2025年6月26日、プロ野球・中日ドラゴンズの福敬登（ふく・けいと）投手（33）が、名古屋市昭和区の美容院「ic hair make」にて、約3年間にわたり伸ばしてきた長髪をばっさりとカットした。その髪は、病気などで髪の毛を失った子どもたちに無償で医療用ウィッグを提供する「ヘアドネーション」のために寄付される。
この行動は、プロ野球選手としては非常に珍しい、極めて意義のある社会貢献活動だ。派手なパフォーマンスでも、SNSでの話題作りでもない。静かで真摯な行動の裏には、福投手の深い思いやりと責任感があった。
彼が髪を伸ばし始めたのは2022年の冬、名古屋市にある病児とその家族のための宿泊施設「ドナルド・マクドナルド・ハウス なごや」を訪問したことがきっかけだった。そこで小児がんと闘う子どもたちと交流し、抗がん剤の副作用で髪を失い、ニット帽をかぶる子どもの姿を目にした瞬間、福の心に強く何かが刻まれた。
「何か自分にできることはないか」――。その思いが彼を突き動かし、髪を伸ばして寄付する「ヘアドネーション」に取り組む決意を固めることになる。
ヘアドネーションには31cm以上の長さが必要で、しかもウィッグ1つを作るには30人分以上の髪の毛が必要とされる。人間の髪は1か月に約1cmしか伸びないため、3年という長い歳月を要する。それでも福投手は、途中で心が折れることなく、髪を染めたり、パーマをかけたりせず、トリートメントやヘアオイルを欠かさず、最高の状態で寄付できるよう日々のケアを怠らなかった。
当然、プロ野球という厳しい世界に身を置きながらの取り組みは簡単なものではなかった。長髪の見た目に対して「清潔感がない」といった心ない声も耳にした。それでも彼は「自分の髪が誰かの役に立つなら」と信念を貫いた。
ようやく目標の長さに達し、美容院でのカット当日を迎えた福は、「ようやく自分の思いが形になったんだな」と感慨深げに語った。切られた髪は丁寧に束ねられ、医療用ウィッグとして専門団体に送られる予定だ。その髪の毛が、闘病する子どもたちの自信や笑顔を取り戻すきっかけになるかもしれない。
この日、髪を切ったことで心も頭もさっぱりとした福敬登は、27日から再開するプロ野球リーグ戦に心機一転して臨むことになる。彼は「すっきりしました。心機一転するにはいいタイミング。また新たな気持ちで頑張りたい。ファンの方には髪形にも注目してもらえれば」と語り、新しいスタートを切った。
このように、プロ野球選手という立場を超えて、一人の人間として子どもたちの未来と希望を支えるという福の姿勢は、多くの人に感動を与える。彼の取り組みは、単なる寄付ではなく、社会に対する誠実なメッセージであり、静かなるヒーロー像を体現している。
今後、このようなアスリートによる社会貢献の輪がさらに広がることが期待される。福敬登の行動が、多くの人々にとって新たな「勇気の原点」になることは間違いない。
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