日本ファルコムが2024年9月26日に発売したPS5/PS4用ソフト「英雄伝説 界の軌跡 -Farewell, O Zemuria-」。発売から1年近くになる本作について、プロデューサーを務める代表取締役社長・近藤季洋氏にインタビューを行った。
なお、インタビューの実施時期は6月中旬となるが、実施時期、掲載時期ともにここまで遅くなってしまったのは編集部側の手が回らなかった結果なので予めお詫びしておく。だからというわけではないが、9月19日に発売となる「空の軌跡 the 1st」についてもインタビューを実施してきたので、そちらは近日中にお届けする。
※一部ゲーム本編のネタバレになる部分もありますので、ご注意ください。

インタビュー・編集:TOKEN
文・撮影:胃の上心臓
「界の軌跡」というタイトルはスタッフへの結末に向けたメッセージ
――発売からしばらく経ちましたが、ファンのみなさんからの反応はいかがでしたか? また、手ごたえを感じた部分もお教えください。
近藤氏:ようやくずっと謎だったゼムリア大陸の大きな謎が明かされたので、遂に物語が動いたことをファンのみなさんにも感じ取っていただけたのではないかという手ごたえがあります。ですが、「終わってないじゃん」という声もたくさんいただいているので、それに対してはなるべく早く次回作を……と思いつつ、「空の軌跡 the 1st」が間に入るなど色々な事情があるような状況ですね。
――「閃の軌跡」の際もおっしゃられていましたが、本当はなるべく3作目で終わらせられたらと考えているんですよね。
近藤氏:そうなんですよ。だから共和国編も2作か3作くらいで完結させたいと思っていたのですが、実際に始めてみると新しい舞台ということで、カルバード共和国がどういう場所なのかを描くために「黎の軌跡」第1作を丸々使ってしまいました。そこからゼムリア大陸全体の物語を始めていったので、やっぱりちょっと尺が伸びてしまったという反省点はあります。
――クロスベルが舞台の零、碧以外は舞台毎にタイトルが変わる(リベール王国=空、エレボニア帝国=閃など)ことが多かったかと思います。今回も黎から界へと変わっていますが、このあたりには意図があるのでしょうか?
近藤氏:そんなに大層な理由があるわけではないですが、シリーズとしてクライマックスに向かうというところを、タイトルを通してユーザーのみなさんにお伝えしたかったというのがあります。
「黎の軌跡」が共和国の物語というところに収まっている感じがしたことと、そこは引き続き描いていくものの、そこからさらに共和国の物語でありつつ、「空の軌跡」から連綿と描いてきたゼムリア大陸の物語の結末がここにくるということを、スタッフにも自覚してほしかったんです。
やっぱりずっと作り続けてきているので、いつも通りやろうとしてしまうのですが、そうじゃなくて、もうクライマックスなのでより一層気合を入れるというメッセージも含めてタイトルを変えることにしたんです。これまではヴァンをイメージした「黎」というところだったのですが、そこから世界全体の物語になってくるので、世界や境界の界を使ってさらに物語が壮大になっていくところを、タイトルから表現したかったところもあります。
――軌跡シリーズは2作でひとつみたいな形が多いですが、今回に関しては黎から膨らんだ感覚がある中で、1作目が出てスパン的には過去の発売の仕方から考えると間に「空の軌跡 the 1st」も入っています。「界の軌跡」の開発はどのくらいの期間をかけられたのでしょうか?
近藤氏:「黎の軌跡II」の制作とほぼ平行するような形でした。スタッフのほとんどが共通していることもありますが、シナリオを決める人たちをはじめ、コアメンバーは先行して「界の軌跡」に関わっていて、「黎の軌跡II」が終わる頃には「界の軌跡」のシナリオがもう決まっているといいなというくらいのつもりでいました。
作り方としては「黎の軌跡」2作はいつも通り1セットで、そこでプラットフォームや表現、3Dモデルも変えていきました。その流れから「空の軌跡 the 1st」も入ってきたのですが、まだまだシリーズは続くので基本的なシステムは受け継ぎつつ、ちょっと時間が経ったところもあり、内容をグレードアップして3作目を出す形になりました。

3つのルート分岐は開発の中で決まっていった
――スケールも大きく、「創の軌跡」と同様に複数ルートを並行して描いていく形でした。もちろんヴァンがメインを務めていますが、このように物語を多面的に描くのは想定されていたのでしょうか?
近藤氏:どちらかというと、制作していく過程でそうなっていったところがあります。やはりヴァンひとりの視点で描いていくと、どんどん物語が長くなっていってしまうんです。視点を多くした方がギュッと圧縮して描けるところがあり、「創」の時に似たような手法を用いていたのも同じような理由です。

例えばひとりの主人公がクロスベルに行って、帝国に行ってまた戻ってきてをやろうとすると、物語をきちんとつなげていくだけでもそのつなぎの部分だけで膨れ上がってしまい、ボリュームがとんでもないことになってしまいます。
「界の軌跡」に入って共和国全体の動きを通しで見せたいとなった時に、やっぱりその場だけでなく、色々な視点で見てもらって一斉にこういうことが今起きているよ、という描き方をしていく方がいいんじゃないかなというところがあったので、「界」については制作を始めてからその形になっていきました。

――各ルートでプレイヤーの目となる、主人公格のキャラクターと仲間たちも意識的に配置していったのですか?
近藤氏:ケビンを出すことだけは共和国編が始まった時から決まっていたのですが、ケビンを準主役的に操作できるかどうかは「黎の軌跡」時点ではまだ決まっておらず、「界の軌跡」を作るとなった時に改めて仕切り直していきました。

そしてリィンは一番最後に決まりました。出すかどうかは最後まで悩んだところです。もちろん再登場を喜んで下さる方がおられるのは間違いないのですが、出てくると(ヴァンが主役なのに)割と持っていってしまうところがありますので。
ただ、リィンが共和国に絡んでくるというのは「創の軌跡」の時点で伏線をはっていたので、仮に出てこなかったとしても何らかの形で裏で動いているという設定はあったと思います。

結社のメンバーは当初「界の軌跡」で出る予定ではなかった
――システム周りのお話も伺いたいのですが、「黎の軌跡」2作で積み上げたものが根幹にあってそれを発展させるというところで、フィールドバトルの仕様がまた少し追加されたと思います。こちらはどんな経緯があって今の形に着地しましたか?
近藤氏:あの戦闘システム自体は割と僕らの中でもチャレンジングなところがあって、全くの0から作り上げたものになります。だからこそ「黎の軌跡」の時点ではあそこはもうちょっとこうすれば良かったねみたいな反省点が浮き彫りになりました。
そこからの「黎の軌跡II」の時点である程度その欠点を補ってはいます。とにかく軌跡シリーズの戦闘はターンベースなので、リズム感やスピード感があまりない。これが変えた理由だったので、それを解消しようとしたことでああいったフィールドアクションとコマンドバトルの連携みたいなものが生まれて、「黎の軌跡」2作で実現できたのではないかと思っています。
そしてリズム感が良くなると、今度は単調なところが出てきてしまう。そこでどう変化を付けようかというところで、「界」の追加システムが考案されていきました。

基本的にはアクションをどこまでやるのかを僕らも「黎の軌跡」2作の時に悩んでいて。あまりアクションに大きく寄せてしまうと、そもそもアクションが苦手な方が軌跡シリーズを選んでくれているという部分があるので、非常に悩ましい。
その一方でせっかくアクションがあるのだから、もうちょっとなんとかできないのかという意見もいただいていました。そこに対して覚醒であるとか、フィールドアクション中のアーツ攻撃だとか、そういったところを追加することで対応しています。
それからリズムが良くなった分同じ作業の繰り返しだと感じられる部分が強く出てしまうところがあるので、状況に変化をもたらすという意味で、コマンドバトルに入った後もプレイヤーの選択肢をある程度増やすために、B.L.T.Z.やシャードコマンドであるとかZOCであるとかが生まれた気がしています。
私は把握するのが大変だから増やし過ぎじゃないかと少し思っていますが、リッチにしていく方向に舵を切ったのが「界の軌跡」でしたね。



――全部を使いこなすかは結構プレイヤーに委ねられますが、クロスチャージやスクラムチャージの仕様変更は好感触でした。操作がわちゃわちゃしちゃうところがありましたし。
近藤氏:覚醒とかも最初はどうなんだろうかと思っていましたが、入れてみたらまず気持ちいいですし、カッコいい。パーティを組むときも覚醒を持っているキャラクターが一人は入っていた方がいいみたいな、キャラクターを選ぶ時のマイルストーンみたいなものになったりするので、これはこれでやってよかったなとやっぱり思っています。

――ゲームの進行的なところでサブ的な要素になる「黑の庭城(グリムガルテン)」についてもお聞かせください。結構本編にも食い込んでいる印象があったのですが、そのあたりのバランス感覚についても伺わせてください。
近藤氏:「創の軌跡」と比べるとやってほしいという押しが強いですよね。ああいったものを用意した理由のひとつとしては、やっぱり育成の場がほしいというところがあります。また、どうしてもクライマックスというところなので、キャラクターが増えてきて、その増えた分だけ各キャラクターを描く尺がどうしても短くなってしまうし、充分に育てる場所を本編の中では用意できなかったんです。
そういったところを俯瞰していくと、本編でやるととんでもないボリュームになってしまうので、どうしても副次的な、サブ要素としてああいう形で用意することになります。制作者側はやっぱりやってほしいというところがある一方、管理をする側はそこまで押さなくてもいいんじゃないかというせめぎあいが開発の中でもありましたね。
後はこのキャラクターとこのキャラクターは本編では掛け合いがなくても、グリムガルテンへ行くと少しNPC会話的な絡みがあって久しぶりだね、みたいなことを描ける場ではあるので、シナリオ的にそういったニーズにお応えすると考えると、やっぱり欲しいという意見がチーム内にありました。

――結社《身喰らう蛇》が物語的にスポット介入だったので、彼らの出番はこちらで多くなっていましたね。
近藤氏:そうなんですよ。僕が最初に「界の軌跡」のプロットを見たときに、唯一駄目出ししたことがあるんです。あまりにも結社の出番がなくて驚いて、結社出てないじゃんってツッコミを入れました。ここで出していかないでどうすんのと指摘したことから、結社の活躍はグリムガルテン側である程度描かれるようになったんです。
そこで表現されたことや語られたことは、もちろん把握していなくても引き続き本編を楽しめはすると思います。だけど、特にノバルティス博士なんかはかなりクローズアップされていて、狂気じみているけれどちょっと可哀そうだなと思うようなところがあるじゃないですか。年下の部下たちに弄られていたりだとか。そういう面ではやっぱりやってよかったなと思っています。
ただ、そういうことを詰め込んでいくからいつも長引くんでしょうね。そろそろやっぱりシリーズも巻いていかないといけないはずなので、そこはいつもギュッと詰め込みたい側と、いやいや話を進めなきゃというところのせめぎあいで毎回決まっていくんです。

――そういうことを考えながらの3ルート分の作業量は大変そうですね。
近藤氏:本当は結社が本編に出てくるようにまとめた方がいいとは思っていますが、そもそも結社のメンバーを出す予定じゃなく、やっぱり後から入れ込んでいたこともあって、本編には入れ込めなかったという事情が実はあります。
――小さい謎を言い出したらきりがないのですが、出番が増えるとちりばめるものも増えますよね。取捨選択はどんなところを重視されたのでしょうか?
近藤氏:ファンのみなさんから、絆イベントは内容が良いのになぜ本編でやらないのかというお声をいただくことがあるのですが、やっぱり本編に入れる隙が中々ないんですよね。本当なら僕らとしても、長いゲームの中でもっと描けたらと思うのですが、それだと収拾がつかなくなってしまうので、泣く泣く絆イベントの方でやっているんです。
例えばエレインとヴァンのエピソードだったり。結社のエピソードに関してはグリムガルテンの方にまとめて整理したりとか、そういうことにはなっていますね。私たちも20年続けているのに、いまだに四苦八苦しながら試行錯誤を繰り返しています。

次回作で描かれるのは結末と、至宝に紐づくストーリー
――ストーリーについて、以前のインタビューで出し惜しみはしないとおっしゃっていました。「黎の軌跡II」までに配置した伏線やゼムリア大陸全体の謎も出てきましたが、想定していた範囲のものは出せた感覚があるのでしょうか?
近藤氏:出せたと思います。「閃の軌跡IV」の時にゼムリアという世界自体が私たちの生きる地球のような世界ではないところを明確に出しました。それがようやく明らかにできたというところなので、順調かなと思っています。
――至宝まわりの話は今回は世界の謎そのものに紐づいていたかと思います。あのあたりの構想はずっとあったものなのでしょうか?
近藤氏:どこの地域にどの至宝があるのかは結構早い段階で決まっていて、共和国に刻の至宝《レーギャルンの匣》があることについては、それこそ「空の軌跡」の頃に遡るかもしれないくらいの頃に何となくは決まっていました。ただ、実際には開発・制作の段階になってから具体的になることが多いんです。
例えばクロスベルの至宝(幻の至宝《虚ろなる神》)は、本物そのものではなかったじゃないですか。ああいうものは実は後付けだったりします。エレボニア帝国の中で複数の至宝を使ってああいう形で描くというのも、実際に帝国編の制作が始まってから決めています。
大枠はなんとなく最初の段階で設定してはいるのですが、より具体的にどういうものなのかを決めるのは制作に入ってからが多いです。それ以前に決めても、やっぱりとりあえず決めたということにしかならない。それは本当の決定ではないですよね。アニエスの存在とかもそうです。


――今回の終わり方についてはかなり寸止めな感覚があります。あの終わり方、あそこで切ろうというのは決めていましたか?
近藤氏:「界の軌跡」の制作が始まってから、あそこで終わることは決めていました。この後まだひと悶着ある予定で、それが至宝の機能とも絡むお話になっていきます。だから残っているのは結末だけではなく、至宝の機能と連動したストーリーも描かれていくことになります。
その中でヴァンが抱えている問題だったり、アニエスの運命であったりが描かれていきます。もう次で終わるとは思いますし、風呂敷は広げきった手ごたえはあります。なので後は畳むだけなのですが、最後にちょっと謎が増えていたりして。彼らはやっぱり大きなカギになっていくと思います。
――あの白い人たち……でも顔出しはまだしてなかったですよね。
近藤氏:一人を除いてはですね。まあ、バレバレじゃんっていうのを除くことにはなるのですが(笑)。
――暗躍したというより、主人公たちと関わることで明確になっていきましたね。
近藤氏:そうですね。基本的にはヴァンが中心ではあるのですが、例えばリィンであるとか、それからケビン。今後のゼムリア大陸を描いていくにあたっては、外せないのが七耀教会の存在です。ケビンは教会を通してそこに大きく関わっていくことになります。大分謎が深まったのか解けたのかはわからないのですが、教会も一枚岩ではなくいくつかの思惑に分かれて動いているところまで描かれています。
他のキャラクターたちについても大分出てきていますし、執行者も含めてまだ顔が見えていない存在はそんなに残っていないと思います。とりあえず今回出てきた人たちは引き続きしっかり続投しますし、共和国は割と国自体の歴史みたいなところにスポットを当てながらお話を描いてきているので、そこが大きなキーワードになると思っていていただければと思います。



――物語が壮大になるとキャラクターを個別に描くのが難しくなりそうです。まだキャラクター個人を掘り下げたい部分はありますか?
近藤氏:本筋は間違いなく進めていかないといけないし、描かなければなりません。メインどころ、解決屋のメンバーたちは引き続き本編と連動したところがあります。アーロンもジュディスももちろんあります。そのあたりは引き続きしっかり描かれると思います。バランス的には難しいのですが、僕らとしてもやってみて実際にどうなるのかというところです。
実はみんな割としっかり関係していたりとか、リゼットはもろにこの後の展開に関係がありますので。彼女自身が大きな謎ですし、そのあたりが明かされるのが次回になります。次回のシナリオは今の段階でもう全部決まっていて、ストーリーの構成みたいなものは「界の軌跡」のような形とはまたちょっと変わってきます。本当に後半用のストーリーテリングを意識したシステムになる予定です。


――システム的にも詰め込んだことでハレーションを起こすこともなかったように思います。次回作もこの流れになるのでしょうか。
近藤氏:ガラッと全く別物になることはおそらくないかと思います。課題はやっぱりありますし、完結編だけいきなり大きくシステムが変わるのはちょっと違和感がありますしね。もし追加するとするならば、個人的にはプレイヤー側の選択肢が多すぎるので、使いきれないだろうなと考えていて。実はその部分は「空の軌跡 the 1st」で見直されています。
「空の軌跡 the 1st」は「界の軌跡」とは逆に、プレイヤー側の選択肢はシンプルにして敵のAIに凝っていたりするんです。自分の持ち駒はシンプルだけど、色々な局面に対して工夫するような戦闘にしようよという形でやっていて。
それを経て「界の軌跡」完結編の戦闘システムがどうなるかですよね。その辺はきっと終わりがないんじゃないかと思っています。トレンドも変わっていきますし。

――コマンドバトル自体、なかなか同型のタイトルが少なくなってきていますよね。
近藤氏:アトラスさんの「ペルソナ」シリーズやガストさんの「アトリエ」シリーズとかがそうですよね。みなさん悩みながら進めている感じはしますが、我々としてはターンベースは守りたい気がしています。
――そのほかに今だからお聞きできるエピソードなどはありますか?
近藤氏:ゲーム中のオープニングムービーを見ると、ルネが歩いているワンカットがあるのですが、その時の影がグレンデルになっているんです。実は発売前に出していたオープニングムービーではその影はグレンデルになっていなくて、ゲーム中のオープニングだけグレンデルの影になっているんです。
そのまま公開するという話もあったのですが、公開した後にユーザーの方が1コマずつ分析されたりするので、バレちゃうかなと思ったんです。
――確かに、映像から物凄い考察や分析をする人がいますよね。
近藤氏:それをやったスタッフが教えてくれないんですよ(笑)。開発から話を聞いて公開のときだけ差し替えました。
――最後に貴重なエピソードをありがとうございました。
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