テレビ朝日のアニメプロデューサーと『SPY×FAMILY』などで知られるアニメ制作会社・WIT STUDIOがタッグを組んでTVアニメを制作する……のではなく、総合住宅メーカーの企業CMを制作する。
9月17日から放送中の総合住宅メーカー・アキュラホーム(株式会社AQ Group)のCM。公式キャラクターであるきりんの「あきゅりん」が、友達であるひつじやふくろうと“理想の家”について話す中で、アキュラホームの木造建築技術をPRする内容だ。
アキュラホームのアニメCM
近年、若年層へのリーチといった観点から、アニメを用いたCMは増加傾向にある。新海誠監督による大成建設株式会社のCMなどは代表的な事例の一つだ。それでも、テレビ局がプロデュース役を担い、企業と制作会社を繋いで制作されるケースはあまり聞いたことがないのではないだろうか。
異色と評しても差し支えない座組みはどのように実現したのか?
『僕の心のヤバイやつ』『小市民シリーズ』などを担当するテレビ朝日のアニメプロデューサー・遠藤一樹さん、dアニメストアのCMやTVアニメのED映像などを手がけ、本CMでディレクションを担当した個人クリエイター・たなかまさあきさん、制作会社・WIT STUDIOの山中一樹さんと上松敬弘さん──関係者に話を聞いた。
取材・文:太田祥暉(oriminart) 編集:恩田雄多
WIT STUDIO時代の同期が企業のアニメCMで再会
──そもそもたなかさんは、フリーランスとして独立する以前にWIT STUDIOで社員アニメーターをされていたんですよね。
たなか そうなんです。プロデューサーの山中(一樹)くんとは同期でした。
山中 新入社員の頃から、たなかくんは真面目でしっかりとしたアニメーターでした。なので、辞めると言ったときにはとても残念でしたね。
たなかまさあきさん:アニメーションディレクター・アニメーター。1991年生まれ。筑波大学芸術専門学群卒業後、株式会社WIT STUDIOに7年間勤務。2023独立。直近の仕事に、dアニメストアCM「アニメとススメ!」、TVアニメ『アオのハコ』第2クールEDなど。
山中一樹さん:アニメーションプロデューサー。2013年WIT STUDIO入社。『進撃の巨人』の荒木哲郎監督が絶大な信頼を置くプロデューサー。担当作に『SPY×FAMILY』『アオのハコ』『放課後のブレス』など。
──WIT STUDIOを辞められて、なぜ個人作家としての道を選択したのでしょうか?
たなか 理由は複数あるんですが、一つには山下清悟さん(※)の作品に憧れていたからというのがあります。
アニメーターとしてだけではなく、自分でAfter Effects(アフターエフェクト)とかを触って映像を完成させられるようになりたかったんですよね。なので、WIT STUDIOに所属しているときから少しずつ勉強して、個人で映像を受注するようになりました。
※山下清悟:アニメーション監督。株式会社スタジオクロマト代表。演出、作画、3D、撮影など様々なセクションを横断することによる総合的なシーンづくりを特徴としている。
「ホロアース」「アオのハコ」──WIT STUDIO×たなかまさあき
──独立して個人で制作するようになって以降も、古巣であるWIT STUDIOの作品に参加されていますね。
たなか これはWIT STUDIOを辞めた理由にも繋がるのですが、在籍中はどんな力学が働いて一つのアニメができているのか、あまり把握できていなかったんです。自分はアニメーターという一セクションからの目線からしか仕事に対して目を向けられていないなと感じでいて。
だからこそ、一度自分で全部つくって、何が必要なのか、どうすれば作品のクオリティが担保できるのかを把握したかったんです。独立してから活動でそれらが掴めたタイミングで、山中くんが声を掛けてくれたんです。
「ホロアース」アニメPV
山中 少しずつお手伝いしていましたが、最初にちゃんと組んで制作したのは2025年4月に公開された「ホロアース」のPV「さあ、あなたのもうひとつのセカイへ」ですね。
そのときに手応えを感じて、TVアニメ『アオのハコ』第2クールのEDアニメーションの演出もをお願いしました。なので、アキュラホームさんのCMで3作目となります。
上松 たなかさんはバランス配分が巧みなんですよ。「ホロアース」のPVでも感じましたけど、クライアントからのオーダーにもしっかりと応えつつ、自らのクリエイティビティも発揮していく。その調整力が凄まじいなと感じていました。
上松敬弘さん:制作デスク。2017年WIT STUDIO入社。学生時代、アニメCMを録画してDVDに焼いていたほどのアニメ好き。取材当日はアニメーター/イラストレーター・米山舞さんの展覧会で販売されたTシャツを着用していた。
──たなかさんはdアニメストアやマクドナルドなど、企業CMを数多く手がけられていますが、制作する際に等しく意識することはあるのでしょうか?
たなか クライアントのオーダーや企画意図としっかり向き合うことは大前提とても意識しています。この映像は何を達成するための映像なのか、誰に何を伝えるためのアニメなのかという意識は、クリエイターよがりなアウトプットにならないために必要なのかなと。
また、クライアントの方々は普段からアニメ制作をされている方々ではないことも多いので、コンテやラフスケッチを用意することで、完成を想像しやすいようなコミュニケーションをとることも意識しているポイントかもしれません。今回のCMの場合は、間にテレビ朝日の遠藤さんが入ってくださり、丁寧に情報の受け渡しや補完をしてくださったので、かなり気持ちよく仕事ができました。
1996年生まれ、静岡県出身。編集者・ライター。編集プロダクション・TARKUS所属。アニメやライトノベル、特撮を中心に活動中。主な構成書籍に『ヤマノススメ Next Summit アニメガイド おもいでビヨリ』『石浜真史アニメーションワークス』『世話やきキツネの仙狐さん オフィシャルファンブック もっともふもふするのじゃよ!』など。担当中の雑誌に「Newtype」「宇宙船」「ドラゴンマガジン」「LoveLive! Days」など。