カプコンより2015年7月9日に発売されたニンテンドー3DS用ゲームソフト「大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險-」(以下、「大逆転裁判」)が、本日発売10周年を迎えた。

 本作は法廷アドベンチャー「逆転裁判」シリーズのナンバリング作品から100年前、19世紀末(明治時代)を舞台にしたクラシックミステリーとなっている。主人公は「逆転裁判」シリーズの主人公・成歩堂龍一の先祖である、成歩堂龍ノ介。また、小説「シャーロック・ホームズ」シリーズの要素を取り入れており、シャーロック・ホームズを知っているとより一層楽しめる作品となっている。

 2021年7月29日にはシリーズ2作品をまとめた「大逆転裁判1&2 -成歩堂龍ノ介の冒險と覺悟-」がプレイステーション 4/Nintendo Switch/Steam向けに発売されている。

 本稿では「大逆転裁判」の思い出を振り返るが、多少ネタバレを取り扱っているため、未プレイの人はくれぐれも注意してほしい。

筆者の独断で、大好きな登場人物たちを紹介

 本作は、成歩堂龍一の先祖である、成歩堂龍ノ介が主役の物語。基本的には新登場となるキャラクターたちが活躍するので、これまでの「逆転裁判」シリーズをプレイしていなくても大丈夫になっている。

 ここでは、龍ノ介をはじめとした本作の個性豊かな登場人物を筆者の独断もこめて紹介しよう(なんであのキャラを紹介してあのキャラはいないんだ、という不満もあるかもしれないが、そこはご勘弁いただきたい)。

成歩堂 龍ノ介(なるほどう りゅうのすけ) CV:下野紘さん

 本作の主人公。大日本帝国の帝都勇盟大学の学生で、成歩堂龍一の先祖。

 大英帝国関連の事件に巻き込まれたことから弁護士を目指し、司法留学生として大英帝国を訪れる。

 最初の法廷に立ったころは緊張のあまり「はいッ!」と目を泳がせてばかりいたが、成長していくにつれて「異議あり!」とお決まりのポーズを取るようになっていく。

成歩堂 龍ノ介御琴羽 寿沙都(みことば すさと) CV:花澤香菜さん

 本作のヒロインの、大和撫子。法律の知識に長けており、「法務助士」として龍ノ介を支える。

 「シャーロック・ホームズの冒険」を愛読しており、作品が連載されている「ランドストマガジン」(ストランドマガジンをもじったもの)を毎号、大英帝国から取り寄せている。

 柔術の心得もあり、「寿沙都投げ」が必殺技。龍ノ介も度々投げられている。

御琴羽 寿沙都亜双義 一真(あそうぎ かずま) CV:中村悠一さん

 帝都勇盟大学の学生で、龍ノ介の親友。大学生でにして弁護士の資格を持っている優秀な人物だ。

 非常に熱血漢で、トレードマークの赤いハチマキを常になびかせている。亜双義家に代々伝わる名刀「狩魔」を帯刀している。

亜双義 一真シャーロック・ホームズ CV:川田紳司さん

 倫敦の大探偵にして名探偵。その名の通り、鋭い推理力でいちはやく真実を導き出す。

 倫敦での知名度は高いが、まだ大英帝国以外での知名度は低く、「あのシャーロック・ホームズ」と自己紹介しても龍ノ介には「アノシャーロック・ホームズ」という名前だと誤解されてしまう。その流れから、(シャーロック・ホームズと区別する意味でも)本作のファンの間では通称「アノシャー氏」とも呼ばれている。

 第2話にて大英帝国に向かう蒸気船「アラクレイ号」に乗船していた際に、船内で起きた殺人事件の容疑者となった龍ノ介と出会ったことから、やがて龍ノ介や寿沙都らをベーカー街221Bの屋根裏に同居させることとなった。

シャーロック・ホームズアイリス・ワトソン CV:久野美咲さん

 ホームズの同居人で、10歳にして医学博士号を持つ天才少女。「ランドストマガジン」にて小説「シャーロック・ホームズの冒険」を連載しているほか、ホームズとともにさまざまな発明品を生み出している。実の両親はいないが、明るく快活な少女。

アイリス・ワトソンバロック・バンジークス CV:津田健次郎さん

 中央刑事裁判所(オールドベイリー)で「死神」と呼ばれる検事。彼が立つ法廷の被告人は、なぜか無罪判決を受けても決して助からないという逸話がある。

 ワインを「神の聖杯」と呼び、法廷でもワイングラスを手放さない。

バロック・バンジークス夏目漱石

 第4話で登場する被告人で、日本人留学生。もちろん、日本人にはおなじみの「吾輩は猫である」のあの夏目漱石だが、本作では神経質で小心者として描かれている。常にブルブル震えていて、身ぶり手ぶりで会話をするのが癖。

 特に、物事を四字熟語(になっていない時もあるが)に置き換えて、一文字ごとに謎のポーズを取ることも多々あり、それが不振な眼で見られている要因にもなっている。

夏目漱石そのほか巧舟氏らしいネーミングのキャラクターたちが多数登場

 ほかにも「コゼニー・メグンダル」や「エッグ・ベネディクト」、「タリー・ティンピラー」など、巧舟氏らしいネーミングのキャラクターたちが多数登場する。

 なお、筆者が最初にプレイした時、第1話でほれ込んだのが龍ノ介の親友・亜双義であった。学生の身でありながら弁護士の資格を取得しており、「日本の司法を変える」という夢を叶えようとしている亜双義は、本当にカッコよかった。

 学業の成績と弁護士としての実績から、大英帝国への司法留学の権利を勝ち取る能力も持ち合わせているというエリートぶりもよかった。

 さらに筆者はなぜか「中村悠一さんが声を務めるキャラクターを好きになる」という宿命というか、業を抱えている。いや、逆に言うならば「好きになったキャラクターの声を中村悠一さんが務めていることが圧倒的に多い」ともなるのだが。

 ということからも、もう第1話で「亜双義最高! もう亜双義しか勝たん!!!!」くらいの気持ちでいたのだが、そんな筆者の荒ぶる魂を、更なるインパクトで上書きしてきたのが、第2話で登場したアノシャー氏だったのである。

「あのシャーロック・ホームズ」こと、アノシャー氏

 ホームズは、いわゆる「変わり者」。それも、巧舟氏の手によって、かなりヘンテコなキャラクターになっており、事件現場では捜査という名の、謎の行動を取っていたりするのだが、この奇行が……なんというか、ツボにハマってしまったのだ。

 かなりの自信家……。うーん、良い!
 無邪気すぎてすぐに問題を起こす子供っぽさ……。うーん、可愛い!
 探偵ながら、解き明かした真実に自分が傷ついてしまったり……。うーん、最高!

 ……と、すっかりホームズの虜になってしまった筆者なのであった。

 物語上、亜双義が早々に退場してしまったので、なお一層龍ノ介の実質の相棒とも言える存在のホームズにのめりこんでいったのもあるが……。

龍ノ介とホームズが共に推理を進めていくという、共同推理のシステムもよかったです「2」までをプレイして完結する物語なのだが……

 今でこそ、「大逆転裁判1&2 -成歩堂龍ノ介の冒險と覺悟-」とセット売りされていて、一気に初代と2をプレイできる「大逆転裁判」だが、本作が発売された当時、本作が二部構成となっていることは全く明かされず、それでいて最終話までをプレイしても最後の謎は明かされないまま終わってしまったということもあって、当時は「えええええ!」という悲鳴が続出したものだった。

 ちなみに「大逆転裁判2 -成歩堂龍ノ介の覺悟-」は、約2年後となる2017年8月に発売されているので、恐らく初代が発売になった時点で二部作構成であること、「大逆転裁判2」は開発が始まっていたことがうかがえるが、それならばせめて開発中であることを教えてほしかった、というのがファンの本音ではあった。いや、なにはともあれ無事に「大逆転裁判2」がきちんと発売され、物語が綺麗に終わったことは非常に喜ばしいことなのだが。

 今からプレイする人は、初代~2までを一気にプレイできてうらやましいなぁ、などと思うくらいには、本作は謎を残して終わってしまうため、当時は賛否両論といった評価にもなりがちだった。「全体的には良くできているが……」という感想が多かったのは、仕方がないことだろう。

 だが、そんな評価もなんのその。例え「2」がこの世に生み出されていなかったとしても、筆者は「大逆転裁判」という作品が大好きだったと思う。

 魅力的なキャラクターの個性付けはもちろんのこと、塗和也氏によるキャラクターデザイン、一話ごとの構成の良さ、龍ノ介の成長物語、スチームパンク的な世界観、北川保昌氏と前馬宏充氏によるバロック調のBGM、システム面での快適さ、全てが噛み合って壮大な物語の一片を描いたのが本作であり、もしも一片のままで終わっていたとしてもそれが本作の評価を下げる理由には、(少なくとも筆者は)ならなかったのである。

龍ノ介の成長は本当に見事のひとこと。特に龍ノ介は最初から弁護士だったわけではなく、言ってしまえば半ば成り行きだったので、弁護士として一人前になるまでの道は長く、だからこそ最終話に近づくにつれて、龍ノ介が弁護士として頼もしい姿になるのは、感慨深かった

 冒頭でも散々書いたように、本作はとにかくキャラクターが素晴らしい。巧舟氏はこれまでにも山のように魅力的なキャラクターを作り出してきたのに、まだこんなにも引き出しがあるのか、と本当に恐れ入る。

 そしてそのキャラクターたちが3Dモデルでめちゃくちゃ動いてくれるのも嬉しい。特にホームズと漱石の動きは奇怪すぎて、筆者激推し。

 また、19世紀末という時代だからこその独特な雰囲気をシナリオにも活かしているのが、素晴らしい。まだ科学捜査もままならない時代なので指紋による捜査や血液鑑定などができない中での推理、当時の倫敦の空気感を感じられる画作りや謎解きになっており、それらを今プレイしても違和感がないようにゲーム中に落とし込むことに成功している。

 あまりにも有名すぎるシャーロック・ホームズについても、筆者はだいぶ昔にシャーロック・ホームズの原典を一度さらっと読んだ程度でしかないが、二次創作的な形で登場することには少々不安を覚えたものの、ホームズファンが見てもくすっと笑ってしまうようなちょうどいい塩梅の存在になっていたように感じられる。

少々鼻につくセリフもあったものの、それも名探偵という自信による現れである

 これらを総合的に考えると、例え謎が残されたままであろうと、筆者は本作のことが大好きで大好きでたまらなかった。実際、「2」が発売されるまでの2年間、本作への愛が衰えたことはなかった。

 むしろ、「2」は謎を解決はしてくれたものの、本作ほどの鮮烈さがあったかというと、筆者は本作で最初にバチーンと食らった一発の衝撃のほうが凄まじかったようにも思っている。

 いわゆる、「逆転裁判」1~3に感じる「逆転裁判」らしさもある、「逆転裁判」を真っ直ぐに進化させた作品が本作だとも感じている。ということもあり、「この作品のどこをどのように評価したか」でどうしても意見が分かれてしまう作品ではあるのだが、(現在は「2」が出ているため、そう割れもしない気がするが)10年前の当時から私はこの作品が大好きでしたと世界の中心で叫びたい。

わざわざ登場人物紹介に出したが、実際は割とモブな漱石さん。でも漱石さんがいなかったらこのゲームの味は少し薄まっていたかもしれないというくらい、濃いキャラクターで大好きなんです。これぞ巧舟氏らしいキャラクター!

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