ソニー・ミュージックソリューション(SMS)が海外で主催をしているイベントがある。韓国のAGF(Anime×Game Festival)である。2018年から始まり、今回は6回目にしてついに10万人の大台を超えた。来場者10万人は東南アジア中から集めるAFAでも11年目にしてようやく到達したサイズで「一大アニメイベント」の到達点でもある。なぜ日本の企業が韓国のアニメイベントを主催しているのか。2024⇒25年で7→10万人と急増したのか。現在の韓国市場における日本IPの位置づけも含めて、SMSで当イベントを担当した佐々木氏と田口氏に話を伺った。
■ソニー・ミュージックソリューションズが韓国でアニメイベントAGFを主催
――:自己紹介からお願いします
佐々木:SMSイベント事業3部の佐々木宏です。2018年からこのAGFイベントを運営・統括をしていました。中山さんも田口さんも最初はクライアントとしてブシロードにいらっしゃる時代に営業させていただいておりました。
田口:SMSで海外事業を担当しておりますイベント事業3部 チーフプロデューサーの田口聖教です。当時は中山さんとブシロードで佐々木さんのお話を聞いている立場でしたが、今はSMSに転職してGamebizの取材を受けているという不思議な状況です。

▲左から田口聖教氏、佐々木宏氏
――:中山も2018~19年にブシロード窓口で田口さんと同じ部署で、佐々木さんからのAGF営業の窓口を担当していました。いまはお二人にインタビューしているという、本当に僕も不思議な気持ちです笑。そもそもなぜ韓国でアニメイベントを主催することになったかお聞きしてよろしいですか?
佐々木:最初は2017年に韓国の映像配信会社AniplusさんからAniplex経由でソニーミュージックグループに話があったんです。オフラインでのアニメイベントを立ち上げたい、と。まだアニメ・ゲームの位置づけが韓国で低かった時代です。
――:意外です。韓国は2000年代に進出しているアニメ・ゲーム会社が多かったですし、韓国・台湾あたりは海外どの国よりも日本が最初に展開した市場というイメージはなかったです。
佐々木:2016~17年ごろになっても、韓国、それもソウルには主要なアニメイベントは育ってなかったんです。ゲームのG-STARは(2005年設立で年間20万人規模のユーザーが訪れる11月開催イベント)ありますが場所が釜山ですし、Seoul POPCON(2003年設立で5万人程度来場の8月開催イベント)もちょっと同人イベント&欧米のコミコン色が強くて、市場として成長はしていても日本アニメ・ゲームを扱うコレ、というイベントがなかった。

――:ソニー・ミュージックグループは2015年にシンガポールでの最大のアニメイベントAFAを主催するSozoに出資し、資本提携もしていました。いつごろからソニーグループとして海外イベントに積極化していたのでしょうか?
佐々木:まさにその2010年代半ばのタイミングくらいから、海外イベントに直接的に参画するケースが増えていました。Aniplexも「Fate/Grand Order」などで海外展開が積極化していった時代です。AFAはシンガポールだけでなくインドネシア(2012~18年、2024年開催)にも展開していましたし、C3 AFA(C3TokyoがAFAと合併し、2017~2020年に開催。C3は2020年で撤退)では香港やタイなどにも出展をしている中、Aniplusさんからお話いただいて、グループ会社のアニメ作品もあるしハイティーンのお客さんを呼べればなんとかなるんじゃないかと2社で韓国のイベントを主催することにしました。
――:AGFの場所はどちらでスタートされたんですか?
佐々木:場所は2018年から今のKINTEX(日本でいうと幕張のように電車で30~40分の距離)です。本当は都心に近いCOEXがよかったんですが高いですし同じ時期になかなかとれなかった。2018年の時には再開発前というところもあって、ほとんど何もないようなところでスタートしました。2019年にマンションが建ち始め、向かいに飲食店などもでき始めてきたので、2022年に再開してからはずいぶんやりやすくなりましたが(GTX-A路線が通って、それまで1時間バスなどの乗り継ぎが必要だったがここも便利になった)。
――:いまでは4社の座組ですよね?
佐々木:2019年から参入したDaewon Media(大元)社はマスターライセンシーとして多くの日本IP展開を手掛けています。それこそジブリの「どんぐり共和国」から、Disneyのマーベルシリーズまで。そして2019 年からは『俺だけレベルアップの件』の原作会社で、主にWebtoon向けの小説などを展開する出版社D&Cさんが入っています。新興でしたが彼らも参入し、ここ3年はこのAniplus、Daewon、D&CにSMSという4社の座組でこのアニメイベントを運営してきました。

▲2025年8月22日公開以降で累計614億ウォン(約60億円超)をあげた『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 』のブースはずっと人だかり。

▲2017年新設の韓国ゲームスタジオSTUDIOBISDEの「Starsavior」(2025年11月リリース)

■8年目で10万人の大台突破、世界唯一のIPホルダー主催のアニメイベント
――:僕もブシロード時代に田口さんと一緒にSMSさんにお世話になりながらCharaExpoという米国イベントを主幹させていただいてました。海外イベントは費用も高く、正直出展社の費用ではとても黒字になりませんでした。
佐々木:海外イベントは難しいですよね。チケットは最初17000ウォン(日本円で2000円程度)、現在も30,000ウォンと決して高くはないです。それが当時のPOPCON(ソウル版コミコン)などの相場だったんですよね。
このAGFのみがもつ特徴としては「IPホルダーが主催しているアニメイベント」という点でしょうね。世界中のアニメイベントでもこれはこのAGFだけの特徴かもしれません。Aniplusは日本アニメを購入して自社のプラットフォームで配信する韓国では最大大手の配信事業者 でしたし、2019年から参加したDaewon Mediaは玩具やゲームなどを韓国で取り扱うNo.1のマスターライセンシーです。そうした「事業者が行うアニメイベント」だったから、単発の収支だけではなく販促になるならと続けられていたということです。ある意味イベント専業会社ではないから続けられたという目線はあるかもしれません。
――:イベント事業としての収支はいつごろ帳尻があったのでしょうか?
佐々木:2018、19年とあって、コロナ明けの2022年にワンステップあがった印象です。その後2023年が起爆剤となって急激に拡大し、2024、2025年は順当にあがってきた、という感触です。ずっと出展企業自体は60社前後でしたけど、1社あたりのブースが2023年ごろに大きくなりました。
ゲーム会社もアニメコラボが増えてきて、そのきっかけでこちらのアニメフェスにも出展するようになりましたね。やっぱりG-starの釜山だと場所がずいぶん違いますからね。彼らもソウルで露出できる機会を探っていた、というのはあると思います。


――:協賛などもあるんでしょうか?
田口:今回は韓国の映画興行大手のMEGABOXさんやAndroidのアプリストアを運営するGalaxy Storeなどが協賛につきました。AGFと連動して、近くのMEGABOX映画館では先行上映会などもやっていますよ。やっぱり大型出展はゲーム会社ですよね。『LOST ARK』のSmilegate(2002年設立、売上約1.5兆ウォン規模)、『アークナイツ』のHypergryph(2017年設立)など。
――:ゲーム会社が多かったですね!これは他のゲームイベントと競合しないんですか?
田口:5月にPlayX4 (2009年設立のゲームイベント、約10万人が来場)というのもありますけど、あれはコンソールゲーム寄りで時期も含めて競合はしないですね。逆に11月開催で時期が重なるG-Starが最大サイズですが、BtoBが中心のゲーム業界内イベントの意味合いが大きいですし、新作ゲームのプロモーションで使われています。地の利でこちらはソウルで開催されるアニメ・ゲーム系ということで、G-StarよりもAGFで作品プロモーションをという会社が増えてきているのだと思います。出展社は重なっていますが、それでもどちらも出て、かつBtoCとしてはAGFに、という使い分けがなされるようになってきていますね。
――:あと男性が多いのも特徴かなと思いました。
佐々木:最初は8:2だったんですけどね。韓国のゲーム会社の勢いが大きくて(G-Starに出展していた企業が、こちらのアニメイベントに参加するようになってきた背景もあるが)、ゲームやホビーが増えてきて男性比率がむしろあがり、今は9:1です。
――:珍しい傾向だと思います。中国の『恋と深空』でビリビリなどは女子向けが今熱くてし、今年いったなかだとマレーシアや他の東南アジアでも「アニメイベントの女性比率が上がっている」傾向が顕著でした。
田口:ある意味それがAGFの伸び幅とも考えています。街中でアニメイトみると十分に女性ファンが殺到しているので、彼女たちに向けたコンテンツも増やしていけばAGFはもっと大きくなると感じてます。来年以降はもっとBL系など多様なコンテンツをひろげたいです。今はわりと男性ばかりなので女性ファンはきづらいんですよね。
――:ほかのイベントと違って、アーティストアレイ(Artist Alley:コミケなどで独立系のイラストレーターやグッズ屋が店舗を並べる場所)がいないのも特徴でした。
田口:これもAGF最大の特徴かもしれません。世界のアニメイベントで二次創作のArtist Alley入れていないケースってめずらしいですよね。71社の出展社すべてが「公式のみ」。それはSMSや公式ライセンスを卸してもらっている韓国事業者たちで固めている座組だからこそ、(本当は人が呼べるし活性化しやすい)非公式のブースを入れずにやっています。
――:グッズもかなりバラエティは増えてきているようにも感じました。
田口:そうですね、2018~19年はまだ高額なスケールフィギュアが多かった。最近は普通にアクリルキーホルダーや缶バッチといった低価格のMDも並ぶようになっています。
――:なぜこんなに伸びたのでしょうか?
佐々木:2020~21年はイベントが主催できなかったのですが、その期間に巣ごもり需要で韓国のアニメ視聴数増加、マーケットでMDが一気にひろがっていったのは他の市場と同じではないかと思います。それにユーザーもオフラインのイベントに飢えていて、図1でみるようにAGFも2022、23、24、25とこの4年間はずっと上昇気流でした。
■反日ムードでも安定して売れるアニメ・ゲームイベント。地政学の時代にこそエンタメ
――:イベントにおける日本企業・アーティストの比率はどうなのでしょうか?
佐々木:出展社71社のなかでいうと日系企業は1割と限定的です。逆にステージプログラムでお呼びしているアーティスト・声優さんは7-8割は日本からなので、「日本アニメ・ゲームが中心のイベント」という点は変わらないのですが、むしろ韓国企業が日本IPを使って市場に展開していくことが積極化していますね。韓国のゲーム会社のブースでも「推しの子」(日本:KADOKAWA、韓国・海外は開発を手掛けたNHNがパブリッシャー)やNetmarble社が「FGO/Grand Order」のゲームプロモーションやってますもんね。

――:日本企業の出展が必ずしも多いわけではないんですね。2022年からの4年間でその傾向は変わってきてますか?
佐々木:上下してます。トライアルで出した企業さんもいますが、翌年は出なくなったり。やはり、1コマ2コマだと埋もれてしまう。物販からめて展開したいもいたけど、売上はそこまで上がらない。そういった理由で1-2年で出して辞めてしまう企業もあります。ただ実際にこれだけ人数が増えてきていることもあり、日系企業は出展する会社さんのブースが巨大化している傾向にあります。昨年と比べての今年ですとBushiroadさん、円谷フィールズさん、AmiAmiさんなどが出てきていますね。


田口:逆に新規で今年からというとCygamesさんでしょうか。もともとゲームはKakaoさんなど提携しているパートナーからパブリッシュしているのですが、「版元」としてIPそのものをプロモーションしようとかなり大型のブース展開をされています。
――:以前はマスターライセンシーに任せている地域は、そこに任せれば十分、と消極化している企業さんもありましたよね。
佐々木:そうですね、そういう意味では積極的な日系企業はあえてIP自体のプロモで、ライセンシーと一緒になって巨大なブースで展開されていますね。
――:過去の出展リストをみると、今年はいらっしゃらないですが、KADOKAWAさん、東宝さん、ポニーキャニオンさんなどの名前もありますね。
佐々木:ちょうどSingaporeコミコンとタイミングがかちあってしまったこともありますね。それで今回でなかった企業さんもいらっしゃいます。
やっぱりアニメイベントの出展は結果がみえにくいですからね。ステージとの連動でどうプロモをしていくか。DaewonやAniplusは総合力で「プロモーション」から「MDでの刈り取り」まで全部できます。在庫もまわせるだけのリテール店舗がありますし、韓国地場の大手企業にとってはAGFというのはずいぶんやりやすいイベントですよね。
――:日本のアニメ、ゲーム会社にとって、韓国市場というのはどう見ていったらよいでしょうか?
田口:コロナ前とあとで圧倒的に市場が拡大しています。韓国ではこの数年間の間にアニメイトは1→3店舗、Aniplusも1→4店舗、これはそのままアニメグッズが売れる需要を見込んだ成長だと思ってます。
――:これがちょっと驚いたところでした。2019年までの感覚だとDaewon一強で、Aniplusはずいぶん小さかった。そこに直近で『THE FIRST SLAM DUNK』の映画配給や『しかのこのこしたんたん』や『ちいかわ』のライセンス展開でSMGなども成長しています。

田口:そうなんですよ。韓国市場って成熟しているように見られますけど、2010年代にまだアニメイベントが育っていなかったくらいで、実はこの4-5年でもずいぶん成長しているんですよね。『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』も2023年に異例のロングランで観客487万人、興行も(当時)日本映画で最大の512億ウォンを超えていた『THE FIRST SLAM DUNK』をさらに越える614億ウォンですからね。『チェンソーマン レゼ篇』も300万人越えの323億ウォンでした。
以前はCJ ENMやDaewonだけが大手企業という感じでしたが、中小だったAniplusやSMGが大手の一角を占めるようになってきています。反日が起きても「コンテンツには罪がない」と売れ行きはかわらないようになってきている。

――:そうなんですよ、現状日中関係の急激な悪化もありますし、そういう「ポリティカルイシュー」は各社敏感になってますよね。
佐々木:2020年には韓国でも無印良品やUNIQLOが不買運動の対象になるような 事態でしたが、コロナ前から含めて日韓はしばらく安定期ですよね。アニメグッズって不買につながりにくいんですよ。食品とか部品とかと違って代替品がないから、日中、日韓でどんなに問題が起こっても、意外にずっと市場は安定してきました。ずっと“日陰”のサブカルチャーでしたが、韓国でもマスメディアに報じられるようになってきたのは2024年くらいの傾向ですかね。
――:AGFのポジションはどうなのでしょうか?
佐々木:まだ一大イベント、とまではいえないですけど、現状で韓国で開催される最大のアニメ・ゲームイベントではあります。ほかに変わるものがないです。POPCON はCOEXで開催されているので人数は多いかもしれませが、無料入場ですし、ちょっと比較しづらい。バンダイも無料でファンエキスポなどやって4万人を集めてますね。こうした他のイベントも共鳴作用のようになっていて、全体がこの数年大きくなってきています。
田口:AGFだけではなく、街全体で盛り上がる雰囲気もできるようになってきました。ホンデはアニメタウンができあがってますし、以前はファッション中心の街だったのがいまや完全にアニメグッズ中心の街になっています。

▲以前は若者ファッションの聖地だった弘大にはアニメイト中心にビルまるごとアニメグッズ店舗になっている


――:日本企業に向けて韓国市場、AGFに対して期待していることはありますか?
佐々木:もっとアニメ系の企業は積極的に韓国市場にきてほしいですね。アニメはもっと増やしていきたいですね。あとは女性向けコンテンツ。
田口:イベント出展ってカロリーは高いですが、現地でパートナーがいるかどうかがこの「成長市場」にのれるかどうかのポイントですよね。そういったときに、「IPホルダーが主催するイベント」としてAGFは韓国展開の公式パートナーとつながるには他のイベントよりもずいぶん効率がいいものになっていると思います。あと時期的に12月頭の寒い時期、というのもあって、実は春・夏のアニメイベントが世界中で多忙を極めるなかでいうと「冬の閑散期にイベント出展ができる」という意味でも差別化できているんじゃないかと思います。
――:一年の締めくくりは韓国のAGFということですね!

