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私は、演劇部部室でやる気のないリリアに脚本のコンセプトを説明する。
「うわあ、やべえストーリーだね」
マレーシア出身の彼女が小馬鹿にしたように言った。彼女は6歳までマレーシアにいたが、父親の転勤で東京に住んでいる。日本語もペラペラで中華系なので日本社会に完全に同化している。
「まあ、中学生がやるような劇じゃないことは認める」
「そもそも君は処女じゃないね」
「処女だからこういうの興味あるんだよ」
「本当かなあ」
 私はリリアの色白で、目が二重で、わりと鼻がしっかりした顔にキュンとなる。遊んでそうなロングで人口茶髪なのに(私は黒)、性格がボーイッシュなので彼氏が一切いないとこが好ましい。
「リリアはお金の起源ってどう思う」
「さあてねえ、王様が強制的に貝殻とかコインとかを使わせたんじゃないの」
 ねえ、もっと深い考えを示してよ。くそう
「瑠海さん、リリアさん、何相談してるの」
部長の内海さんが、部室に入ってきた。2年生で人格者で皆のお母さんみたいな人。ちょっとくびれが欲しい、巨乳チビ体型だがカワイイことはすっごくカワイイ。
「部長は相変わらず豊満ですなあ、胸の中で甘えたい」
 リリアがエッチな目で内海さんを見る。
「バカリリア、おだまり。ええっと、次の舞台の脚本話してんの?」
「ぜ、全然アイデアなくて」
私はやばいと思ってリリアより先に言った。
「瑠海が面白いアイデアあるんで……」
私はリリアの尻をバシンと叩く。好痛(Hǎo tòng、いたあ)、と中国語で叫ぶリリア。
「嘘です、まだ何も浮かんでません」
「じゃあ、帰りにカフェでお茶しながら相談しましょうよ」
私とリリアはもちろん賛成する。JCは放課後お茶するために生まれてきたといっても、過言ではない。

「ふわあ、お金の価値を宣伝するために女性の肉体を使う?」

結局カフェで、リリアが私のエッチなストーリーを部長の内海さんに話してしまう。紅茶を喫しながら、女子中学生が放課後話すべき内容ではないだろう。
「ぶ、部長冗談ですから」
「いやあ、ありゃ冗談じゃないねえ。危険思想だ」
思想なんぞシソの葉っぱ程度にしか考えてなさそうなリリアが言う。
「もう、いじめないで。ただの妄想だよお」
「瑠海さん、こんなこと言うと申し訳ないけど、その、欲求不満なの」
部長の哀れみをたたえた視線がつら過ぎて、私はカフェオレをグビリと飲んだ。
「最近オサホウが世間を騒がせてますよね」
 おいおい、私は何を言い出すんだ。
「オサホウってあの幼妻法案のこと」内海部長が戸惑いながら、チーズケーキを一口食べた。
「そうです。お金持ちの男と中学生女子が合法的に結婚出来る制度」
 私は時々自分を恥ずべき売春婦だと感じさせるオサホウについて皆の意見がどうしても聞きたくなってしまった。現代の貝殻奴隷女は私だ。

「ありゃあ、やべえ法律だよね。あれのおかげで日本の男はマレーシアの入国審査がめちゃくちゃ厳しくなったんだよ」
 吐き気がして皆に気づかれないように必死で我慢していると
「わ、私のお父さんあの法案の成立に関係してんの」
内海部長がとんでもない告白をしてくれた。

「うちのお父さん、人口減少と社会の停滞について研究してて、オサホウの諮問委員会にいたんだよね」
部長の告白にリリアはびっくりしてクシャミした。
「ブヒャン、へえそうなんだあ」
「あの法律ってロリコン擁護で評判悪いけど、ちゃんと女子の同意前提で結婚させるから。男には精神鑑定とか受けさせるし」
部長は言い訳するように言って、紅茶のスプーンを回している。
「でもねえ、そこまでして人口って増やす必要あるのかなあ」
リリアは懐疑的に言いながら、ダージリンティーをぐびっと飲んだ。オサホウが日本を蝕む少子化問題の奇策として、生まれたことは皆知っている。
「私も犠牲になってる女子のこと考えて、あの貝殻奴隷を思いついたの」
 私が部長の告白に便乗して、辻褄合わせてみたが、二人は納得はしなかった。
「かなり飛躍しすぎないかあ」
リリアが当然すぎるコメントを言った。
「オサホウで、幸せになった女の子もいると思うんだよね」
部長は、窓の外に舞い散る桜の花びらを見てボソッといった。
実は目の前に居ますよ、と言いたいが言えるもんじゃない。
「おいおい、半年あとに文化祭ですよ。脚本練らないと」
 リリアが当面の課題に気づかせてくれた。大して客も来ないけど、毎年秋の文化祭で劇をやっている。リリアは美人だから彼女を主演にすれば多少客は来るかもしれない。
「アイデアは面白いから。ちょっと性的要素除いて書いて見てよ」
 部長が言うと
「おお、ゴーサインじゃあん。えかったなあ、瑠海」
リリアがからかうように言ってくる。
「リリアで当て書きしようかな」
「私が貝殻奴隷? セクシシーンないと受けないよ」
リリアがおどけて言うので、部長と私は思わず笑ってしまった。

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