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 世の中、「静音PC」と名乗るBTOパソコンは数多くある。単純に静かな動作だけを追求するなら、性能を妥協して発熱を抑えれば、たやすく実現できるだろう。そういった意味では、静音PCのハードルは決して高くない。しかし、多くの人が欲しいPCは「静かだけれど性能が低いPC」ではなく、「高性能のまま動作音が小さいPC」だ。

 高性能なCPUやGPUを安定動作させるには、高性能なクーラーが必要になるが、得てして動作音が大きいものが多く、製品選びには知識が必要だ。もちろん、そのクーラーを効果的に使えるようなセッティングも大事で、技術と経験が求められる。そんな知識・技術・経験の結晶とも言える静音PCが、サイコムの「Silent Master」シリーズだ。

 特に注目は、理想の静音ビデオカードを求めるあまり、自分たちで作ってしまったという「Silent Master Graphics」(通称、SMG)シリーズを標準搭載しているところ。従来のGeForce RTX 40シリーズ搭載モデルは人気が高く、すでに売り切れてくやしい思いをした人もいることだろう。しかし、そんな方に朗報だ。

 今回紹介する「Silent-Master NEO Z890」では、GeForce RTX 50シリーズを採用した新たなSilent Master Graphicsシリーズを選べるようになっている。

 試用機は標準構成からビデオカードがGeForce RTX 5070搭載モデル、CPUは「Core Ultra 7 265K」にカスタムされ、高性能な仕様となっていた。詳しく見ていこう。

静音性の要となるPCパーツをチェック

 静音PCを実現するためのアプローチは、大きく2つある。1つは、そもそもの動作音を小さくするというもの。具体的には、CPUクーラーであれば冷却性能が高い大型のヒートシンクを採用したモデル。PCケースファンであれば、回転数が低いモデルを選ぶことだ。

 Silent-Master NEO Z890は静音性と冷却力のバランスに定評があるNoctua製品を採用している。CPUクーラーは「NH-U12S」、PCケースファンは背面に120mmの「NF-S12A FLX」、前面には140mmの「NF-A14 FLX」を搭載している。

 NH-U12Sは5本のヒートパイプを備える大型ヒートシンクを、120mmファンで冷却するサイドフローモデル。熱風はすぐ背面のPCケースファンで、すばやく外部に排出できるよう工夫されている。

 なお、「静かで冷却能力が高いCPUクーラーが欲しいなら、水冷クーラーを使えばいいじゃないか」と考える人も多いだろう。確かに、長時間高負荷が続くようなシーンでは、水冷クーラーのほうが静かな場合もある。

 しかし、間欠的な高負荷や低負荷~中負荷が続くようなシーンでは、空冷クーラーでも冷却が間に合う。冷却性能に余裕があればファン回転数が低くなるため、空冷クーラーのほうが静かなこともあるのだ。

 NH-U12Sは静音空冷CPUクーラーのド定番で、そのバランスの良さは定評を得ている。もちろん、効率的なエアフローとの連携があってこその話だが、PCケースファンもNoctua製品で固めることでうまく成り立っているように思う。

 120mmの背面ファン(NF-S12A FLX)に対し、前面のNF-A14 FLXは140mmと大型だ。設置位置はちょうどCPUとビデオカードの間あたり。つまり、CPUだけではなく、ビデオカードにも冷たい外気が送り込めるようになっている。

 今回試用機に搭載していたビデオカードは、ミドルクラスの「Silent Master Graphics RTX 5070 12GB」だった。GeForce RTX 5070は、条件によってはGeForce RTX 4090を超える高性能GPUにもかかわらず、かなり静かに運用できるというのだから驚きだ。

 Silent Master Graphics RTX 5070 12GBは長尾製作所製のファンガードと、静かながらも強力に風を送り込めるNoctua製ファン「NF-A12x25 LS-PWM」を2基搭載している。回転数は最大でも1200rpmまでしか上がらないため、高負荷時でもかなりの静音動作が期待できる。

動作音が漏れにくい静音PCケースを採用

 いくら静音のCPUクーラーやビデオカードであっても、モーターの回転音やフィンの風切り音はいくらかは出てしまう。そこで、音をうまく閉じ込めて外部にもらさないようにするというアプローチも静音化の手段の1つだ。

 とはいえ、密閉しすぎるとエアフローが滞り、熱を逃がしづらくなる。つまり、密閉性とエアフローのバランスが重要なのだ。Silent-Master NEO Z890のPCケース、Cooler Masterの「Silencio S600」はそのほどよい均衡が取れたモデルと言っていい。

 サイドパネルに遮音材を貼り、さらに振動を抑えることで音漏れを軽減する。フロントパネルの内側にもやわらかな遮音材があり、前面の吸気ファンはもちろん、PCケース内部から発生する動作音がPCの正面に漏れづらくしている。

 ちなみに、吸気ファンの手前にあるフィルターは、ツールレスで着脱できる。ホコリがたまると通気が悪くなり、冷却性能が落ちてしまう。汚れやすい机の下にPCを置こうと考えているなら、マメに掃除したいところなので、このラクチン仕様はありがたい。

 フロントインターフェースは、USB Type-A(USB 3.2 Gen 1)が2つと、ヘッドセット端子を搭載。USB Type-Cがない点は惜しいが、SDカードリーダーはありがたい存在だ。

NH-U12S+SMGの静音性はいかに?

 では、Silent-Master NEO Z890の静音性はいかほどなのか。CPUとビデオカードのどちらにも適度な負荷をかけるため、「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク」(以下、FF14ベンチマーク)で検証した。

 解像度はWQHD(2560×1440ドット)、画質は「最高品質」に設定し、実行中の騒音値をPCの正面約30cmの位置から測ってみた。

 スコアーは19726、評価は「非常に快適」。Core Ultra 7 265K+GeForce RTX 5070構成のサイコム製ゲーミングPC「Premium Line Z890FD」の過去データ(19737スコアー)とほぼ互角だった。つまり、静音に特化した構成だからといって、性能が下がっている気配はない。

 騒音値はというと、PCの電源を切った状態の暗騒音が約32.5dBに対し、PCの電源を入れて無負荷で5分放置した状態(アイドル時)で約33.1dB。数値上は増えているものの、耳で聞く限りは違いがなく、電源が入っているのかどうかわからないほどだった。

 FF14ベンチマーク実行中でも約34.5dBと静かで、わずかにファンの音が聞こえる程度。静音性に優れたCPUクーラーのNH-U12Sと、サイコム独自の静音ビデオカードの組み合わせは確かに静かだった。

静かなゲーミングPCが欲しい人なら必見

 Silent-Master NEO Z890は静音ゲーミングPCとして完成度が高い。性能と静音性の両立は難しいのだが、これほど静かに最新CPU&GPUを動かしているPCはそうないはずだ。

 高性能なゲーミングPCは欲しいけれど騒音に悩みたくない、という人はもちろんだが、家族が寝静まったあとも使いたい、エンコードなどの処理を寝ている間に実行したいなど、夜中に使うことが多い人にもオススメできる。

 今回は主に静音性をどう確保しているのかといった視点から紹介したが、次回は定番のベンチマークで性能をチェックしていこう。

超静音なRTX 5070 Ti搭載グラボのゲーミングPC、ベンチマーク中でもわずか約34.5dB

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