やる気が出ない原因は…

テストに合格すれば褒められる。目標を達成すればおこづかいがもらえる——。

でも、こうした“ご褒美”が、子どもの本当のやる気を壊しているとしたら?

今、教育や医療の現場で静かに注目されているのが「ゲーム」。

実は、内側から湧き上がる“やりたい!”という気持ち——内発的モチベーションを引き出す鍵が、ゲームの中に隠されているのです。

そこで今回は、適度なゲーム利用が学力やメンタルにどのように好影響を与えるのかを脳科学や心理学の視点から徹底解説。最新のエビデンスをもとに子どもとゲームとの上手な付き合い方を提案する書籍『なぜゲームをすると頭が良くなるのか』(PHP研究所)を一部抜粋してご紹介。

なぜご褒美がやる気を奪ってしまうのか?

そして、なぜ今、ゲームが“やる気の再生装置”として期待されているのか?

その驚くべき理由を、わかりやすく解説します。


なぜ今ゲームが必要になっているのか?

ゲームを活用した新たなメソッドやツールの開発は、医療、教育、ビジネス以外の分野でも、活発に行われています。まさに、ゲームが世界をゆっくりと変容させているようにも思えてきます。

しかしなぜ今、ゲームがそれだけ注目されているのか? 現代社会のさまざまな分野でゲームを使った新しいやり方が求められているのか?

もちろん、心理学や脳科学の発展で、ゲームが心や脳にいいということが明らかになってきたというのは一つの重要な点ではあります。

これまでのゲームに対するネガティブなイメージや心配は、科学の発展によりその多くが払拭(ふっしょく)され、適度にやりながらうまく付き合っていく方法が明らかになってきました。

まさに本書のメインテーマとして解説してきた内容です。

しかし、心や脳にいいものは、ゲーム以外にもこの世の中にたくさんあるわけで、急にゲームだけことさらに見直して、各分野でブレークスルーにつながる起爆剤にまでしようとする必要はないようにも思えます。


やる気が失われる理由

ゲームがいいものだと科学的に明らかにされたこと以上に、今ゲームが求められている背景には、現代社会の偏ったモチベーション・デザインのあり方が深く関わっています。

私たちのやる気、つまり、モチベーションはどこに向かうべきなのか? この世知辛(せちがら)い世の中、何にやる気を感じ、動機づけられ、生き抜いていくことが幸せにつながるのか?

この点を考えるのに、心の3大欲求を解説したときに登場した自己決定理論を、もう少し詳しく見ていきましょう。

自己決定理論によれば、私たちのやる気、モチベーションには大きく分けて2種類があります。「内発的モチベーション」と「外発的モチベーション」の区別です。

まず、「内発的モチベーション」を持っているとは、何かをやること、それ自体に動機づけられている状態のことです。

たとえば、ギフトの中に入っている「プチプチ」(緩衝材)。一つひとつのプチプチを潰したい。そのことで、何かもらえたり、やらないと何か悪いことが起きるわけでもない。でも、プチプチを潰すとなんだかそれ自体で満足してしまう。それを求めてプチプチを潰したいと動機づけられている。

そうであれば、プチプチ潰しは、内発的なモチベーションになっているわけです。

それに対して、「外発的モチベーション」は、何かをやること自体に動機づけられているのではなく、それをやることによって得られるお金や地位、その他の報酬や、それをやることによって避けられる罰則などによる動機づけのことです。

たとえば、部屋の掃除は絶対やりたくないけれども、やらないと𠮟られるからやる。これは、掃除をやらないことによって発生する「𠮟られる」という罰が怖くてやっているので、外発的モチベーションに動機づけられているということになります。

つまり、内発的モチベーションは報酬や罰がなくても「やりたいからやる」。外発的モチベーションは「ご褒美目当て」や「罰逃れ」の動機づけのイメージです。

そして、内発的モチベーションと外発的モチベーションの2種類のやる気には、超重要な事実が2つあります。

まず第1の事実は、外発的モチベーションは内発的モチベーションを壊してしまうということです。


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具体的な例を挙げると…

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