アニメーション映画監督・細田守さんの最新作「果てしなきスカーレット」が11月21日に全国で公開される。「時をかける少女」「サマーウォーズ」「竜とそばかすの姫」と、時代とともに変化するつながりの形を描いてきた細田さんが、本作で問いかけるのは「生きるとは何か」。王女スカーレットが《死者の国》を旅するダーク・ファンタジーだ。

国内外から注目を集める「スタジオ地図」の最新作は、従来の2Dや3Dの枠を超えた新しいアニメーションの映像表現にも挑戦。海外での公開も決定している。公開を目前に控えた細田さんに、作品に込めた思いとアニメーション産業の未来について聞いた。

世界が揺らぐ時代に、「復讐」と「許し」を描く

――― どのような着想からこの作品が生まれたのでしょうか。

この映画の構想を練り始めたのは、4年半くらい前になります。ちょうどコロナ禍が明けて、ようやく世の中が長いトンネルを抜けたと思っていた時に、ウクライナ戦争が起きました。長いトンネルがまたスタートして、報復の連鎖も再び始まってしまった。

その時、「復讐ってどこまで続くんだろう」と考えたんです。人は傷つけられた痛みをどう受け止め、どこで許すのか。そういう根源的な問いをもう一度描くことが、今の時代に必要なんじゃないかと感じました。

私にも子どもがいますが、子どもたちを見ていると、この不安定な世界をどう生きていくのか、未来を信じていいのかという気持ちが強くなります。だから、この物語はある意味、僕自身の「未来への願い」なんです。そして、9歳の娘に向けて作ったものでもあります。

「復讐」と「許し」をテーマにした「果てしなきスカーレット」について語る細田さん

――― 今回、ストーリー展開や表現がこれまでの作品とは異なるように感じます。

これまでの作品はどちらかといえば身近な人たちの物語でした。でも「果てしなきスカーレット」では、王女という立場のキャラクターを描きたかった。スカーレットは、おとぎ話に出てくるような王子様に助けてもらうプリンセスではなく、ちゃんと国を背負っている君主としての女性。責任と孤独を抱えながらも、自分の意思で世界と向き合う人物です。

そこに、現代日本から来た看護師の聖(ひじり)をバディとして置きました。人を救う仕事をしている彼と、復讐を果たそうとしている、ある意味これから人の命を奪おうとするスカーレットは正反対の存在です。でも、一緒に旅をするうちに、お互いの生き方に影響を与えていく。その関係性がこの映画の核なんです。

「バディもの」の面白さって、全く違う価値観の人が一緒に行動することにあると思います。王女と看護師、女性と男性、中世と現代──いろんな対比が重なって、世界が広がっていきます。

主人公のスカーレットと看護師の聖(左)は共に《死者の国》を旅する ⓒ2025スタジオ地図

――― 2Dでも3Dでもない新しい映像表現が話題です。どのようにして生まれたのでしょうか。

これまでの日本のアニメーションって、手描きの2Dか、完全な3DCGか、そのどちらかで語られてきましたよね。でも僕は「どっちでもない表現」ができるはずだと思っていました。

登場人物たちが地面を這い、血と汗と土の匂いの中で生きている。その手触りをどう映像に落とし込むかを考えた時、従来のセルアニメの線だけでは足りないし、3Dの質感とも違う。だから、2Dの柔らかさと3Dの奥行きを融合させる新しいルック※にチャレンジしました。キャラクターの線が生きていて、なおかつ光や影、肌の質感がリアルに感じられる。見た人が「これは2D?3D?」と戸惑うくらいが理想でした。

この新しいルックは、ただの技術ではなくて、キャラクターの感情を伝えるための表現です。例えばスカーレットが傷ついて、それでも前に進もうとする瞬間、彼女の肌に流れる汗や砂のざらつきが見える。それが観る人の感情にも直に響くようにしたかったんです。

欧州などで、新しいアニメーション表現の開発が進んでいます。日本でも、以前はスタジオジブリの高畑勲監督らが新しい表現に挑戦をしていました。セルアニメの表現に留まらず、新しい表現に挑戦して、アニメーション表現の幅を拡張することが大切だと僕は思っています。

※ルック…作品の見た目の質感や画づくりの方向性。

「生きるとは何か」──400年の問いをいまに翻訳する

――― 作品全体に流れる「生と死」「復讐」といった重たいテーマを、観客にどう届けようと考えましたか。

「果てしなきスカーレット」は、シェークスピアの「ハムレット」に通じる復讐劇の系譜にあります。

高校時代、「ハムレット」を読んで、「生きるべきか死ぬべきか」という言葉の重さに衝撃を受けたんです。あれを現代の言葉で言い直したいとずっと思っていました。キャリアを積んで、やっとシェークスピアに向き合えるようになりました。

この映画では、最後に主人公たちが「生きる」ということをどう受け止めるのかをぜひ見て欲しい。スカーレットたちが苦しみながら決断する姿を見て、見る人自身が「自分だったらどうするか」と自らに問いかけてもらえたらと思っています。

――― 本作は、様々な作品の影響を受けていますね。

世界観の背景になっている「ハムレット」やダンテの「神曲」は高校、大学の頃に読みました。「バケモノの子」で出てきた「白鯨」は、大学生の頃に読みました。学生の頃に読んだ文学作品がやはり、自分の軸になっています。例えば、ハムレットは、ずっとブツブツブツブツつぶやいているんですね。これって、学生時代の自分と少し重なるところがあって、当時はそこに共感したことを覚えています。

▶細田守さんの心を動かす本はこちら

――― スカーレット役の芦田愛菜さんの演技が印象的でした。

「果てしなきスカーレット」は、中世の王女が主人公ですが、そこで描いているのは一人の女性が、自分自身を見つめ直し、本当の自分とは何かを問い続ける物語です。スカーレット役の芦田愛菜さんが、舞台あいさつで、「本当の自分を見つけて、自分自身を好きになる話ではないか」と話していました。まさに、そういう物語だと思っています。

スカーレットはいつも目をつり上げていて、一見、芦田さんの持っている柔らかな印象とは違うかもしれません。しかし、中世の19歳は精神年齢は今の30代ぐらいではないでしょうか。芦田さんは内面がすごくしっかりしている。現代の20歳前後で、あの王女役を演じられるのは芦田さんしかいないと思いました。

芦田愛菜さんが演じたスカーレットは父の敵への復讐に失敗し、《死者の国》で目覚める ⓒ2025スタジオ地図

――― 海外市場を意識した点はありますか。

アニメーションって、もはや国内だけの文化じゃない。動画配信サービスで世界中の人が同時に見る時代です。だから今回は最初から世界を意識しました。

世界的にも注目されている日本のアニメーションですが、同じ場所に留まるのではなく、より進化した表現を獲得して、新しい物語を新しい表現で見せたかった。また、配給の座組でも、日本の東宝と米ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントが組んで共同配給します。

「挑戦を支える仕組み」が、アニメの未来をつくる

――― 経済産業省でも、日本のアニメ産業を支援しています。日本のアニメ業界全体が強くなるために、今、必要だと思うことは。

やはり、人材育成と技術開発を支える仕組みですね。

アニメーターは本当に頑張っているのに、制作費は不十分、労働環境は完全には整備されていません。新しい表現技法を試すには時間もかかるし、金銭的なリスクも必要です。でも、そこに投資できるようにならないと、未来の作品が育ちません。

僕は、イノベーションって楽なことじゃないと思っているんです。身を削るような挑戦を重ねて、やっと一歩前に進む。その挑戦を現場だけに押し付けるのではなく、産業全体で支えられる構造を作らなきゃいけない。今回、経済産業省に技術開発のところで補助金をいただきました。補助金などの制度は本当に心強いです。これからもっと「新しい表現への挑戦」ができる環境が広がっていくといいですね。

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日本アニメの今後について思いを語る細田さん

【プロフィール】
細田 守(ほそだ・まもる)
アニメーション監督
1967年、富山県出身。1991年に東映動画(現・東映アニメーション)へ入社。アニメーターを経て、1999年に「劇場版デジモンアドベンチャー」で映画監督としてデビュー。その後、フリーとなり、「時をかける少女」(06)、「サマーウォーズ」(09)を監督し、国内外で注目を集める。11年にはプロデューサーの齋藤優一郞氏と共に、アニメーション映画制作会社「スタジオ地図」を設立。「おおかみこどもの雨と雪」(12)、「バケモノの子」(15)でともに監督・脚本・原作を手がけた。「未来のミライ」(18)(監督・脚本・原作)で第91回米国アカデミー賞長編アニメーション作品賞にノミネートされた。「竜とそばかすの姫」(監督・脚本・原作)は第74回カンヌ国際映画祭カンヌ・プルミエール部門に選出された。

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