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近年よく耳にする“STEAM(スティーム)教育”。実はよく分かっていないという方もいるのではないでしょうか。そこで今回は、これからは入試でも問われるといわれる思考力や表現力を伸ばす“STEAM教育”について、一般社団法人STEAM JAPAN 代表理事の井上祐巳梨(いのうえ ゆみり)さんにお話を聞きました。

第1回は、そもそもSTEAM教育とはどんなものなのか、なぜ今世界で必要とされているのかについて、分かりやすくご紹介します。

井上 祐巳梨(いのうえ ゆみり)

STEAM JAPAN代表理事
2018年、地方創生×クリエイティブ人材育成プログラムをエリア拡大実施。翌年、(株)Barbara Pool設立後にSTEAM事業部を立ち上げ、WEBメディア「STEAM JAPAN」の編集長に就任。同時期に、経済産業省『「未来の教室」実証事業』に採択される。その後一般社団法人STEAM JAPAN設立、代表理事に就任。地域×クリエイティブ/STEAMをテーマに全国各地で地域創生プロジェクトに携わり、次世代STEAM教育事業を推進中。
https://steam-japan.com/

◆そもそも「STEAM教育」って何のこと?
「STEAM」とは、「科学」(Science)、「技術」(Technology)、「工学」(Engineering)、「芸術」(Arts)、「数学」(Mathematics)の5つの頭文字を取った言葉。▼理工系の「STEM」にAが加わったもともとは理工系の人材不足が問題になっていたアメリカで、「STEM」の4つの教育分野を強化する目的で提唱されるようになりました。そこに「芸術」(Arts)の創造性がプラスされ、今では“スティーム エデュケーション”といえばどこの国でも通じるほど、世界共通の教育手法となっているとのこと。

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「STEAM」それぞれは単体の科目としてはこれまでもあったわけですが、組み合わさることで一体どのような意味を持つのでしょうか。▼「答えを教わる」から「自分なりの答えの創造」へ「“STEAM教育”はわかりやすくいうと、“体験”や“創り出す学び”のこと。

よくSTEAMって何ですか? と聞かれたときに、“今までバラバラに学んできた分野の科目を横断的に学ぶこと”とお伝えするのですが、実は非常に重要なのが、これまでの答えを教わる受動的な学びではなく、みずから“『探究し』→『課題を見つけ』→『自分なりの答えを創造する』”というプロセスなんです。

もともと日本は、Aの“Arts(芸術)”を除いたSTEMの理工系分野に極めて強く、世界的に見ても上位に位置するほど。しかしながら”Arts”部分がとても弱いという課題があります」

◆なぜ「芸術=Arts」がプラスされたの?
「芸術(Arts)」というと絵を描いたりものづくりをしたりという芸術や美術が頭に浮かびますが、ここでいう「芸術(Arts)」とはクリエイティビティや多角的視点を養う“芸術・リベラルアーツ”のこと。社会をデザインする思考が含まれると井上さんは説明します。

▼理系に強い日本に「STEAM」が必要なワケ“A”の“Arts”が示すのは、ビジョンを描く力やそれを伝える表現力。日本人はストーリーとして表に出したり、自ら考えてプレゼンやディスカッションをするのが苦手という方が多いですよね。

でも、AIが急速に普及し、与えられた仕事をこなすだけでは立ち行かなくなる時代。技術があることだけでは意味がなく、例えば近所の身近な人や、社会、地域の課題を解決するために技術を使って作るなど『どんなビジョンを思い描きクリエイトするか』が最も大事なんです。

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いい例がApple製品。技術に加えて顧客の心に響くストーリー性と、シンプルで使いやすいデザインで世界中の人々を惹きつけています。逆に、技術があるから作ってみたけれど、世に出したらまったくヒットしないというものもよくありますよね。日本はそれに陥りがちで、失われた30年などと言われてしまうことも。

そういう背景もあって、日本に足りていない“A”の『ビジョンを描く力や表現力』を含めたSTEAM教育を推進しています」

◆「A」が弱い日本と海外の教育の違いとは?
プレゼンやディスカッションが苦手と聞いてドキッとした保護者の方も多いはず。でもなぜ私たち日本人は、ビジョンを描くことや自分の意見を表に出すことに不慣れなのでしょうか。

「これまでの日本の教育の仕組みの問題なので、仕方のないこと。海外では早くからそういったトレーニングが盛んで日常的に行っているんです。

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▼「あなたならどうする?」の問いかけたとえば、イギリスの公立小学校1年生の宿題では、“あなたが1日王様だったら世界を変えるために何をする?”“散歩に行って、今の季節を示すアイテムを集めたら、どんな素材が使えるかな?” というような、自分ならどうするかという正解のない問いが出題されることも多く“自分はこう思う“という意見を交わし、自分なりの解を見つけていくんです。

この“答えがない問い”について議論するというのがとても大事。だって世の中、正解がないことの方が多いですよね。各国共にそのことの大切さを理解しているので、そのような教育にシフトしているんです」

◆渋谷区の導入が話題! 日本のSTEAM教育
では、日本でのSTEAM教育の取り組みは、どうなっているのでしょうか。日本では、文部科学省によって2018年度から学習指導要項にSTEAM教育の推進が盛り込まれ、2020年からはその一貫として、小学校で「プログラミング教育」が必修科目となりました。

出典:探究ハンドブック初版 2024年3月 発行:渋谷区教育委員会 監修:信州大学名誉教授 東原義訓 編集:株式会社Barbara Pool

しかし、実際に子どもに公教育を受けさせている保護者の目線では、その実感がないという方も多いのではないでしょうか。▼公教育でも進んできている?「海外の切り替えスピードに比べると遅いかもしれませんが、徐々に公教育でSTEAM教育の探究学習を取り入れる地域は出てきています。

私たちSTEAM JAPANで携わらせていただいている事例でいうと、東京都大田区で2022年から小学校5・6年生を対象とした“おおたの未来づくり”と題した独自教科で、子どもたちの創造的な資質・能力を育んでいます。

また2024年4月からは東京都渋谷区の全小・中学校で、午後の時間をすべて探究“シブヤ未来科”に充てるようになり、話題になりました」

▼子どもたちの反応は?「どちらも子どもたちが楽しみながらやっているのが印象的です」と井上さん。

従来の授業は全員が同じ内容を同じペースで学ぶのに対し「シブヤ未来科」では午前中に学んだ国語・算数・理科・社会などの基礎教科をもとに、自分が興味のあることや暮らしの中で疑問に思ったことを、午後には教科の枠を取り払い各自のペースで探究していくという「探究STEAM教育」を取り入れています。

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このような取り組みを “自分の地域でも取り入れて欲しい”と思った方もいるかもしれません。教育現場でコーディネーターとして携わる井上さんは、保護者の声を自治体に届けることこそが大切だとアドバイスします。▼保護者の声が教育現場を変える!「保護者の方からの要望が、教育現場ではとても重要。STEAM教育に限らず、いろいろな側面から変えていこうと保護者の方が立ち上がることで実際に動くことも多いんです。日本がグローバルで生き残るためにも、一緒に声をあげていきましょう!」

◆やっぱり受験に支障がないかが不安…
しかし、保護者としてSTEAM教育の重要性を頭で理解できても、いざ子どもの座学時間が減ると不安になります。とくに受験を見据えた場合、探究学習に多くの時間を割いて大丈夫なのかという疑問が……。

「じつは受験自体も大きく変わってきていて、今までの受け身の学習だけでは通用しなくなっています」

▼今のままではこれからの大学受験に通用しない?!「大学受験ではAO入試という、学力試験だけでなく自己PRや面接なども含めた“総合型選抜”の割合が増えており、算数・英語に加え、探究という入試科目があるところも。

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たとえば、“過疎地域でどうやったら現状を変えていけるか自分でアイディアを考えて提案してください”という問題など、思考力・判断力・表現力などを問う入試も出てきているんです。

これらの力は他でもない“探究“のプロセスによって身に付いていくもの。文科省の調査データでも、総合的な学習・探究に積極的に取り組んでいる児童ほど、教科の平均正答率が高いという具体的な数値が出ており、実際に2021年から大分県で高校生向けに実施しているSTEAM教育プログラム“OITA STEAM PLATFORM”の参加者から、AO入試の推薦枠などで良い実績が出始めています」

「だからといって、これまでの基礎学習を疎かにしていいわけではない」と井上さんは続けます。

▼思考力を育むには何が必要?「全部の一般入試が廃止されるわけではないですし、今までの語学や計算といった従来型の学習が得意というのも個性のひとつ。要は、これまで『学力試験』という軸で測っていたものが、それ以外の得意分野がある子の能力も多角的に測れるようになってきているということ。

『探究学習』は、教科で学んだ知識や技能を実社会にどう生かしていくかを鍛える場ですが、土台として必要なのはやはり語学や計算といった『基礎学習』。それらの2つが両軸となって思考力や表現力が育まれていきます」

▼親の考え方がこのままではダメ…?親世代は学力というと暗記や計算のテストで高得点をとる学びを連想しがちです。しかし、AI時代を生きるこれからの子どもたちに不可欠なのは、答えのない問いを自分なりに考え、創造していく力。

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そのために保護者側が、興味のあることを思うままに探究する「STEAM教育」を取り入れることが重要だという「マインドセット」が必要になってきているのですね。

第2回では、家庭で探究学習などのSTEAM教育を取り入れるにはどうしたらいいか、環境づくりや声かけのコツ、おうちでできるアクティビティについて井上さんに教わります。

記事提供:ウーマンエキサイト

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