議論は始まる。本作での人狼は“吊るべき悪役”ではなく、プレイヤーと同じように生き延びたいと願い、テーブルにつく一個人である。

『Depth Loop』イシイジロウ氏インタビュー:人狼ゲームそのもの」を解き、“今までADVで見たことがない景色”を目指す_001

議論の場に並ぶのは、約13年間にわたって人狼を演じ続けてきた「人狼 ザ・ライブプレイングシアター(TLPT)」【※】の俳優陣たちだ。俳優陣がキャラクターとしてゲームに登場。キャラクターのAIはTLPTの膨大なアーカイブをもとに作られており、個性やスキルはもちろん、舞台の上で培われた「死にたくない」という生々しい意思さえも吹き込まれている。

※人狼TLPT:
人狼ゲームをベースにしたライブ・エンターテインメント。演者は開演直前に渡されるカードによって役職を決められ、オープニング以外をすべてアドリブで演じる。そのため、毎公演異なる物語が展開していくことが大きな特徴。TLPT 13人ルールでは、これまでに851公演が行われている。

イシイジロウ氏は、「人狼ゲームのシステムを解くことによって物語が進んでいく作品を作りたかった」と語る。プレイの中で問われるのは、自陣営の勝敗だけではない。プレイヤーは役職や立場を変えながら人狼ゲームを繰り返し、人狼ゲームのシステムそのものを“解く”ことへと導かれていくのだ。

本インタビューでは、同氏が目指す「人狼ゲームのシステムを解く」ことについて掘り下げつつ、13人という人数設定の狙いや本作が目指す体験の核心に迫る。

『Depth Loop』イシイジロウ氏インタビュー:人狼ゲームそのもの」を解き、“今までADVで見たことがない景色”を目指す_002

聞き手/豊田恵吾
編集/anymo

『Depth Loop』公式サイトはこちらSteam『Depth Loop』ストアページはこちら

目次

「投票が遅いと疑われる」リアルな人狼の駆け引きをゲームに落とし込む

──発表から約1年が経過しての試遊出展となりましたが、TGSで試遊を出すことは以前から決められていたのですか?

イシイジロウ氏(以下、イシイ氏):
はい、目標にしていました。しっかりと試遊できるクオリティで間に合うか、本当に直前まで現場とチューニングを行っていました。完全新作となりますので、プレイいただけるクオリティまで持っていけるかどうか、本当に心配だったんです。

人狼ゲームとして程度が低いものは出せませんし、ケムコさんも自信を持って出せるレベルまで漕ぎつけられるかというギリギリの制作で、結果として電撃出展になりました(笑)。

毎週毎週テストプレイして、「ここで予言者がカミングアウトしなきゃおかしいだろ」みたいな話をたくさんしていましたので。

──今回、イシイさんはどういった立場で制作に関わっているのですか。

イシイ氏:
企画・総監修を務めています。肩書はついこのあいだ決めました(笑)。今回はディレクターでの参加ではなく、ケムコさんやシナリオライター、デザイナーにがんばってもらっています。監修に「総」をつけたのは、監修プラスアルファでもっと踏み込んだ監修をしているからです。

──試遊でゲーム内容が初めて明らかになったわけですが、人狼TLPTの役者陣がそのままゲームに登場していることに驚きました。

『Depth Loop』イシイジロウ氏インタビュー:人狼ゲームそのもの」を解き、“今までADVで見たことがない景色”を目指す_003

イシイ氏:
TLPTという錚々たる人狼俳優陣の中に混ざり、プレイヤーのひとりとしてプレイできるというのは、人狼を遊ばれている人たちの夢じゃないですか。それを実現できることが、本作のポイントのひとつです。

キャラクターのAIについても、TLPT役者陣の個性や人狼スキルをしっかりと入れ込んでいます。本当にあのメンバーの中でプレイしてるような体験を目指し、チューニングをしています。

『Depth Loop』イシイジロウ氏インタビュー:人狼ゲームそのもの」を解き、“今までADVで見たことがない景色”を目指す_004

──13人ルールで、TLPTのキャラが12人。プレイヤーは13人目のキャラクターとなりますが、発言もできるのですか?

イシイ氏:
選択肢を選ぶことで、コマンドとして発言できる仕様になっています。選んだ発言や関係値によって人狼に狙われやすくなるので、リアルな体験に近いと思いますね。

わかりやすい点としては、投票が遅いとめちゃくちゃ疑われます。

TLPTには自由投票というシステムがあるんです。「せーの」で投票するのではなく、ひとりずつ任意の順番で投票する。だから、投票順にもすごく意味があるのですが、その仕組みを本作にも採用しています。

そういった人狼ゲームの駆け引きも作中にしっかりと入っています。やっぱり人狼は、仲間を助けるためにみんなの投票を待ちたいですからね。気楽に「みんなの様子を見てから投票しよう」と思ったら、もうあっという間に疑われます。

人狼にも、狂陣にも正義がある。「人狼だから悪」ではない世界での人狼ゲーム

──ゲームの内容について整理したいのですが、『Depth Loop』はADVパートがありながら、その中に人狼ゲームがある、ということなのですよね?

イシイ氏:
おっしゃるとおり、アドベンチャーゲームとしての『Depth Loop』の世界の中に人狼ゲームがある、というのが本作の世界観です。“人狼ゲームが遊べるだけのゲーム”ではなく、人狼ゲームが物語の一部になっているものです。

ただ、レベルの高いAI人狼ゲームを作るということ自体が、アドベンチャーゲームを作るよりもハードルが高いんですよ。

先行して出ているAI人狼ゲームに負けないように、しっかり作り込んでいます。人狼ゲームだけプレイしても「おもしろくなかった」と言われたくないですし、AI人狼ゲームとしてのクオリティについて徹底的にこだわって制作を行っています。

『Depth Loop』イシイジロウ氏インタビュー:人狼ゲームそのもの」を解き、“今までADVで見たことがない景色”を目指す_005

──ゲームのサイクルやシステムを、もう少し詳しく教えてください。人狼ゲームを繰り返してプレイする……というゲームデザインなのでしょうか?

イシイ氏:
プレイヤーが人狼ゲームを繰り返す中で、何らかの物語が紡がれていきます。

僕自身、人狼ゲームを10数年やっている中で「人狼ゲームのシステムを解くことによって物語が進んでいく」という作品を作りたかったんです。

たとえば、プレイヤーが人間陣営で敗北してもそこで物語が終わるのではなく、敗北したうえで物語が続いていくんです。プレイヤーは「お前はこの世界を解き明かすため、また人狼ゲームをしないといけない」と告げられます。

今回の試遊バージョンでは、司令官の「サミー」というキャラクターがナビゲーションする様子を見ることができます。彼が再び、主人公を人狼ゲームに導いていくんですね。「お前の答えは、今回のゲームをしたことでは見つからないぞ」、「もう一度やれ」、「もう一度やれ」、「そこの先に何がある?」といったように。

『Depth Loop』イシイジロウ氏インタビュー:人狼ゲームそのもの」を解き、“今までADVで見たことがない景色”を目指す_006

──プレイヤーによってプレイ時の内容や結末は異なってくるということでしょうか?

イシイ氏:
もちろん、そうなります。プレイヤーのポジションも、キャラクターのポジションも、ループごとに異なるものになります。

これは初めて話すことですが……本作における人狼はただの役職・悪役ではなく、「人狼という人格」なんです。名前もあれば、家族も過去もあります。もちろん知性も感情も。

本作は、「人狼であれば悪」というわけではないんですね。

本作における人狼ゲームは、“人類絶滅級のパンデミックを救うワクチンを作るために、人狼を実験に使っていて、逃げ出した人狼が生き延びるために人間を襲う”……という、バックグラウンドの中で人狼を見つけるためのものなんです。ですので、人狼陣営には人狼としての正義があります。

──正義と悪の激突ではなく、それぞれの正義のぶつかり合いということなんですね。

イシイ氏:
たとえばプレイヤーと「マドック」というキャラクターの役職が人狼だった場合、「マドックでなくて、その名前のある人狼の気持ち」でプレイする事ができるわけです。キャラクターごとに、人狼や人間などすべての人格(役職)の視点で彼らの背景を覗いていくことによって、物語の本質が見えてきます。

プレイヤーは『Depth Loop』の世界の運命を決めるために人狼ゲームを繰り返し、そして人狼ゲームのシステムの本質を解き明かすことで、ローグライクアドベンチャーゲームである『Depth Loop』の答えを見つける。ちょっと、ややこしい話なんですけど……(笑)。

『Depth Loop』イシイジロウ氏インタビュー:人狼ゲームそのもの」を解き、“今までADVで見たことがない景色”を目指す_007

イシイ氏:
かつて『グノーシア』のプロデューサーである川勝徹さんは、同作を「ローグライクアドベンチャー」という言葉を使って紹介していました。

関連記事

6000回ものテストプレイが傑作人狼ゲーム『グノーシア』を産んだ!「汎用テキストの再利用」によって誕生した、「本当に1000回遊べる推理ゲーム」の作り方とは

ローグライクアドベンチャーというものは、ランダム性を持つゲームを繰り返しながら物語を紡いでいくものなんですね。『グノーシア』がリリースされてから6年。

「ローグライクアドベンチャーというものを、もう一歩先に進めてみたい」。『Depth Loop』でもっとも強く意識しているのは、この気持ちなんです。

──校正をお出しするので、ぜひ本作についての図解をいただけるとうれしいです(笑)。もう少し本作のADVとしての特徴を教えてください。

イシイ氏:
たとえば『レイジングループ』で描かれるのは、当たり前ですが『レイジングループ』というアドベンチャーゲームの物語ですよね。

『グノーシア』も、AI人狼ゲームをしながら『グノーシア』というゲームの物語のフラグを立てていく。

本作が『レイジングループ』や『グノーシア』と少し違うのは、「大量にあるループ世界の矛盾と向き合うために、人狼ゲーム自体を解き明かす」ということ自体がテーマになっているところかもしれません。

『Depth Loop』イシイジロウ氏インタビュー:人狼ゲームそのもの」を解き、“今までADVで見たことがない景色”を目指す_008

ただ、物語が先に進むためには人狼ゲームのフラグを探すのではなく、キャラクターたちのバックグランドを解き明かすフラグを探していく必要があります。これはまさにローグライクアドベンチャー的だと思います。そして、最後には人狼ゲームというシステムと向き合う事で物語の深淵を覗き込むことになります。

ランダム性を持つゲーム、つまり、サイコロを振ってさまざまなストーリーが展開するゲームにおいて、その「サイコロとはなにか?」「確率とはなにか?」を解き明かしたところに、このゲームのゴールがある……人狼ゲームはもう少し複雑なので、「人狼ゲームとはなにか?」いやさらには「ゲームとはなにか」とも言えますかね。そんな物語を作りたかったんです。

13年間、人狼公演をやり続けた「TLPT」の膨大なアーカイブをゲームに落とし込む

──TLPT俳優陣それぞれの個性を、AIに念入りに落とし込んでいるんですね。

イシイ氏:
はい、シナリオライターが大量の舞台のアーカイブを見て取り入れています。

──(笑)。さらっとおっしゃいましたが、それは恐ろしい作業量ですよね?

イシイ氏:
今作で採用した13人ルールの公演をしっかり見てもらったうえで、各役者の個性をキャラクターとして落とし込んでもらっています。

本作は約13年間、人狼公演を続けているTLPTといっしょに制作を行っています。TLPTには13年間全851試合の人狼ゲームアーカイブがある。僕たちがAIでシミュレーションしていちから作らなくても、さまざまな組み合わせ、奇跡的なドラマがアーカイブとして大量にあるわけです。

人狼における「様々な組み合わせで起きるおもしろいシチュエーション」を最初からゲームに落とし込めていることが、これまでの人狼ゲームと決定的に違うところですね。

──「人狼ゲームのシステムを楽しむゲーム」ではなく、TLPTの個性や魅力、特徴を落とし込んで、そこから生まれるシチュエーション、ドラマ、熱量を体験できるということですね。

イシイ氏:
はい。物語生成エンジンとも言える人狼TLPTが作り出した大量のアーカイブから、その体験がゲームとして生み出されます。

本作における人狼ゲームのポイントは、ハズレキャラクターがいないということです。

人狼ゲームって、どうしても吊るされやすい影の薄いキャラが出てきちゃいますよね。でも人狼TLPTは違う。13人の役者さんたちが舞台の上で「俺が1秒でも生き残るんだ」と演じている。処刑されてしまったら、役者としての出番がなくなってしまうわけですから、生き残ることへの執着は本物です。その、本気の「死にたくない」という想いが、ちゃんとこのゲームに入っています。

もちろん、AIを組み立てるうえで、登場する役者さんにも本作をプレイして意見をもらおうと思っています。

『Depth Loop』イシイジロウ氏インタビュー:人狼ゲームそのもの」を解き、“今までADVで見たことがない景色”を目指す_009

──人狼TLPTの魅力である、「二度と同じ展開のない、唯一無二の体験」となっているわけですね。

イシイ氏:
脚本のないアドリブ劇というライブエンターテインメント性、演者の演技力と鋭い心理戦など、人狼TLPTの魅力を再現できるようにがんばっています。

もちろん、役者さんをAIに移し変えるというのは、なかなか簡単にはできないことですが、近い体験ができることを目指しています。

──本作に登場する12人は、どういった基準で選出されたのですか?

イシイ氏:
人狼TLPTの主催の桜庭さん【※】といっしょに……というか、ほとんど桜庭さんに提案していただきました。でも、意見が被ることも多かったですね。

惜しくも選出からもれてしまった役者陣は、可能ならDLCとしてキャラクターを増やせれば……と思っています。人狼TLPTの面々もそうですし、それ以外の有名な人狼プレイヤーさんとかも追加できるといいですよね。

人狼TLPTの舞台での「DEPTH」の世界観には、すでに構築されたストーリーがあります。ですので、そこにほかのキャラクターが入ってくると、齟齬が生まれてしまいますよね。

でも、人狼シミュレーターの部分を独立してプレイできるようにして、そこに新しいキャラクターも追加できるようにしたいんです。とはいえ、作品の人気がないとなかなかDLCなども実現しづらいので……ぜひ本作を応援していただければと思います。

※桜庭未那(さくらば まな)
人狼TLPT代表であり、総合プロデューサー。2012年、人狼TLPTを自主企画で上演し、人気コンテンツへと育て上げる。

『Depth Loop』イシイジロウ氏インタビュー:人狼ゲームそのもの」を解き、“今までADVで見たことがない景色”を目指す_010

「13人」の人狼ゲームがいちばん解けなくて、いちばんおもしろい。「解」のないものを置かないと、ローグライクにならないからこその13人

──開発中でのテストプレイの反響はいかがですか?

イシイ氏:
ケムコさんの社内で何回もテストプレイを実施しているのですが、メモ機能などのおかげで「プレイしやすくなったよね」というフィードバックがありました。

コマンド選択画面、投票画面等では、情報を確認しやすいように、戦況や投票の履歴を1画面ですぐに見れるようにしています。いままさにユーザーさんからのフィードバックも集めているので、どんな反響があるのかを楽しみにしています。

『Depth Loop』イシイジロウ氏インタビュー:人狼ゲームそのもの」を解き、“今までADVで見たことがない景色”を目指す_011

イシイ氏:
メモ機能は、キャラクター一覧表示画面ではどこでも利用できることがポイントなんです。情報の一覧性があるということは、そのメモをもとに人狼か、人間かをロジカルに詰められるということです。

キャラクター全員がロジカルに動いてないと、履歴などの情報は怖くて出せない。ロジカルに動いてるからこそ出せるものなんですね。情報を全部書き出せば、人狼や人間は案外見つけやすいんです。でもやっぱり、そういった定石の上を行くのが人狼ゲームのおもしろさでもありますよね。

それから、ゲームがある定石のパターンが固定して人狼や人間が一方的に強くなったら、その定石のパターンをズラすことによって結果勝率が変化する……といった現象が人狼ゲームのトレンドとしてあります。最善手だけではなく、次善手や悪手を入れることによって、定石の流行が変化する。そういったことも、できるだけAIの思考に組み込みたいなと思っています。

──本作でのプレイヤーのカタルシスをどう考えて設計されているのですか?

イシイ氏:
そこに関しては2点、考えがあります。まずひとつは、人狼ゲームだけを抜き出してもずっと遊べるぐらいのレベルの作品を作りたい、という理想。

ふたつ目は、アドベンチャーゲームでいままで誰も見たことがない景色を見せたい気持ちがあります。

いまでも僕は月に1〜2回、プライベートな会で人狼を12年以上続けています。もう軽く1000試合は超えていると思います。人狼を続けていることは、伊達じゃないということを証明したいです。

『Depth Loop』イシイジロウ氏インタビュー:人狼ゲームそのもの」を解き、“今までADVで見たことがない景色”を目指す_012

ちなみに、いまはケミカル人狼っていうのが流行ってるんです。15人ぐらいでプレイして、役職を2枚配るんですよ。

たとえば人狼と予言者が配られたら、「予言者の能力を持ってる人狼」になるんですよ。役職を足すんですね。このとき、人狼なのか人間なのかという陣営の優先度がありつつ、予言者と人狼だったら、人狼陣営が優先される。この複雑さがこれまでの人狼とは違ったおもしろさを生み出していたりと、人狼ゲームもいろいろ進化しているんです。

あらゆる人狼ゲームをやりながらも、今回の作品はシンプルなルール、かつ13人でのプレイにしました。13人ってシンプルなんですが、すごく複雑性を持っていて飽きのない人数なんです。

──イシイさんとしては、13人の人狼ゲームがいちばんおもしろいと考えてらっしゃるんですか?

イシイ氏:
13人がいちばんだと思います。わかりやすく言うと、そう簡単には詰まないんです。人狼のルールを把握してる人間が13人でやると、まず詰むことがない。最後までずっと悩み続けることができます。

『Depth Loop』イシイジロウ氏インタビュー:人狼ゲームそのもの」を解き、“今までADVで見たことがない景色”を目指す_013

「9人の人狼ゲーム」と「13人の人狼ゲーム」って、ゲーム性が違うんです。人数によってゲーム性が変わるんですよ。9人ルールで覚えたことは13人ルールで役立つことはありますが、やっぱりゲームとしては違うものになります。

本作はプレイを始めたら最初からプレイヤーを含めた13人が揃った状態で始まります。これがポイントなんです。13人のルールは、7人とか9人では説明できないものなんですね。

──13人での人狼は「まず詰むことがない」というのがポイントなんですね。

イシイ氏:
解のないものを置かないと、良いローグライクにはならないと思っています。

9人ルールだと、あるパターンに入ると人狼が「はい人狼です、殺してください」と、降参する流れになってしまいます。13人ルールは、そのパターンに入りにくいところがすごく良いのです。

『Depth Loop』イシイジロウ氏インタビュー:人狼ゲームそのもの」を解き、“今までADVで見たことがない景色”を目指す_014

──体験版を出す可能性はあるのでしょうか? 今回の試遊は人間陣営でしたが、人狼陣営でもプレイしてみたいと感じたので……。

イシイ氏:
できれば人狼部分だけの体験版とか……。でも、ループする作品だから「途中で止めちゃっても」……という懸念があるんです。

プレイしていただくと、人狼ゲームの見方が変わると思います。実は人狼TLPTの魅力って、処刑されるシーンだったりするんですよ。舞台の人狼ゲームは処刑がいちばんの見せ場なんです。人狼ゲームは「処刑されたら終わりじゃん」と思うじゃないですか。でも、人狼TLPTはそこが違う。

処刑のときに何を残すか、そしてそれを生存者の誰が受け取るのか? それがあとの展開にどんなドラマをもたらすかを決める。この蓄積が、大きな物語、ドラマに蓄積されていくわけです。これは、既存の人狼ゲームにはない特徴なんですね。

──「人狼を処刑しました」で終わりではないと。過程はいっしょだけど、そこで描かれるもの、蓄積されていくものが違うということですね。

イシイ氏:
例えば人間陣営なら処刑される前に「自分は何を残すのか」という話をするでしょう。それを人間か人狼かの確信がないまま見送る事も多いでしょう。

しかし、人狼陣営であれば「名前のある仲間の人狼が死んだ」と見える。処刑される方も仲間の人狼に何を残すのかをバレずに伝えなければならない。決して「自分の陣営が1枠減った」ではないんです。これが本作がほかの人狼ゲームと本質的に異なる部分です。

前述したように、『Depth Loop』は人類か人狼、どちらが単純に正義か悪かという話ではありません。実験動物にされている、マイノリティである人狼を助けようと思った人間なのですから、狂陣であっても彼らなりの正義があります。

『Depth Loop』イシイジロウ氏インタビュー:人狼ゲームそのもの」を解き、“今までADVで見たことがない景色”を目指す_015

「人狼にも人と同じ名前がある」って言われたら、ちょっとドキッとするじゃないですか。いままでは単なる「人狼」という呼称で、名前がなかった。だから彼らにも名前があるゲームを作りたかったんです。

──なるほど。最後に、本作が気になってる方、楽しみにしてる方へメッセージをお願いします。

イシイ氏:
イシイジロウがアドベンチャーゲームを再び手がける、ということに意味がなければ、やるつもりはなかったんです。

──そこは発表のときから疑問といいますか、引っ掛かりがあったんですね。アルティメット人狼、ゲームクリエイター人狼をはじめ、イシイさんが人狼を遊び尽くしているのを知っている身としては、そんなイシイさんが人狼を題材にしたゲームを開発されることに驚いたんです。つまり、イシイさんが納得できる「ビデオゲームの人狼」って作りきれるのだろうか、と。

イシイ氏:
そういった見られ方をされていることは理解しています。

まだまだ発売までに越えなければいけないハードルがあり、いまは努力しなきゃいけない時期ではあるのですが、人狼アドベンチャーとしてもループアドベンチャーとしても、皆さんにとって新しい驚き、読後感を提供できるものを目指していますので、楽しみにしていだければと思います。

『Depth Loop』イシイジロウ氏インタビュー:人狼ゲームそのもの」を解き、“今までADVで見たことがない景色”を目指す_016

人狼ゲームの勝ち負けにとどまらず、そこで交わされる言葉や行動の意味が物語を形づくる──『Depth Loop』が目指すのは、そんな体験だ。人狼ゲームはここで単なる舞台装置ではなく、物語の主軸であり、解くべき謎として位置づけられる。

「人狼ゲームという仕組みそのものを解き明かす」というイシイジロウ氏の狙いは、ランダムに物語が展開する体験ではなく、プレイヤー自身がそのシステムを理解し、乗り越えることで物語を進めることにある。

「人狼ゲームとはなにか?」いやさらには「ゲームとはなにか」を解き明かす、と語られたこの作品のゴールが何であるのか──それは自らループに飛び込んだ先でしか見つからない。答えにたどり着いたとき、本作でしか得られないカタルシスが待っているだろう。

『Depth Loop』は2026年春、Nintendo Switch、Nintendo Switch 2、PlayStation 4、PlayStation 5、PC(Steam)向けに配信開始を予定している。

Depth Loop © 2024-2025 KEMCO/ORACLE KNIGHTS/JiroIshii
人狼 ザ・ライブプレイングシアター Copyrights © 2012-2025 ORACLE KNIGHTS All Rights Reserved.

『Depth Loop』公式サイトはこちらSteam『Depth Loop』ストアページはこちら

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます

Write A Comment