ダートマス大学タックビジネススクール教授のロン・アドナー氏(撮影:榊水麗)
ダートマス大学タックビジネススクールで教え、経営コンサルタントとしても活動するロン・アドナー氏は、「業界の垣根が消失する現代のビジネス環境では、他社と協業する『エコシステム』の構築が不可欠」と説く。そんなアドナー氏は、日本企業の現状と課題をどう捉えているのか。同氏に日本企業に必要な変革の道筋について聞いた。
優れた品質より「優れたソリューション」
──アドナーさんはスタートアップからフォーチュン500(※)企業のような世界の名だたる企業までを対象に経営コンサルティングを行っていますが、近年の日本企業の動向をどう見ていますか。アドナーさんが提唱する「エコシステム」をうまく取り入れている企業はあるのでしょうか。
※アメリカ合衆国の経済誌「フォーチュン(Fortune)」が毎年発表する、全米の上位500社のリスト
ロン・アドナー氏(以下敬称略) 私は残念ながら日本企業への個別のコンサルティングを手掛けたことはないのですが、日本企業からは著書などを通してフィードバックをもらうことがあります。
日本企業で際立つのは「卓越性」です。歴史的に製造業に強みを持ち、高品質な製品とサプライチェーンにおける高い生産性を武器に、あらゆる業界で世界中の顧客を満足させてきました。
ですが、お話しした通り(前編参照)、「エコシステム」の構築が競争戦略で必要になった今、「誤ったゲーム」で戦い続けてしまうリスクもそれだけ高まったと言えるでしょう。高品質な商品・サービスを届けることに成功体験を持っていると、市場と顧客が根本的に変化したという事実に目が向きにくくなるからです。
業界の垣根がなくなる時代においては、顧客は「(競合他社の中で)最高品質の商品」よりも「優れたソリューション」を求めるようになります。つまり、品質や性能よりも「顧客の痒いところに手が届く製品・サービス」の価値が高まる、ということです。
印刷業界を例に挙げれば、「(スマホと連携できないけど)最高の印刷の品質を持つプリンター」よりも「(多少印刷の品質は劣るけれども)スマホと連携できるプリンター」が支持されるのです。
もちろん、これは日本企業だけに該当する危険性だけではありませんが、過去の成功体験が、かえって自らの視野を狭くしてしまうリスクは肝に銘じておいた方がよいと考えます。
まして、現在の日本経済はデフレからの転換、労働市場の高齢化など、従来のグローバル化の遅れや競合国の台頭とは異なる新たな課題にも直面しています。個々の企業は大きなプレッシャーを抱えていて、パニックに陥ることもあるでしょう。そうした中で重要なのは「自社にとって正しいゲーム」とは何かを見極める戦略です。
──日本企業の課題としてよく例に挙がるのが、意思決定の遅さです。エコシステムに基づく意思決定において、やはりスピードは重要ですか。
WACOCA: People, Life, Style.