Tookyo Gamesが企画とシナリオ、キャラクターデザイン、サウンド、監修を務め、ネイロが開発を行うアドベンチャーゲーム「終天教団」が2025年9月5日にDMM GAMESより発売される。本稿では、同作の先行プレイレポートをお届けする。
「終天教団」は「ダンガンロンパ」シリーズなど数々のヒット作を手掛けた小高和剛氏が率いるTookyo Gamesが生み出した次なる新作アドベンチャーゲームだ。
今作のストーリーは小高氏に加え、「Ever17 -the out of infinity-」などのinfinityシリーズや「ワールズエンドクラブ」の中澤工氏、小説家であり「超探偵事件簿レインコード」のシナリオも担当した北山猛邦氏が手掛けている。イラストはしまどりる氏、音楽は高田雅史氏と、Tookyo Gamesのクリエイターの力が結集している。
Tookyo Gamesは2025年4月発売の「HUNDRED LINE -最終防衛学園」も手掛けており、こちらは100のエンディングという驚異的なルート分岐が話題と評価を呼んだ革新的な作品であった。
となれば、そこから続き発売される本作にも期待が寄せられるのは当然の成り行きだろう。次はどんな革新的な要素が用意されているのか? どんなストーリーが待っているのか? ファンのみならず、多くのゲーマーから注目が集まっている作品がこの「終天教団」だ。
犯人を「当てる」ではなく「選ぶ」超異色サスペンス!
1月1日。新年という輝かしいときに事件は起きた。
人類の滅亡を願う新興宗教「終天教」。その教祖が何者かによって殺害されたのだ。しかも全身がバラバラにされるという凄惨な状態で発見された。
その発見から数刻すぎたころ、ホテルの一室で1人の女性が目を覚ます。女性はすぐに、ここがどこか、自分が何者かすらわからない記憶喪失に陥っていることに気づき困惑する。そんな中、彼女の前に元気が有り余る少女とスーツの男性の2人組が現れる。彼らは言う。
我々は天使だ。君は殺された。だが神によって選ばれ、蘇りを果たした。しかしこれは仮のものだ。4日後の夜明けまでに自身を殺した犯人を突き止め、罪を告白させ、その犯人を殺せ。この”神の試練”を乗り越え真の復活を果たさなければ、君自身だけでなく、世界も崩壊してしまう。
2人に促されるまま、記憶喪失の女性は自身の死の真相を追うことになる。そして続けざまに、驚きの事実が明かされる。自分こそがこの小さな国の中心であり、凄惨な死を遂げた教祖であると……。
そんな出だしで始まる「終天教団」は、終末思想を掲げるカルト宗教の教祖でありバラバラ殺人の被害者となって、自身の死の真相を追うアドベンチャーゲームだ。教祖である彼女はこの国の誰しもが知る存在であるため、仮面を被り、偽の肩書きである私立探偵の下辺零を名乗り行動することとなる。
教祖であり、国のトップという重要人物を殺せる状況にあった人間は限られている。終天教では年越しに合わせ盛大な祭りが行われ、教祖はその間に祈祷を行う。そこで教祖に接触できるのは教団の5人の幹部だけだ。犯人はきっとこの中にいる。
しかし、4日間という限られた時間で5人の幹部について全員を調べる時間の余裕はない。
だが、心配はいらない。彼女には神がついている。蘇りを果たした下辺零は神の力を行使することができる。神の力を持つ彼女は死んでも転生し蘇ることができるし、願うだけで邪魔をしてくる相手を排除することもできる。となれば、彼女が直感で選んだだけであったとしても、それは神の御業によって必ず正解となる。犯人が分かるのならば、あとは付きまとい、罪を告白させ、殺すだけだ。
プレイヤー、そして下辺零は、まず最初に「犯人を選ぶ」ところから調査を始めることとなる。このゲームはプレイヤーが選んだ相手こそが、そのまま犯人になると宣言された異色サスペンスなのだ。
ルート選択で全く別のアドベンチャーゲームが始まる!
さらに、この選択によってゲームが大きく変化するというのも本作の大きな特徴だ。
例えば、法務省幹部である犬神軋を犯人として選ぶと、ゲームはその後犬神軋に連れられてとある大富豪の家へと連れて行かれ、そこで巻き起こる遺産相続会議とそれをキッカケとする殺人事件の捜査をさせられることとなる。事件現場を調査し、証拠を集め、矛盾を突きつける。いわゆる推理アドベンチャーの始まりだ。
だが、別の幹部である保健省幹部、丑寅幽玄を選ぶとゲームは全く異なるものになる。丑寅幽玄の元を訪れた下辺零は、突如武装した集団に拉致されVTuberが殺し合いを生配信する狂気のデスゲームへと参加させられることとなる。殺された人間を調査し、推理で犯人を追い詰める……なんてことは当然起こり得ない。こちらのルートでプレイヤーは3Dで表現されたデスゲーム会場を歩いて探索し、閉じられた扉をパズルを解いて突破していくこととなる。なんと保健省ルートでは3Dダンジョン+パズルアドベンチャーが始まるのだ。
選んだ犯人によって、全く異なるアドベンチャーゲームが展開される。これがマルチジャンルアドベンチャーゲーム「終天教団」の最大の魅力だ。
文部省幹部の黒四館仄を選ぶならば恋愛アドベンチャーが、科学省幹部の伊音テコならマルチ視点アドベンチャーが、警備省幹部の伏蝶まんじに至ってはなんとステルスアクションゲームがプレイヤーを待ち受けている。
アドベンチャーゲームが多様に発展し枝分かれしていったはずのその全てを、1つのゲームにまとめようと試みたのがこのゲームなのだ。公式サイトの文言を借りれば「ここに、アドベンチャーゲームは総括される」。今作もまた、アドベンチャーゲームという表現のその幅の広さに挑んだ革新的意欲作というわけだ。
Tookyo Gamesらしいこの尖ったシステムに加え、それを支えるイカしたグラフィックと音楽、そして豪華声優陣によるボイスと、ファンが求めるものが揃っているゲームだろう。
しかも、この5種のアドベンチャーゲームが雰囲気だけのものになっていないのがすごいところだ。
メーカー側の資料によれば、それぞれのルートをクリアするまでにかかるプレイ時間は短いもので6時間程度、長いものだとなんと12時間超と謳われている。それぞれが短めのゲーム1本分はあるのでは? という大ボリュームなのだ。
筆者のプレイだと大体1ルートにつき2~5時間ほどだった。もちろん、これは仕事の都合上、一部はボイスを飛ばしてサクサク進めたがゆえのものだ。ボイスをしっかりと聴く通常のプレイならば、メーカーの謳うゲームボリュームはあるだろう。
当然それぞれのルートには、それぞれのアドベンチャーゲームに合わせた専用のシステム、UI、ギミックが用意され作り込まれている。全く異なるシステムがそれぞれにゲーム1本分のボリュームで存在するのだから、それはもはや別々のゲームが5本入っていると言って差し支えない。
ちなみにこれらシステム・UIの違いは神の力によって認知能力を変化させ、状況を突破できるようにしたというストーリー上の意味もある。
神の力によって全く異なる5つのゲームに変化するアドベンチャーが「終天教団」というわけだ。どのルートに進むか、どの順番で攻略するかはプレイヤーの自由。好きな犯人を選び、異なるゲームで彼、あるいは彼女を殺す神の試練に挑戦しよう。
尖ったシステムだからこそ、遊びやすい配慮が光る
ただ、このあまりにも大きいプレイの振れ幅はプレイヤーを困らせる可能性もある。
例えば、小高氏のファンでずっと彼のゲームを追いかけてきた方は推理アドベンチャーに馴染みがあり慣れているはずだ。だが、そういう長年のファンであっても恋愛ゲームまで遊んでいるとは限らない。また、パズルが苦手だとか、ステルスアクションのイロハがわからないとか、そういうプレイヤーも当然いるだろう。アドベンチャーゲームの全てを1本に収めようとしている以上、こればかりはしょうがない部分といえる。
しかし本作はこの問題についてしっかり対策がされており、遊びやすいよう配慮がなされていると感じられた。推理アドベンチャーの法務省ルートは犬神軋に話しかけるとヒントを授けてくれるし、証拠にマークが付いているお助け要素もある。パズルに挑む保健省ルートはそもそもパズルの制限時間がけっこう長いし、もし解けなかったり選択肢を間違ったりしてゲームオーバーになっても、死んだ手前から即リプレイが可能になっている。科学省ルートのマルチ視点アドベンチャーはバッドエンド回避となる重要な分岐点をゲーム側が教えてくれるといった具合だ。
それぞれのジャンルのやりごたえは受け継ぎつつも、そのジャンルに慣れていないプレイヤーが詰んでしまう、諦めてしまう状況はできうる限りケアしよう。そんな開発の配慮が感じられるゲームだ。
もちろん、こうした配慮があっても難しいところは少なからずある。こうした難所と慣れないゲームシステムが噛み合うと、クリアを断念してしまうプレイヤーも少なからずいるはずだ。それでもそうしたプレイヤーができるだけ出ないように注意を払っていることは素直にすばらしい。できるだけ多くの人に「終天教団」を体験してほしい、という思いの現れだ。
ただこの配慮は難易度よりも体験を重視した調整だ。アドベンチャーゲームに挑みがいある難易度を求めるプレイヤー、あるいはいずれかのゲームの熟練プレイヤーにとっては、この配慮が逆に災いしてしまう。どのルートでもクリアしやすいよう難易度を抑えて作っているがために、プレイヤーが慣れたシステムのルートだと退屈さを感じやすいのだ。こればかりはどうしようもない部分だろう。
自由なプレイ順が、プレイヤーそれぞれの体験が生む
だが体験を重視しているだけあって、ストーリーには力が入っている。
本作はどのルートを進んでも、世界観設定などのさまざまな情報がプレイヤーと下辺零に明かされていくようになっている。最初のうちは本当に何もわからないうちにゲームを強引に進めさせられるが、分からないなりに読み進めるうちに、終天教とその教義について、この国の法律、世界の状況、教祖と幹部たちとの関係、などなどさまざまなことがわかり、下辺零の置かれている状況や、自身の死の不自然さを改めて理解できる。
こうしたプレイヤーがゲームの世界観を徐々に理解していくところは、記憶喪失である下辺零とリンクするよう描かれている。プレイヤーの理解に呼応するように彼女がリアクションをとり、ゲームとストーリーへの没入感を高めてくれる。
そして、この情報の中にはとんでもない秘密もある。この秘密を知ったとき下辺零は激しく動揺し、それにリンクしてプレイヤーの心も揺さぶられることとなる。さらにこの秘密は、プレイヤーと下辺零の前に「自分を殺した犯人」とは別の、新しい謎として立ちはだかってくる。
この謎を解くためには、全てのルートに挑み、この世界と、神と、下辺零についてさらに知る必要があるというわけだ。
各ルートにはそれぞれ別々の情報がちりばめられており、ルートクリアで解ける疑問もあれば、新たに生まれる謎もある。ルート攻略で判明するとんでもない秘密が、次なるルートへの引きとなってくる。
また、どのルートをどの順でプレイするかによって知っている情報が異なってくるため、プレイヤーごとに異なる驚きが生まれることも開発チームは狙っている。ゲーム全体を通じて手に入る情報はキーワードとして保存され、いつでも確認できる。アドベンチャーゲームが陥る体験が1本道になってしまうという欠点も、5種のゲームを自由に挑ませるシステムで覆そうというわけだ。プレイヤーそれぞれの異なる体験で、世界の謎に迫っていこう。
デメリットすら受け入れ実現した挑戦的な「アドベンチャーの総括」を体験しよう!
しかしこの構造はプレイの順によっては、逆に驚きが薄れてしまうことも十分にありえるものだ。どれかのルートで知れるはずの大きな秘密を、他のルートで得られた小さな情報の蓄積で察して素直に秘密の開示に驚けない。ミスリードを誘う表現も、先に答えを知っているから引っかからない。プレイヤーにプレイの順番を任せているからこそのデメリットはある。
5つのゲームを1つにまとめたがために退屈さを感じるプレイヤーはいるし、不運にも盛り上がりに欠ける順序になってしまうプレイヤーも出てくる。このゲームはあらゆる人にとって最高の体験が約束されたゲームでは決してない。これを開発チームが考えていないはずがないだろう。
だが、このデメリットも生んでしまう挑戦的な構造が、「終天教団」にしかない魅力を生み出しているのもまた疑いようもない事実だ。アドベンチャーゲームという文化が辿った進化をよくばりにも5種も使い、1つの体験としてアドベンチャーの名手小高和剛氏がまとめ上げたのだ。このアクの強さこそ、氏の作品らしさとも言える。そしてこの挑戦的な構造がとてつもなく刺さる人というのもまた多くいるはずだ。
アドベンチャーゲームのファンも、それ以外の多くのゲーマーも、触ってみるべきゲームに違いないだろう。それだけ挑戦的で、攻めた作品だ。しかも、全部のルートがとんでもなく難しいなんて攻めすぎにならないようギリギリのラインを保つ配慮も施されている。この他にない体験は経験しておいて損はない。
ぜひあなたも5つのアドベンチャーゲームを横断し、教祖殺人事件の真相と世界の秘密を解き明かそう。その先に待つものが何なのか? ぜひ見届けてほしい。
PCゲームの情報同人誌を作っていたところスカウトされ商業ライターデビュー。ゲームメディアを中心に執筆活動を行う。頻繁に自分は女子高生であると主張している。主な共著に『インディ・ゲーム名作選』(Pヴァイン、2021年)、『ゲーマーが本気で薦めるインディーゲーム200選』(星海社、2021年)、『インディ・ゲーム新世紀ディープ・ガイド ゲームの沼』(Pヴァイン、2022年)。
(C)2025 EXNOA LLC/Neilo Inc. All rights reserved.
※画面は開発中のものです。
本コンテンツは、掲載するECサイトやメーカー等から収益を得ている場合があります。