「落星」は大変動の兆しだった。島を襲う嵐が過ぎたあと、世界のすべてが変わってしまった。海は退き、海底は新たな土地となり、望みと願いが地続きになる。そしてぶつかり合う。助かりたい、救われたい、食べたい、知りたい。失われた歴史がよみがえり数多の名で呼ばれる者を指し示す。終焉を迎える惑星サイアダは宇宙を支配した古代種族エンドレスの伝説なのだ。

ファンタジー・ストラテジーの人気シリーズ作、『ENDLESS Legend 2』が2025年9月22日に早期アクセスを開始しました。前作『ENDLESS Legend』から数えて11年ぶりのシリーズ新作にファンは期待しているでしょう。開発元はシリーズ前作と同じAmplitude Studios、ストラテジーゲームの人気メーカーです。販売元Hooded Horseはストラテジーゲームの日本語版展開に力を入れており、本作はシリーズ初の日本語対応となります。

Game*Sparkは過去にプレイレポートを掲載しました。本稿では主旨を変えてゲーム全容をプレビューします。本作がどのプレイヤー層にマッチしたゲームなのかを、ストラテジー初級者・中級者・上級者の観点で紹介する記事となります。

弊誌記事で述べた通り、本作のゲームジャンルはターン制4Xゲームです。ジャンルの狭義はさておき、本シリーズを始めて体験するゲーマーは本作をファンタジーRPGだと思えばよいでしょう。シンボルエンカウント、タクティカルコンバット、ヒーローのレベルアップやレア装備、といったファンタジーRPGの定番要素ですぐになじめるでしょう。同時に、村作りから都市の発展、国土の拡大にもとりくみます。国そのものを動かす、スケールの大きなRPGです。

舞台の惑星サイアダは大災害に見舞われ、街をひとつも持たないサバイバルから始まります。生き残るために力を合わせて定住する、という目的で最初の都市を建てます。都市を育てながら外敵を排除するサバイバルは、やがて異種族国家との戦争、惑星全土をゆるがす物語へとエスカレートします。世界を救う、または滅ぼす、国家主導者のロールプレイを楽しんでください。

フリーシナリオRPGのようなプレイ感
国家の主導者となり国民を率いる、この特異なシチュエーションに4Xゲーム未経験者は戸惑うことでしょう。何をすればよいか分からない、その不安を解消するのがアートワーク・ゲームプレイ・ストーリーの合致です。前作で好評を博した感じやすさ・楽しみやすさ・分かりやすさ重視の作りは今作も健在でした。

まずは、目を見張るアートワークを通じて世界に慣れましょう。アートブックがそのままアニメーションする、独白付きの国家オープニングムービーが期待をあおります。雰囲気をそのまま3Dモデルにしたマップ画面は荒々しく壮大な自然が広がり、街の建物は人々の暮らしぶりを映します。トールキン様式ではない、オリジナルのハイファンタジー世界を彩る管弦楽のサウンドトラックも聞き応えがあります。種族様式を映すBGMは国の文化をかもし、タイトル画面BGMのフレーズを変調したBGMはゲーム展開のエスカレーションを奏でます。ユニットを動かし、街で建設予定を立て、新技術の研究項目を決めて、ターンボタンを押す。この繰り返しにアートワークを目にする喜びがあるのです。

ゲーム序盤はストーリーがプレイを指し示します。初めて作った都市がかかえる様々な課題を宰相役がクエスト形式で提示します。クエストはストーリー仕立てで目標と報酬を用意します。興味を抱いたストーリーを追う、その好奇心が国家発展の推進力となるのです。チュートリアルは約30分で基本操作とゲーム序盤を説明します。その後も、新しいゲームルールが登場するたびに説明が入ります。プレイ前の勉強を要しません。

クエストが紡ぐストーリーはゲームクリアまで用意してあります。よって、ゲーム中の目標はクエストの達成です。クエスト目的地のほとんどは街の外にあり、道中で戦闘が発生します。ここでファンタジーRPGの勇者役にあたるヒーローの出番です。ヒーローはマップ上の宝箱から得た武具を装備して強くなります。戦闘で経験値を得てレベルアップし、スキルと武具を組み合わせて更に強くなります。おなじみの「戦闘と成長の物語」を楽しめます。

戦闘はタクティカルコンバットです。高い位置から攻撃してダメージボーナスを得る、森に陣取り防御力を高める、といった位置取りが大事です。ここから「陣を敷くゲームだから軍隊を率いたい」、「戦闘ユニットをたくさん作れるよう街を大きくしたい」、「大きな街を作れるよう資源が取れる場所を見つけたい」、と攻略が次々につながります。作中のプレイ順は都市建設〜ユニット生産〜軍隊の戦闘となり本章の紹介と順序は逆ですが、この流れはクエストから逆算できゲームクリアまで迷いません。

上記の通り、ファンタジーRPGの国家をまるごと動かします。多くの項目を一度に扱うのでルールは複雑ですが、ビジュアルを多用したユーザーインターフェースのおかげで快適です。ツールチップは重要項目にアイコンを用い効果を理解しやすいです。その効果と一致したアートワークもすばらしく、見た目でイメージすればだいたい正解です。ツールチップはゲーム用語がハイパーリンクし、サブツールチップにネストします。操作画面をそのままに用語を調べるので大助かりです。どの画面も右クリックが「ウィンドウを閉じる」操作で一貫し、画面の迷子になりません。

プレイヤーに必要な情報を伏せることなく画面操作の利便性を高めたユーザーインターフェースの正直さ。この誠実さでゲームルールへの信頼を勝ち得ました。複雑だけど操作しやすく、問題は多いけど解決方法は明快で、エピックスケールのファンタジーRPGを楽しめます。ルールへの信頼があるからこそ、前作から強化したナラティヴが光るのです。本作は主人公の国家元首が宰相やヒーローと会話して物語を進めます。百年、千年の物語ではなく、個人の出来事として物語を追いやすくなりました。

その物語は世界の崩壊に立ち向かう物語です。ゲーム序盤・中盤・終盤で世界のかたちが変わります。自動生成マップとライバル国家で国際事情も変わります。対処すべきトラブルはたくさんありますが、クエストを優先すれば達成報酬で事態を解決できるでしょう。要は、たくさんのクエストから興味があるストーリーを追えばよいのです。フリーシナリオRPGのようなプレイ感で、ファンタジーファンやストラテジー初心者を迎えいれると保証しましょう。

タイドフォールから始まる新しい4Xゲーム
『ENDLESS Legend 2』の魅力はオリジナル・ハイファンタジー世界を道案内してくれる、ストーリードリヴンなプレイ感です。ターンボタンを押して何が起きるのかワクワクする、好奇心がプレイ意欲を支えます。そして好奇心の源泉となるストーリーは国家の数だけあります。本作は国家ごとに種族が違うのです。

弊誌過去記事で紹介した開発バージョンはプレイアブル国家が3国ありました。そのうち人間種は1国だけです。他の国はサンゴと機械の共生体、獰猛な社会性昆虫です。それぞれに「どこから来て、どこへ行くのか」という伝承があります。伝承にちなんだ富国強兵の独自ルールを持ち、戦闘ユニットの傾向から戦い方も違います。ライバル国家ではない少数部族も別の種族で、平定・同化し自軍に加えると種族ならではの長所で活躍します。異種族衝突・多種族混合のタクティカルコンバットで種族への興味をかきたてました。

早期アクセス版ではシリーズ初の種族、タフークが参戦します。タフークは信仰が篤い研究特化のは虫類種族です。研究力の一部をエネルギーに変換し、チャージ後にマップ兵器や都市バフが使えます。研究力が魔法力になったかのようなプレイ感を、宗教に傾倒した国家というストーリーで補強しました。ここで、ストラテジー中級者は「研究力が強い国家は高性能ユニットを他国よりも先に出せるので強い」と考えるでしょう。その4Xゲームの通例を覆した仕掛けが本作の見どころです。

『ENDLESS Legend 2』はゲーム展開の序盤・中盤・終盤を惑星イベントで区切りました。それが「モンスーン」と「タイドフォール」です。ゲーム開始からしばらくするとモンスーンが始まります。雷雨とともにモンスターが出現する危険な季節です。そしてモンスーン後に、海岸線が後退するタイドフォールが発生します。これまで海だったエリアが新天地となり、性能が高い施設・ユニットに要する戦略資源を発見します。新天地に眠る古代文明の遺跡は重要なストーリー・クエストの目的地になります。そして、これまで海で隔たれていたライバル国と地つなぎになり、資源や物語の焦点になる新天地の争奪戦が始まるのです。

タイドフォールは4Xゲームのゲーム展開に大きな変化をもたらしました。ジャンル代表作『シドマイヤーズ シヴィライゼーション』(以下、Civ)シリーズでは、新技術を開発して新資源を発見しました。外洋船舶を研究して海を越えた新天地に向かいました。本作は海が干上がるタイドフォールで新資源を含む新天地が現れます。技術力に依存しないユニークなゲーム展開となりました。国境となっていた海がなくなりライバル国と交流・戦争が始まるのも面白い仕掛けです。国家それぞれにある序盤・中盤・終盤の強さと向き合うことになり、種族の特徴を強調しています。

これまで海の底にあった、古代文明の遺跡とは何でしょうか。新素材をどのように使えるのでしょうか。国土が広がると国民はどんな欲を抱くのでしょうか。そして隣国は武器を携えてやってくるのでしょうか。次のモンスーンはもっとひどい嵐になるのでしょうか。それら探索・入植・開発・殲滅、4Xゲームのコアメカニクスをタイドフォールごとに繰り返します。新たな地をめぐるストーリーが好奇心をかき立てるのです。好奇心で牽引するモチベーションは前作から大きく発展しました。

プロは最高難度「エンドレス」を選ぶべし
ここからはジャンル上級者向けの話です。ジャンルのコアファンが注目する点は、ズバリ、1万時間遊べるかどうかです。リプレイアビリティはゲーム攻略への興味を保てるかどうかにあります。一方、メーカー過去作は初級者〜中級者向けを想定していました。富国強兵のルールや国家ごとのプレイ感を強調するためバランス調整が大味で、攻略法を見つけやすいよう意図しています。本作も過去作と同様に初級者〜中級者向けの路線ですが、ゲーム攻略への興味を保てるバランス調整を意識していました。

前作からの変更点は大きく3つあります。まずは前章で説明したタイドフォールです。ゲーム展開が技術力ではなくマップの変化に依存します。国力を大幅に高める施設の建設は戦略資源が必要で、各国が同時期に入手可能となるため、国力で上回れるかどうかは新天地の争奪戦にかかっています。ライバル国と接触した時点で圧倒的な国力差をつけるのは難しいです。

都市やユニットを大量に作る数押しも難しくなりました。タイドフォールで海岸線が後退し、進出しやすい土地が領土のそばに現れます。領土拡大のチャンスが公平なので、ライバル国の領土拡大を完全に封じることはできません。ユニットは技術レベル(作中表記、時代)があがると初期レベルと生産コストがあがります。技術力の優位を保証しつつも、過剰な国力を吸収するスポンジとなりユニット数差を押しつけることはできません。

都市スパムやユニットスパムの対策はマイクロ管理問題を防ぐものですが、本作では別の文脈も含みます。戦闘でヒーローやユニットのレベルを活用するのが大事、というプレイ感でファンタジー世界の戦争を盛りあげています。タクティカルコンバットは戦場が広くなり、両軍が戦場の端に陣を展開するようになりました。前作は戦場が狭く、軍隊が接触する方向を調整すれば敵陣の展開を阻害できました。前作のタイトなスペースでパズルゲーム的に戦う楽しさも魅力的ですが、本作には戦闘中だけで決着をつける明快さがあります。

上記3つの変更点は人間プレイヤーの優位を防ぐものです。ルール上でバランス調整を試みていますが、それでも、早期アクセス版の現時点ではAIルーチンが未熟でした。都市を建てる場所やクエストを達成する手順、といった効率化は熟練の人間プレイヤーが勝ります。また、タクティカルコンバットでAIプレイヤーが自損ダメージのスキルをうまく使えないシーンもありました。4Xゲームに慣れたストラテジー上級者が難度ノーマルでプレイすると、ゲーム中盤までにAIライバル国家と勢力スコアが2倍以上も開いてしまいます。メーカーが想定する難度ノーマルの対象はストラテジー初級者や、ストーリーに集中したいプレイヤー向けの難度であり当然の実力差といえるでしょう。

4Xゲームのコアファンは普通(ノーマル)ではありません。ストラテジー上級者だと自覚するプレイヤーには、初回プレイから難度エンドレス(最高難度)を推奨します。このハンディキャップが秀逸でした。AIプレイヤーの国力ボーナスは人間プレイヤーの効率化とほぼ同等です。戦闘ステータスもボーナスが入り、中立ユニットとの戦闘で軍力を消耗しません。初遭遇の時点で人間プレイヤーと互角の戦力を有するため、その後は刺激な国際交流を楽しめます。種族の大願と惑星の謎に迫るフリーシナリオRPGに国家存亡の戦いが加わるのですから、ストラテジー上級者にとって挑戦しがいがある難度バランスだと請け合いましょう。

「定評を越える」ための早期アクセス
早期アクセス版の現時点で『ENDLESS Legend 2』は期待を大きく上回るゲームです。前作で好評を博した、明快なコアシステムとナラティヴなプレイ感は大きく発展しました。メーカーの定評通り、ストラテジー初級者〜中級者に安心してオススメできます。約6か月の早期アクセス期間を、次々とコンテンツが増えるライブサービス型ゲームとして楽しめるでしょう。

もちろん早期アクセス版ですので軽微なバグがあります。イベントトリガが重複し同じ文章を2回読む。ヒーロー会話が共通で種族にそぐわないシーンがある。日本語訳文が欠落している。といった程度のものでプレイに支障はありません。4Xゲームの早期アクセスで不正終了がなかったのは好感を抱けます。それら軽微なバグは早い段階で直る見込みで、既に早期アクセスの方針を告知しています。Steamページの開発ブログを追い、ゲーム開発のライブ感に浸ってください。

ストラテジー上級者からすれば、現時点は定評通りです。ジャンル人気作の『Civ4』や『Old World』のような1万時間遊べるゲームから移住する新天地ではありません。本稿で述べた通り、本作は初回プレイの好奇心や感動を重視したストーリードリヴンな作りです。例のタイトルと比べればリプレイアビリティが低い、という印象はメーカー過去作と同じでした。しかし、早期アクセスで覆す試みはあります。

本作リードデザイナー、Derek Paxton氏は知る人ぞ知る天才MODDERです。『Civ4』公式オールコンバートMOD「Fall From Heaven」のチームリーダーであります。また、前職では不出来なファンタジー4Xを一級品のゲームに建て直した経歴を持ちます。前作『ENDLESS Legend』のコアシステムを継承した本作を、前作のオールコンバートMODだと見たなら、シリーズ続編の開発にうってつけのリードデザイナーといえるでしょう。早期アクセスのフィードバックに恵まれたなら、オーバーパワーなバランスを防ぎAIルーチンが成熟すると見込まれます。ストラテジー上級者にとって、本来の意味で早期アクセス開発に参加するチャンスなのです。

以上、ストラテジー初級者・中級者・上級者の視点で早期アクセス開発版を総評します。『ENDLESS Legend 2』はシリーズ作の開発手法「1/3ルール: 継承・改善・新規」にもどづいた見事な続編です。前作で定評を博した親しみやすさを継承し、ストラテジー初心者をやさしく迎えます。種族固有のプレイ感とタイドフォールは中級者の好奇心を満たす新規要素です。バランス調整は有名ゲームデザイナーが中心となり改善中ですので、上級者はフィードバックを出して素晴らしいゲームにしていきましょう。

製品版の発売は来年の予定ですが、早期アクセス版の現時点で幅広いプレイヤー層にオススメできます。ストラテジーファンやファンタジーファンは是非とも『ENDLESS Legend 2』を注目作リストに加えてください。

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