6月26日に発売予定のプレイステーション 5用アクション「DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH(デス・ストランディング2)」(以下、「DS2」)。本作のプレビューイベントにて、本作の監督をつとめるKojima Productions代表の小島秀夫監督が、同イベントに参加したメディア関係者に向けてQ&Aセッションを行なった。
「DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH」監督 小島秀夫氏 Photo by HiromichiUchida(The Voice)
別途記事にてお送りしているコジプロ開発陣によるセッションと同様、参加した全メディアからの質問が抜粋され、小島監督がそれに対して返答するという形で進行した。当日も開発の最終調整中で多忙な小島監督が、本作に込めた思いを当日の参加者に語りかける形で話してくれたので、ぜひ読んでみてほしい。なおこのセッションもまた、プレビューでのゲームプレイを前提としているので、その前に該当の記事をご覧いただければと思う。
プレビューイベントや小島監督のセッションが行なわれたコジプロのカフェテリア前作で「配達ゲーム」が認知され、さらに楽しみたい人に向けて遊びの幅を広げた「DS2」
――「DEATH STRANDING」の続編を制作するにあたり、どこを目指したのでしょうか。また、前作から大きく変更や追加をしたいと考えた点はどこですか?
小島氏:皆さんちょっと思い出してほしいんですけど、「メタルギア ソリッド 1」の冒頭は武器を持っておらず、エレベーターを上がってようやく武器が登場するんです。冒頭に武器を置いてしまうとプレーヤーが敵を倒してしまうので、意図的に武器を置かずに、ステルスを学習してもらうための仕掛けを設けたんです。そして続編の「メタルギア ソリッド 2」では、多くの人がステルスを理解してプレイに挑むので、もう少し武器が簡単に使えたり、あるいは主観で部位を狙えるなどして、遊びの展開を広げていきました。
この「DS2」も同じで、「配達ゲーム」というジャンルにある程度慣れたプレーヤーがいて、ジャンルとしても成立した基盤があるので、積極的に戦いたい人には武器も使えて、もちろんそれは使っても使わなくてもよくて、車やバイクも乗りやすくするなど、いろんな人が自由に遊べるようにしています。配達をするゲームで、より自由度をもって遊べるたくさんのギミックを入れましたので楽しんでください。
ストーリーについては、前作はサムとクリフの物語でしたが、今回は「ルーとは一体何だったのか」というサムとルーの関係や、サム自身をもっと深掘りしていく物語になっています。
――前作のソーシャル・ストランド・システム(SSS)において、プレーヤーの行動で驚いたことはありましたか? また、それらは「DS2」の制作に影響を与えましたか?
小島氏:「DS1」の制作中、SSSをプレーヤーがどこまで楽しんでくれるのかは、モニターテストやスタッフによるテストプレイを実施したものの、発売するまではわかりませんでした。
僕が想定したのは、ハシゴや橋は作るけど国道はあまり積極的に作らず、人が作ったものを利用して進めるプレイスタイルでした。国道をしっかり作る人はそんなにいるのかと疑問をもったまま発売したところ、結構の数がいまして(笑)。しかも発売から5年経った今もまだ国道を作っている人がいると。その反応にははすごく驚かされて、想定外の喜びがありましたね。
どうやら「どうぶつの森」が好きな人は「デススト」も好きらしいんですけど、それもちょっとびっくりしましたね。ただ、そうなるとやはり続編でも国道を作る人たちのことを考える必要があって、その一つが「モノレール」なんです。
もう一つは「いいね」のシステムですね。お金や報酬がもらえたり、プレーヤーが強くなったりするわけでないので、ゲームのデザインとしてはちょっと変なシステムですよね。だけど日常のSNSでの「いいね」と同様、特別な価値はないけど「いいね」をもらったときの気持ちよさを重視したんです。でもそれがスタッフにはあまり評判がよくなくて、最初の頃は議論になったりもしたんですが、次第にスタッフの反応もよくなっていったんです。
それを踏まえてプレーヤーの反応はどうかなと思っていたところ、結構喜んでもらえたようで、前作のディレクターズカットや今回の続編は、皆さんがやりとりしたデータやヒートマップでその挙動を参考にしながら調整をしています。
また今回、サムがバックパックを下ろせるギミックを用意していて、戦闘時などに下ろして戦ってもらいたいと思っているんですが、モニターテストではなかなか降ろしてもらえないことがありました。降ろすと荷物がなくなってしまうかもしれないと考えてしまうみたいなんです。これはリアルな生活でも考えることなのかなと思っていて、特に手を加えずそのままにしてあります。
――新たな舞台として、メキシコとオーストラリアを選んだ理由を教えてください。
小島氏:あまり深くは語りませんが、まずメキシコはアメリカと地続きなので、前作でUCAができたので、当然隣の都市にも繋ぐ必要があるだろうと。劇中でサムも言っていますがそれは「侵略」になってしまう可能性があるので、いろいろ考えた結果として現在の形に設定しました。
オーストラリアについては、前作でアメリカ大陸を東から西に繋いでいったんですが、これ開拓時代をモチーフにした動きなんです。アメリカはもうUCAとなっているので、続編を作るなら同じ舞台でやるかどうかという話になるんですよね。
最初に考えたのは、アメリカを繋いだことは間違いで、繋いだものを外していくというストーリーなんです。でもそうなると背景の使いまわしになってしまうので、アメリカ大陸と同じように東西に広がっていて、北と南は海に面しているようなところを考えました。ユーラシア大陸では広すぎるし、アフリカ大陸もちょっと違うかなと思って、最終的には距離感が似ているオーストラリア大陸が最適だったんです。でもそうなると、オーストラリアと北米をどうやって繋げればいいのかを考え、苦肉の策として「プレートゲート」という設定にたどり着きました。この手段を使うと今後も続編が作れてしまうんですが、今のところその予定はありません(笑)。
世界的なパンデミックを経験し、全てが繋がった世界に疑問を抱き、企画のテーマに変化が生じた
――監督は普段、ソーシャルメディアで人々とのつながりを積極的にしていますが、「DS1」の「人々が繋がること」から、「DS2」では(最新PVの内容にある)「本当に繋げるべきだったのか」というテーマの変化が感じられました。ソーシャルメディアに対する監督自身の考え方に変化があり、それが作品に反映されたのでしょうか?
小島氏:その質問は最近のインタビューでもよく聞かれますね。「DS1」はコロナ禍の前に発売したんですが、当時はイギリスがEUから離れるなど、世界中が孤立分断するような動きがあって、ストーリーもゲーム性も“繋ぎましょう”、“繋がないとヤバイですよ”というテーマで作ったんです。コロナ禍が来たのはその3カ月後の出来事で、それには僕自身も凄くびっくりしたんです。
でも19世紀に起きたスペイン風邪のパンデミックとは違って、この21世紀はカイラル通信、つまりインターネットが繋がっていたことで僕らは生き延びました。そこで何が起こったかというと、コンサートやライブが生では見られなくなってネットのストリーミングになって、学校なんかも画面を見るだけで、先生から直接授業を受けられなくなって、友達とも遊べない環境になりましたよね。うちのスタジオもリモートワークになっていったんですが、それは仕方がないことだったとも思います。
その後のTVなんかを見ると「これからはメタバースだ、人との付き合いはしなくていい」という流れがあって、それはヤバイぞと思ったんです。人間のコミュニケーションってそうじゃない。移動をして誰かと偶然出会って、予定外の風景を見たりとか、メタバースではそれがまったくなくなってしまう。「DS2」の企画自体はコロナ前から企画はしていて、「分断と孤立があるから繋がりましょう」というゲームを作った後にコロナ禍を経験して、「繋がりすぎてもダメなのではないか」と思って、企画を直したんです。
「棒と縄」についてもそうで、「DS2」ではコロナ禍で僕が感じたことを代弁する人が登場しています。いろんな伏線を埋め込んでいるので勘がいい方は分かると思いますが、ヒントはロゴに使っているストランドです。「DS1」ロゴは“下に向けて繋がりましょう”というテーマがあるんですが、「DS2」では「ゴッドファーザー」のロゴのようにそれが上から垂れています。人形のドールマンもそうですし、メカも糸で浮いていたり、けっこういろんなキャラクターから糸が出ているんですが、それらがヒントになっています。
「繋がる」ということをよくよく考えつつ、それ以上のことは6月にソフトが発売してから体験してみてください。コロナ禍を経験している皆さんには、きっと近く感じると思いますが……どうかな?(笑)
(ここにいる)皆さんには4日間の体験のために来ていただきました。いつもならネットで配って体験してもらうことが多いんですが、このゲームの繋がりを感じてほしかったこともあるんです。皆さんそれぞれの国から来て、ここでいろんな人と出会っていろんな会話があったと思います。駅から見た風景とか、どこかたまたま入って食べたご飯とか。これが人の経験です。意図せず偶然いろんなものを体験して、それがシームレスに繋がるんです。今回皆さんに来ていただいて本当によかったです。本当なら最後まで遊んでほしかったんですが……(笑)。
――2019年末からのコロナのパンデミックは世界中に深刻な影響を与えました。その影響がこの「DS2」にも反映されているように感じられました。パンデミックをきっかけに脚本を大幅に変更されたと伺いましたが、具体的にはどのように変更されたのでしょうか?
小島氏:先ほどお話ししたように、コロナは僕だけではなくてあらゆるクリエイターが、世界中が体験しました。こんなことになるとは思ってもいなかったことです。
「DS2」のオープニングでサムとルーが暮らしているところにフラジャイルが来ますが、あそこは前作を作っているときに既に書いていたシナリオなんです。2020年の1月に、レア(レア・セドゥ)さんに「続編に出てほしい」とオファーをしたところ、「出たい」と言う返事がきたので、本当はその年にPCAP(パフォーマンスキャプチャー)をして、ディレクターズカットの最後にそれを入れようと考えていました。しかしそこからコロナ禍に入り、収録ができなくなったんです。結局2~3年ちょっと遅れましたが、その間にPC版とディレクターズカット版を発売させました。
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