2025年8月11日6時0分
阪神対ヤクルト ヤクルトに勝利し、握手を交わす阪神才木(左)と佐藤輝(撮影・前田充)
<阪神5-2ヤクルト>◇10日◇京セラドーム大阪
サッカー界のレジェンド・釜本邦茂の自宅を訪ねたのは30年前。
戦後50年を記念した大型連載のチームに入れられ、メキシコ五輪の関係者を訪ね歩く中のことだ。アポを取ると「(大阪の)自宅においで」。広いリビングに迎えてくれた。
2時間ぐらい精力的に話す中で、今でも忘れられないのがストライカーとしてならした現役時代にどう考えていたか、という点だ。レジェンドは「試合の結果は4つある」と言った。こういう話だ。
「自分がゴールを決めて試合に勝つ。これが一番、いい。最低は自分が決められず、試合にも負けること。大事なのは2番目や。試合は負けたが自分は決めたが、それ。自分がゴールできなかった試合に勝つのは3番目やな」
真剣な顔でそう強調していた。チームの勝敗以上に自分の結果が重要。ストライカー、点取り屋としての強烈な自負を感じたものだ。このたびの訃報に接し、あらためて思い出す。
競技は違うが、それから30年間、プロ野球の取材を続けて、その話がときに頭に浮かぶ。時代は変わり、協調性やチームとしての“和”を重視するのが今の世の中だろう。選手同士、仲もいい。日本代表が定期的に組まれるので相手チームの選手とも友好的。バットなどの道具を提供しあう光景も普通だ。
それを思えばレジェンドのポリシーは強烈過ぎる気もする。野球で言えば、主軸なら自分が打たなければチームが勝ってもつまらん…ということだろうか。そんなことを言う選手はいまの時代、まず、いない。
それでも先日、指揮官・藤川球児がポロリ興味深いことを言っていた。「自分が出ていない試合で勝つのは選手は面白くないですよ」。現役時代、強烈なプロ意識を持っていた球児も同じような思考をするのか、と感じたものだ。
時代は変わってもプロ意識そのものは不変だと思う。口にするかどうかは別にして。自分が打って、守って、走ってチームも勝つ。先制打点に中押し31号ソロ。「サイクルヒットにあと1歩」の4安打だ。むろん野球は1人ではできない。先発・才木浩人も粘投、バックもよく守ったし、打線もしぶとかった。それでも佐藤輝明はひそかに思っていい。今夜はオレのゲームだったぜ、と。そんな自負と、責任を背負って残り試合を突っ走ってほしいのである。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)
1975年度日本リーグ表彰式で 得点王とアシスト王個人2冠に輝いたヤンマーディーゼル釜本邦茂=75年12月22日
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