
ディー・エヌ・エー(DeNA)<2432>とE&H production(E&H)は、アニメーション制作プロセスにおけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の技術検証を目的とした共同開発プロジェクトを開始した。このプロジェクトは、アニメ業界が直面する長時間労働、制作費の高騰、技術革新の遅れといった課題を解決し、クリエイターがより創造的な活動に集中できる環境を構築することを目指している。
■プロジェクトの開発領域
アニメ制作は細分化した工程が多く、ITツールによる効率化が進みにくい現状がある。本プロジェクトでは、以下の主要段階に対応した包括的なDXアプローチを検証し、ツールの開発を進めている。
【簡易撮影領域】
コンテ撮(Vコンテ制作)などの効率化をサポートするWebツールの開発・検証。
【ラフ・コンテ領域】
ラフスケッチからボーン構造を自動生成し、アニメーション制作の初期段階を効率化。
【作画領域】
第二原画の作業負担軽減と品質向上を実現。
【その他の領域】
汎用キャラクターの動作生成、背景制作における技術開発・検証。
■簡易撮影ツールについて
特に技術検証・開発が進んでいる「簡易撮影ツール」は、2025年10月に試験導入が予定されている。このツールは、絵コンテをもとに簡易的に映像化する「コンテ撮(Vコンテ制作)」や、カットの順番・長さを調整する「編集」工程で使用される。「イラスト制作機能」と「Web撮影ビューワー機能」の2つの機能で構成されており、実際の作画や美術が完成する前に仮映像をもとにスタッフ間の共通認識を形成することで、制作の効率化、高品質化、トラブル回避に貢献する。
現状、多くのスタジオがコンテ撮作成を外部に発注しているため、タイムラグやコミュニケーションロスが発生する可能性があるが、簡易撮影ツールの導入により、制作スケジュールの短期化や監督自身による編集が可能となり、クリエイティブな作業への集中を促す。2025年10月の試験導入効果検証を踏まえ、2025年度内のアニメ作品への実用を目指している。

【簡易撮影ツールの使用イメージ】
▼絵コンテ作成工程
ペンシル機能やオニオンスキン機能などを活用し、タブレットでイラストを制作。絵コンテフォーマットでのデータ出力も可能。

▼タイムシート作成工程
尺やボールド指示などを画面上部のタイムラインエディタに入力。

▼線撮工程
タイムラインエディタで入力した情報やカメラワークを含めた映像を、従来のVコンテに相当する映像として随時確認。

▼編集工程
Web撮影ビューワー上でデータがリアルタイムで自動同期されるため、編集会社が直接ビューワー上で編集作業を実施可能。

▼オフライン編集工程
Web撮影ビューワー上で従来のVコンテに相当する映像を再生でき、動画やタイムシート形式でのエクスポートが可能。リアルタイムでの共有により、データ連携や手作業による差分更新作業を大幅に削減する。

■プロジェクトの背景と目的
日本のアニメーションは世界に誇る成長産業である一方で、制作現場では多くの課題が指摘されている。DeNAとE&Hは、これらの課題を克服し、DeNAのテクノロジーとE&Hのクリエイティブな才能を融合させることで、アニメーション制作の生産性とクオリティ向上を同時に実現することを目指す。
■今後の展望
DeNAはプロトタイプのテストと評価を繰り返し、具体的な成果に基づいた継続的なツールの改良を進める予定。本プロジェクトを通じてアニメーション制作業界全体に貢献し、より革新的なアニメーション作品が生まれることに寄与したいと考えている。