ロサンゼルス・ドジャース日本公式ファンクラブ MVP会員限定イベント「Dodger Day in Tokyo 2026」が23日、開幕を迎え東京・虎ノ門の会場は、熱心なファンたちの活気に包まれた。限られたファンのみが参加できるトークショーにはドジャースのOB代表として斎藤隆さんが登壇。様々なエピソードを披露し、高校球児にメンタルのアドバイスも与えた。

日本の街中を歩けばドジャースの青いキャップを見かけることがすっかり日常になった。「僕が行った時とは、視界が変わったなっていうことを実感してます」と、現在のドジャース人気を表現した。

野茂英雄さんから始まり、黒田博樹さん、そして斎藤さん自身へと続いてきたドジャース日本人選手の歴史があるが、現在のドジャースが日本で生み出しているムーブメントは過去のそれとは別次元である。「なんか本当に僕自身はむしろ、今のファンの皆さんが、こうやって盛り上がってくれているのが嬉しいです」と語る。純粋に現在の野球界の盛り上がりを喜ぶ一人の野球人の姿があった。そして「(ドジャース・キャップを被っている人が)すれちがっても、誰も僕に気付かず、すーっと通り過ぎるんですよね」と会場を沸かせた。

新たな次元へ突入した「投手・大谷翔平」の完成度saito_takashi_002

Dodger Day in Tokyo 2026

トークショーの話題が現在ドジャースに所属する日本人選手たちに移ると、かつてドジャースのブルペンを支えた斎藤さんの語り口は、より熱を帯びたものになった。まずは、圧倒的なピッチングを披露している大谷翔平について。

斎藤さんは、現在の大谷のピッチングメカニクスが、投手として復帰前よりもさらに洗練された次元に到達していると鋭く指摘。椅子から立ち上がりジェスチャーを交え「一昨年、ちょっとスライディングで怪我しました。それまではもう少し左腕を使ってから入るんですけど、今は左腕をあまり使わずに、体幹に入っていくんですよ。そこから、パチーンって色んな球を投げ分ける。あれがめちゃくちゃハマってます」と、熱を込め解説を加えた。

現在の大谷は強靭な体幹を軸とした全身の連動性で投げているという。斎藤さんは、千葉ロッテマリーンズの吉井理人・元監督の言葉を引き合いに出し、その凄みを解説した。「吉井さんは『良い投手って、あまり特徴がない』と表現しますから。これは褒め言葉です。とても綺麗な、190数センチの体格を理想的に使っている。大谷翔平の凄さもあったんですけど、今は誰も真似できないような『新しい大谷翔平』が見られますよ」。

さらに、その進化の行き着く先として、メジャーリーグ最高投手の栄誉すら視界に入っていると断言。「まだピッチャーとして伸びしろがあると思ってたけど、最終的に僕マジで『サイ・ヤング賞』あるんじゃないかと。もう絶対計画の中にありますよ」。

また、会場のファンから寄せられた「二刀流をやった時に、次の日は休んだ方がいいのか、投手だけ、打者だけでやっていった方がいいのか」という起用法についての的を射た質問に対しては、メジャーOBとしての見解を明確に示した。「本人が二刀流としていきたい。それを望むのであれば、やらせるべきだと僕は思ってます。なぜなら、これはどこにもサンプルがないことなんですね。だから誰も口を出すべきではない。本人がやりたいと思うことをやらせてあげるのが一番いいんじゃないか」。

今年32歳になる大谷が、自らの身体とどう対話し、新しいバランスを見出していくのかが最大の見どころだと締めくくった。

山本由伸のタフさと、佐々木朗希への「橋渡し」

話題は、ワールドシリーズ連覇の立役者の一人である山本由伸へと移る。

現在に至るまでの見事な成績の裏には、MLB特有の過酷なスケジュールとの知られざる戦いがあった。「日本の山本投手を知ってる人たちにとっては、これぐらい(普通に)やっていますよね。僕らは。ただ、みなさんちょっと忘れないでと。一昨年は韓国シリーズからスタートして、昨年は日本での開幕シリーズ。ドジャースの今のメンバーは、この数年間本当に最初から最後までタフなシーズンを繰り返してるんですよ」。移動や時差調整を含め、他球団よりも圧倒的にタフな日程をこなしながら結果を出し続ける山本の底力を、斎藤さんは高く評価した。

そして、メジャーの世界へ足を踏み入れたばかりの佐々木朗希について、極めて興味深い舞台裏のエピソードが明かされた。斎藤さん自身がドジャースの首脳陣と直接コミュニケーションを取り、佐々木の背景を伝えていた。

「球団ではデーブ・ロバーツ監督などが『朗希はとても性格が繊細な選手だ。どう取り扱っていいか分かんない』と言っていたそうで、コーチに伝えてきました。『2011年、東日本大震災があったでしょ、あの時、まだ幼い朗希が震災でね』と。だから、野球のこととか、彼のもつバックボーン、彼の心の傷みたいなのは、ひとりでもいいから理解してあげてほしいと、ちゃんと伝えてきました」。

異国で戦う若い才能にとって、自身の生い立ちや心の機微を理解してくれる存在がチーム内にいることは、何よりも大きな支え。「それが今ちょっとずつできて来てると思っています」。斎藤さんの機転が、今後の佐々木のメジャーでの活躍を後押しすることになるかもしれない。

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勝負を分ける「準備」の哲学 「今日、自分がやれること」

イベントの終盤、高校でファーストや外野を守っているという2年生からの「試合に入る時の気持ちの整理の仕方を教えてほしい」という質問が飛んだ。現役時代にクローザーという究極のプレップレッシャーの中で戦い続けた斎藤さんは、極めて本質的な答えを返した。

「共通するのは、多分メンタルだと思うんで。やっぱりその日の調子を冷静に自分で『今日どれぐらいか』っていうのを引いて見る。普段の練習からのウォーミングアップとかを丁寧にやっておく。ストレッチとかも丁寧にやっておくと、『今日身体が普通に動きますよ』っていうのを確認すること」。

大舞台になればなるほど、人は「普段以上の力を出そう」と力んでしまう。しかし、それこそが最大の落とし穴だと斎藤さんは説く。「問題はやっぱり相手のピッチャーのタイミングをずっと、待ってる間中『このタイミング』って中で合わせること。つまりは『準備』です。今日、自分がやれる最大の、一番いいところを出そうとせずに、まず『今日、自分がやれること』に集中するといいんじゃないですかね」。

マウンドという孤独な場所で斎藤さんが実践していたのも、引き算の思考だった。「ピッチャーの場合、マウンドでは僕はたかだか3つもできなかったんで、たった一つ。『今日はもうただ低めに投げよう』『今日はただコースだけを丁寧に出していこう』そんなことでした」。

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日常の練習で積み上げてきたものをただ淡々と出力するための「準備」。この地に足のついた思考法は、野球というスポーツの枠を超えた真理でもありそうだ。

ドジャースという球団が日本でこれほどまでに愛され、深く根付いている理由は、大谷や山本といった現在進行形で躍動するスター選手の存在だけではない。斎藤さんのように、かつて異国のマウンドで泥臭く戦ってきた野球人たちが残した確かな足跡があってこそ。

会場につめかけたファンは、ドジャースの歴史も胸に刻み、最後はひとりひとりが、出口で斎藤さんと「ハイファイブ」をし、会場を後にした。

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