
スクウェア・エニックスは、プレイステーション 5/プレイステーション 4/Xbox Series X|S/Nintendo Switch 2/Nintendo Switch/Steam用タクティカルRPG「ファイナルファンタジータクティクス – イヴァリース クロニクルズ」を9月30日に発売する(Steam版は10月1日に発売)。
本作は、1997年に発売されたプレイステーション用ソフト「ファイナルファンタジータクティクス(FFT)」を、現代のゲームハード環境に向けて全体的に最適化し、改修を施したタイトルだ。ドット絵によるビジュアル表現やゲームシステムなど、核となる要素を残しつつ、現代のプレイヤーでも触れやすいように、さまざまな手が加えられている。発売当時のオリジナル版をできるだけ忠実に再現した「クラシック」と、新たに改修を行なった「エンハンスド」の2バーションを収録しており、オリジナル版のコアファンでも楽しめる内容となっている。
今回は、発売が迫る「イヴァリース クロニクルズ」の実機を触れられるメディアツアーに参加してきた。早速、注目の「エンハンスド」に触れてきたので、本稿ではその手触り感について簡単にお届けしていきたい。
【『ファイナルファンタジータクティクス – イヴァリース クロニクルズ』 アナウンストレーラー】
28年越しによみがえる決定版。ボイスキャストの“解釈不一致”も“詰み”の心配もナシ
大前提として「イヴァリース クロニクルズ」は、2007年にPlayStation Portable(PSP)向けに発売された「ファイナルファンタジータクティクス 獅子戦争」ではなく、オリジナル版「FFT」をベースとしている。そのため、「獅子戦争」からの追加要素は未収録。目玉となる「エンハンスド」では、あくまでオリジナル版をベースとしつつも、グラフィックスの高精細化にフルボイス化、難易度選択とUIの改修、ストーリーの加筆・調整などが行なわれている。なぜ、「獅子戦争」ではなくオリジナル版を準拠としたのかについては、別途インタビューの内容をチェックしていただくのが良いだろう。
「エンハンスド」実機について結論から述べると、かつてピクセルアートによって構成されたイヴァリースの世界は、ピクセルの粗がまったく目立たないほど高精細なビジュアルに昇華されていた。それでいて、原作が持つ暖かみのある見え方はそのままだ。“綺麗になったドット絵”と月並みに表現するのは不適切で、リマスタリングを超えた「何か」である。かと言って、原作に触れる懐かしさも損なわれてはいない。
筆者が最後に「FFT」をプレイしたのは15年近くも前だ。PSPのゲームアーカイブスでオリジナル版をダウンロード購入してプレイしたのが最後の記憶である。昔遊んだゲームというものは往々にして記憶が美化されがちなものだが、手の加えられた「エンハンスド」のグラフィックスは、そうした“美化された記憶”にある美しい「FFT」が再現されているようだった。なので、後にオリジナル版そのままの「クラシック」をプレイしたときは、そのギャップに驚くほかなかった。もっとも、オリジナル版をブラウン管テレビでプレイしたわけでもなく、かつてはPSPの液晶越しに「FFT」の世界を見ていたため、発売当時にプレイしていたユーザーとは根本的に見え方・感じ方が異なるところもある。
「クラシック」と「エンハンスド」の画面を見比べて見るとその差は歴然だ。「クラシック」における当時のドット絵の密度には改めて驚かされるし、その一方で文字通りのエンハンスを遂げた「エンハンスド」の見え方にも古くささが全くない。
だが、先述しているように「エンハンスド」は“単なるリマスター”ではない。形としては当時のフォーマットを現代向けに再構築しているに過ぎないかもしれないが、ボイスが収録されたことで物語もよりドラマ性を帯びている。かつて台詞の一言一句をプレイヤーの心の中のボイスキャストで彩っていた「FFT」を、スクウェア・エニックスが28年越しに今の解釈で形として仕上げたのは興味が尽きない。「あの場面はどう演出するのだろうか」と解釈の答え合わせにも近い心持ちで、今一度物語を味わいたいとする気持ちが湧いてくる。
「エンハンスド」
「クラシック」
メディアツアーでは「エンハンスド」を物語冒頭からプレイできた。ラムザとディリータを中心とした、彼らを取り巻くさまざまなキャラクターたちは当時の姿のままだ。「エンハンスド」ではボイス収録に伴って、キャラクターの顔グラフィックに口パクと瞬きが追加されている。さらに、キャラクター同士の会話中に台詞が存在していない、いわゆる“間”の部分にも、キャラクターのリアクションが収録されていた。誰かが殴り、蹴られれば「うっ」「ぐぅ」と反応し、その生々しさに思わず固唾を飲み込んでしまう。こうした些細な演出の追加によって、劇中の会話が至って自然なものに仕上げられているわけだ。
また、「FFT」には数々の印象的なキャラクターたちが登場するが、ボイスが収録されるということで個人的に注目していたのが傭兵ガフガリオンである。まだゲームに触れたことがないプレイヤーのために詳細は伏せるが、彼の台詞テキストは「ん」をカタカナの「ン」に置き換えた独特な発音を用いることでも知られている。そんな彼を演じるのはベテラン声優の高木渉さんだ。あの渋みの効いたハスキーボイスは1度耳にすれば到底忘れられないものだが、その声質とガフガリオンのキャラの濃さが絶妙に一致する。体験時間の関係上「ン」のイントネーションと、細やかな演技部分までは確認できなかったが、「ああ、これはガフガリオンだ」と納得できる解釈一致度には安心感を覚えた。
アルガスを演じる吉野裕行さんもかなりハマっている
さて、ゲーム部分についてだが、バトル中は「コンバットタイムライン」が表示されて、敵味方の行動順が一目で分かるようになった。マップを真上から見下ろすことができる「タクティカルビュー」の追加も大きい。「FFT」では高低差の凹凸が激しいマップが登場することも多く、タクティカルビューのように真上から見下ろすことができるのは、ユニットを采配する上で限りなくストレスを低減してくれるポイントだ。
コマンド選択のUIも刷新され、直感的で分かりやすいアレンジが加えられている。現代のニーズに合わせた新機能として「早送り」も欠かせない。敵の行動ターン中に動きを倍速再生できるので、さっさと自軍ユニットのターンに行動を回せてしまえる。改修されたUIや戦闘中の便利機能など、総合的に見ても今どきな調整が加えられていることもあり、ゲームプレイは快適に尽きる。
もう1つ挙げると、ミニマップによるエリアセレクトの折り返しが利くようになったため、オリジナル版の一部ステージで存在した連戦時のセーブによる詰みもなくなったという。敗北しても過去のステージに戻ってレベル上げを行なったり、編成を組み替えたりできるから、挫折するプレイヤーが減るのは間違いないだろう。筆者自身にも心当たりがあるし、知り合いにも連戦中にセーブしたため、詰んでしまったプレイヤーがいる。しかしこれで心置きなく、リベンジを果たせる。
UIがかなり扱いやすくなっている
技の詠唱もボイスつきで楽しめる
攻撃前のステータス表示もより細分化された
今回のメディアツアーでは、筆者にとっても「FFT」の魅力に改めて触れられるいい機会になった。「FFT」は今もなお高い人気を誇る名作シミュレーションRPGだが、ゲームハードの環境で触れられる機会が限定的だったのは事実。また、作中それなりに存在する詰みポイントの数々で、「プレイしたことはあるがクリアまでできなかった」というユーザーも一定数はいることだろう。
「イヴァリース クロニクルズ」は、「クラシック」と「エンハンスド」の2つを収録することで、当時のままのオリジナル版を遊びたいユーザーと、これから触れる新規プレイヤーの双方にアプローチする思い切った決定版だ。リマスターでもなければフルリメイクでもないが、それはコアファンの思い出に寄り添いつつ「現代のRPG」としての体裁を意識したがゆえなのかもしれない。フルリメイクによる解釈違いを避けながらも、部分的にオリジナル版をリニューアルする匙加減には相当気を遣ったのではなかろうか。
昨今ではコンシューマーゲームに限らず、モバイルゲームですらメインストーリーのフルボイス化がそう珍しくない時代。いちユーザーとしては「イヴァリース クロニクルズ」がこうした時代の潮流に合わせたことで、メインシナリオにさらなる深みを与えられたのではないかと大いに期待している。フルボイスで紡がれる英雄たちの愛憎劇を、今一度手に取ってみようと思う次第だ。
「ブレイブストーリー」も強化されている
イヴァリースの世界で繰り広げられる戦いの歴史をその目で見届けよう
(C) SQUARE ENIX
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