米Epic Gamesは人気ゲーム『Fortnite』や、ゲームエンジン「Unreal Engine」などで知られる。その同社がフォートナイトやアンリアルエンジンの適用領域をゲーム外にも広げるとともに、米Appleとの法廷闘争などを乗り越え、念願のモバイル向けアプリストアの国際展開を強化するなど、エコシステムを拡大しようとしている。経営幹部への取材などから、同社の戦略に迫った。

エピックゲームズが2025年6月に開催したイベント「Unreal Fest Orlando 2025」では、同社のエコシステムが拡大している様子がうかがえた(出所/日経クロステック)

エピックゲームズが2025年6月に開催したイベント「Unreal Fest Orlando 2025」では、同社のエコシステムが拡大している様子がうかがえた(出所/日経クロステック)

この記事の流れ

“YouTube化”するフォートナイト
アンリアルエンジンが自動車に浸透
AIで開発者を支援
悲願のモバイル向けストアを拡張
手数料率を低く抑えてストアのメリット訴求

 人気ゲーム『Fortnite(フォートナイト)』と同社の高性能ゲームエンジン「Unreal Engine(アンリアルエンジン)」を両輪に、米Epic Games(エピックゲームズ、以下Epic)がエコシステム(生態系)を拡大させている。

 フォートナイト上でコンテンツを作るクリエイターが増え、収益に貢献。アンリアルエンジンの適用領域は、ゲームの枠を超え、映像や自動車、建築など様々な分野に広がっている。ゲーム配信ストアの会員数も増加し、10億アカウントに迫る勢いである。

 Epicは現在、他のゲームプラットフォーマーとユーザーアカウント数などで肩を並べつつある。

 フォートナイトやゲーム配信サービス(ゲームストア)「Epic Games Store」などで利用できる「クロスプラットフォームアカウント」の総数は、2024年末時点で8億9800万に達した。ゲームストアのユーザー数は、PCで3億人近くになり、MAU(月間アクティブユーザー数)は平均6720万人、ピークで7400万に達する。

 配信しているゲームタイトル数は4000以上である。Epicによれば、PC向けゲーム配信サービス「Steam(スチーム)」に比べて、ゲームタイトル数は5%に満たないものの、MAUはSteamの約半分だという。

Epic Gamesは他のゲームプラットフォームと肩を並べつつある(出所/日経クロステック)

Epic Gamesは他のゲームプラットフォームと肩を並べつつある(出所/日経クロステック)

 2025年6月に米フロリダ州オーランドで開催されたEpicのイベント「Unreal Fest Orlando 2025」では、同社がプラットフォーマーとして成長している様子がうかがえた。

 フォートナイト内でコンテンツを制作するクリエイターや、アンリアルエンジンを利用するゲームや映像、自動車、建築といった幅広い分野の開発者が来場し、Epicが多様な生態系を構築している様をアピールした。

 イベントの基調講演において、Epic創業者で最高経営責任者(CEO)のTim Sweeney(ティム・スウィーニー)氏は「素晴らしいゲームを作り、技術やツールを共有し、皆さんが望むものを構築できるようにする」と宣言。フォートナイトやアンリアルエンジン、並びにゲームストアに関する強化策を次々と打ち出した。

“YouTube化”するフォートナイト

 Epicのアカウントの中で、最も多いのがフォートナイトだ。

 2017年にリリースされたフォートナイトは、最大100人からただ1人の勝ち残りを目指すバトルロイヤルモードなどで遊べるTPS(3人称視点シューティング)。ステージ内で壁や階段など様々なクラフトも可能なゲームデザインなどで爆発的な人気となり、アカウント数は2024年11月時点で5億を超えている。今ではゲームにとどまらず、様々なコンテンツを体験できるエンターテインメント(娯楽)のプラットフォームになっている。

 そんな動きが加速したのは、新型コロナウイルス禍からだ。「巣ごもり」せざるを得ない分、コミュニケーションツールとしてフォートナイト内でユーザー同士が交流する場面が増えた。

 加えてフォートナイト内で、3D CGのコンサートなど、他のコンテンツを楽しめるようになった。ゲームだけにとどまらず、様々な体験が可能な仮想空間であるメタバースとしても発展したわけだ。

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 フォートナイトでは、「アイランド(島)」と呼ばれるゲーム空間をユーザー(クリエイター)がフォートナイト内に構築し、それを他のユーザーが体験できるようにする機能がある。2023年には、ゲーム制作ツール「UEFN」(Unreal Editor for Fortnite)の提供を始めた。現在、UEFNで制作されたゲーム(アイランド)の数は26万を超え、ゲームで消費した時間は累計112億時間に達した。

フォートナイトでは、「アイランド」と呼ぶゲーム空間をユーザーが構築できる(出所:日経クロステック)

フォートナイトでは、「アイランド」と呼ぶゲーム空間をユーザーが構築できる(出所:日経クロステック)

 UEFNが活性化するように、アイランド内でユーザーが滞在したり、遊んだりしたことに応じて、UEFNクリエイターに対してEpicが金銭を支払う仕組みを導入した。その支払額は、約2年間の累計で7億2200万米ドルに上ったという。

 フォートナイトがYouTubeだとするならば、UEFNのクリエイターは、さしずめ「YouTuber(ユーチューバー)」ということになる。

 人気クリエイターも生まれている。例えば、プロゲーマーのTypical Gamer(ティピカル・ゲーマー)氏が設立した「JOGO Studios」が開発したアイランド「SUPER RED VS BLUE」は、同時接続プレーヤー数で首位となる人気コンテンツになった。

 UEFNクリエイターの成功を促すために、ツールも拡充する。クリエイターは、ユーザー数や滞在時間などアイランドにおけるユーザーの各種のアクティビティーデータなどをAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を通じて把握できる。これを基に、クリエイターはアイランドに工夫を施す。

 こうした各種データへのアクセスをサードパーティーに許可するコンテンツ業界のプラットフォーマーは珍しい。こうした点からも、生態系の構築に不可欠なクリエイターや開発者を重視するEpicの姿勢がうかがえる。

アンリアルエンジンが自動車に浸透

 アンリアルエンジンも、ゲームの枠を超えて多彩な産業で利用されるツール基盤になっている。背景には、3次元コンピューターグラフィックス(3D CG)の適用領域の広がりがある。分かりやすいのが自動車分野だ。

 車載情報機器は、これまで地図なども2D表示が中心だった。だが、EV(電気自動車)化やインターネットとの接続を前提とするコネクテッド化の波が押し寄せて様相は一変。車載半導体の進化も相まって、車載情報機器にスマートフォンの技術を取り入れ、「スマホ化」が加速している。

 表示する映像は、ゲーム顔負けのリッチな3D CGとなり、それが自動車のセールスポイントの1つになった。

 この波に乗ったのが、Epicである。2025年6月のUnreal Festでは、ソニーグループとホンダが共同出資するソニー・ホンダモビリティや韓国Hyundai Motor(現代自動車)などが登壇するなど、著名な自動車メーカーへアンリアルエンジンが広がりつつあることを印象付けた。

ソニー・ホンダモビリティは3Dマップ機能へのアンリアルエンジン利用について講演した(出所/日経クロステック)

ソニー・ホンダモビリティは3Dマップ機能へのアンリアルエンジン利用について講演した(出所/日経クロステック)

 もっとも、他のゲーム開発エンジンの企業も車載向け事業に力を注いでいる。そんな中、アンリアルエンジンの採用の決め手となったのは、「映像表現の豊かさ」だったと、ソニー・ホンダモビリティで商品・サービス企画部ゼネラルマネジャーの纐纈潤氏は語る。

 同社は「新たな車内体験の創造」(E&Eシステムアーキテクチャ開発部ゼネラルマネジャーの西林卓也氏)を掲げており、その目標に向けて新技術を積極的に取り入れている。その一環で、アンリアルエンジンの導入を決めた。

ソニー・ホンダモビリティの西林氏(右)や纐纈氏(左)らが登壇した。展示ブースも設けた(出所/日経クロステック)

ソニー・ホンダモビリティの西林氏(右)や纐纈氏(左)らが登壇した。展示ブースも設けた(出所/日経クロステック)

AIで開発者を支援

 アンリアルエンジンの用途拡大に向けて、AI(人工知能)も積極的に導入し、利便性を高めている。分かりやすい事例が「Meta Human(メタヒューマン)」だ。これは、本物の人間と見まがうようなフォトリアルな3D CGのキャラクター、いわゆるデジタルヒューマンをアンリアルエンジンで作成する機能である。

 リアルな表情を再現できるように、「機械学習ベースの技術を採用した」と最高技術責任者(CTO)のKim Libreri(キム・リブレリ)氏は話す。例えば、口を動かしたり、周囲を見渡したりする際に生じる顔の皮膚の微細な動きまで再現できる。左から右へ視線を移すと、眼球の動きに伴ってまぶたが動く様子も表現できるという。

 このメタヒューマンの機能を強化し、今回のUnreal Festでアピールした。目玉は、「フェイシャルトラッキング機能」。スマホのカメラやWebカメラで顔の表情を撮ると、その変化に応じてリアルタイムでメタヒューマンの表情も変わる。非常に自然で違和感はない。

右の男性の表情が変わると、メタヒューマンの表情も似たように変化する(出所/日経クロステック)

右の男性の表情が変わると、メタヒューマンの表情も似たように変化する(出所/日経クロステック)

 ボディーの編集機能も強化した。身長や股下、肩幅、筋肉量などの項目を調整し、体の形状を細かく編集できるようになった。体の形状変化に応じて身に着けている衣服のサイズを自動で調整する機能も新たに備えた。

 メタヒューマンはこれまでゲームや映像の制作場面を中心に利用されてきたが、現在ではそれら以外の分野でも、「利用が広がっている」とリブレリ氏は話す。例えば自動車分野では、車体の仮想モデルを作成し、その中にメタヒューマンを配置。ハンドルや各種ボタンに十分に手が届くかなど、ヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)の評価をメタヒューマンで行うという。

 UEFN向けツールにも、積極的にAIを導入していく。AIによって自然な対話が可能な独自のノン・プレーヤー・キャラクター(NPC)をクリエイターが制作できるツールもそろえる。

 2025年4月には、3Dアセットに対して自動でタグを付けられるAI技術を持つ英Loci(ロキ)を買収したことを明らかにした。この技術をUEFNや、3Dアセットのマーケットプレイス「Fab」に統合するという。

悲願のモバイル向けストアを拡張

 ゲームストアに対する強化策も、今回のUnreal Festで打ち出した。Epicにとって「悲願」ともいえるのがモバイル向けのゲームストアだ。Android端末では米Google(グーグル)が、iOS端末では米Apple(アップル)がアプリ配信サービス(アプリストア)を展開している。

 Epicは当初、両社と真っ向から対立した。独自の課金システム「Epic direct payment」を2020年8月に始めたからだ。Android端末やiPhoneのアプリストアでは基本的に、アプリ購入とアプリ内購入に対して30%の販売手数料を課す。これにEpicは「高額、かつ独占的な取り決め」として異議を唱えて、独自課金システムを構築した。

 GoogleとAppleはそれぞれ、Epicの課金システムがアプリストアの規約に反するため、両アプリストアにおけるフォートナイトの配信を停止した。そこから、Epicは両社と法廷闘争に入った。

 一進一退の攻防を続ける中、「巨大テクノロジー企業の独占を是正すべき」との機運が高まり、新法が成立した国や地域が出てきたことで潮目が変わった。例えば、欧州連合(EU)の欧州委員会が設立し、2024年3月に全面適用を始めたデジタル市場法(DMA:Digital Markets Act)がまさにそれだ。

 こうした新法などによって、2024年8月、Epicはモバイル版のゲームストアを開始した。Android端末向けでは全世界で開始したものの、iOS端末向けは欧州だけだった。2025年1月には、モバイル向けゲームストアを通じて、サードパーティー製のゲームの配信も始めた。

 ただし、Appleは欧州でサードパーティーのアプリストアを認めたものの、人気アプリの開発者に対し、「コアテクノロジー料」と呼ぶ新たな手数料を設けた。こうした新たな手数料やサードパーティーストアの利用を阻害する措置などに対して、欧州委員会はDMAに違反するという予備調査結果を2025年4月に示した。Googleに対しても、同社がDMAの「アンチ・ステアリング・ルール」に違反しているという予備調査結果を欧州委員会が発表している。

 米国では、Appleが外部決済を使うアプリ開発者に対して別の手数料を課したため、Epicは米連邦地裁に異議を申し立てた。2025年4月に米連邦地裁は、この手数料に対する禁止命令を出した。その後、同年5月に米国のAppleのアプリストアにフォートナイトが復活した。

 他国でもDMAと同種の法律が成立したり、アプリストアの制限が違法との判決が下ったりしたこともあり、欧州以外でもiOS上でのゲームストアを提供できるメドが付いた。2025年内に日本と英国、ブラジルの3カ国で新たにiOS向けにゲームストアを始める。今後、世界中のiOS端末でゲームストアを提供できるように活動を続ける。

2025年内に日本と英国、ブラジルで新たにiOS向けにゲームストアを開始する(出所/日経クロステック)

2025年内に日本と英国、ブラジルで新たにiOS向けにゲームストアを開始する(出所/日経クロステック)

手数料率を低く抑えてストアのメリット訴求

 GoogleやAppleのアプリストアと競合する存在になるため、ユーザーや開発者にとって利点のある取り組みを展開し、双方を取り込む。ユーザーに対しては、Epicの決済システムで支払った場合、支出額の一定割合をクレジットとして還元する「Epic Rewards」プログラムを設けた。

 開発者に対しては、販売手数料を12%と低く抑えている。2025年6月からは、タイトル1つあたりの収益が100万米ドルに達するまで0%にした。

 加えて、Epic Games Storeでのアプリ内課金に向けたショップを開発者が立ち上げられる新機能をリリースするなど、開発者への利点を訴求する。

 これ以外にも、引き続きモバイル向けにゲームストアを展開する各種障壁を取り除いていく方針だ。「AppleとGoogleに対して、すべての国で競合ストアが不当な障壁や煩雑な手続き、不要な手数料などによって不利にならないように求め続ける」(スウィーニー氏)

 エピックのゲームストアの特徴は、同ストアを通じて購入したゲームであれば、「異なるゲームプラットフォーム間で共有して楽しめること」(スウィーニー氏)。ボイスチャットやテキストチャットなどでPCとモバイルのユーザー同士で交流できる機能を利用可能にする。こうした機能が、ユーザーにとっても、開発者にとっても利点になるとスウィーニー氏は見ている。

 こうした一連の施策によって、モバイル向けゲームストアの利用者を増やしていく。既に、ゲームストア用アプリのインストール回数は累計4000万回に達した。PC向けアカウント数にはまだ及ばないが、2025年中にこれを7000万回に引き上げたいとする。

(写真提供/日経クロステック)

NGM

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アンリアルエンジンが自動車に浸透
悲願のモバイル向けストアを拡張

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