7月11日〜13日、上海国家会展中心にてライブイベント「BILIBILI MACRO LINK 2025(BML2025)」が開催された。動員数は前回が2daysで約1.4万人、さらに今回も同会場・同日程で開催されたアニメ・ゲーム系(中国で言う「二次元」)の展示イベント「BiliBiliWorld 2025」とあわせると約40万人を動員したという、アジア最大級のオタクカルチャーイベントだ。
Ave Mujica
「BML」は中国の動画プラットフォーム「bilibili動画」が2013年から開催しているライブイベント。「bilibili動画」のクリエイターや国内外(とくに日本のアニメ声優・アニソンアーティスト)が多数出演する。
上海の友人に聞いたところによると「ニコニコ超パーティー」のような雰囲気に近いらしく、bilibiliの担当者も「ラフな雰囲気を楽しむもの」と話してくれた。たしかに会場の作りはアニソンフェス然としているものの、出演者には「Up主」や現地のVTuberらも名を連ね、MAD動画らしき画面演出(「MAD動画のパロディ」とでも言うべきか)などは「ニコニコっぽい」ところもあった。
そんななか、日本から出演したアーティストたちは現地のファンにどう受け入れられていたのか。「BML2025」DAY3に出演したyama、茅原実里、Ave Mujica、オーイシマサヨシ、宮野真守らの活躍をレポートしていく。
第1部:歌い手文化から懐かしの名曲まで
yama
DAY3で、日本人アーティストのトップバッターを務めたのはyama。直前まで動画Up主たちによるカバー(結束バンドの「星座になれたら」や、みきとP feat. GUMI,鏡音リン「いーあるふぁんくらぶ」など)も多く披露されていたなか、元々「歌い手」出身であるyamaの登場はシームレスであると同時に、持ち曲を生身で歌う「歌手」としても現れたその姿には(本人の匿名性に比して)妙な実在感があった。
リズムの細かい「色彩」から続く名バラード「Oz.」の圧倒的な歌声に感情の雰囲気は一変。アニソンライブとしてのボルテージが高まってきた。合間に発された「我是yama」という初々しい中国語も今回ならではのうれしいパフォーマンス。ラストには「GRIDOUT」を披露して締め括られたが、それぞれ『SPY×FAMILY』『王様ランキング』『ユア・フォルマ』の主題歌ということを抜きにしても、yamaが中国のユースカルチャーの中でも広く受け入れられていることがわかるステージだ。
茅原実里
続いての日本アーティストは茅原実里。1曲目からいきなり「ハレ晴レユカイ」が披露されて衝撃を受ける。『涼宮ハルヒの憂鬱』の文脈がどれだけ中国に浸透しているのかはわからないが、「ニコニコ動画」の発展的要素を持つ「bilibili動画」のイベントでこの曲が演奏されるのはユニークな現象だ。
2曲目には定番曲「Paradise Lost」で貫禄を見せつけたかと思えば、続くMCでは「みちしるべ」のタイトルコール。『ヴァイオレットエヴァーガーデン』の名が飛び出した瞬間会場中で叫び声が聞こえ、いかにこの作品がグローバルコンテンツであるかを示していた。
京都アニメーション作品の名曲で始まり/終わり、茅原もステージを降りる。その後にはKey作品の楽曲メドレーが演奏されたため、私は日本人特有の(?)ノスタルジーを感じつつ第1部の終了を迎えた。
そしていにしえのオタクの記憶が呼び起こされた直後、Ave Mujicaの世界がやってくる。
第2部:上海からAve Mujicaの世界へ
佐々木李子
第2部(Ave Mujicaの出番自体が「第2部」として位置付けられている)が始まるまでの休憩時間、暗幕の向こう側からドラムのサウンドチェックが聞こえた。開演前だというのに叫び声をあげる観客が現れはじめる。あのスネアの音が米澤茜(Dr.)本人のものだったかは定かではないが、Ave Mujicaへの期待感が十分すぎるほどに伝わる瞬間だった。
そして第2部へのカウントダウン終了と同時に、「KiLLKiSS」のイントロストリングスが流れはじめる。会場が絶叫で包まれるとともに、私より前列で座っていた観客が全員立ち上がった。第1部ではみな着座していた(そういう文化なりレギュレーションがあるのかと思っていた)ため、戸惑いつつもやや遅れて私も席を立つ。
演奏開始とともにライトアップされたAve Mujicaのメンバーは、仮面をつけていない。軽快なステップとともにパフォーマンスを披露する佐々木李子(Gt.&Vo.)のギターネックにはフレットラップが巻かれており、「メタルバンド」としてのAve Mujicaの風格がさらに増しているように見えた。5月に開催された「JAPAN JAM 2025」での「Mode : “Unmask”」を彷彿とさせる振る舞いだ。
(左から)岡田夢以、佐々木李子
最高の形で終えた「KiLLKiSS」に続き「八芒星ダンス」が披露される。人形劇風のイントロから一転、破壊的なバスドラムと低音リフが上海国家会展中心を揺らす。過去に松本拓輝プロデューサーはライブでは低音を強調するミックスを施すと述べていたが、今回もそういうPAがあったのだろうか。縦ノリに耐えきれなくなった私は、周囲の中国人がペンライトを掲げるなか一人日本人としてヘドバンを続けていた。

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続いて披露されたのは「顔」。岡田夢以のベースフレーズが鳴り出した途端歓声が沸き起こる、発表直後からライブ定番曲となることが約束されていた一曲だ。サビ中の〈hey!〉〈hate!〉の掛け声、2サビ直前に高尾奏音(Key.)が満面の笑みで披露する〈cool-cool〉は当然見逃さない。単独ライブではないためにこれらのフレーズに反応していた観客は一部だけだったように思われたが、かえってそれがAve Mujicaの「共犯者」たちの一体感を高め、そして最高潮の盛り上がりのまま「終幕」へと向かう。
最後に演奏されたのは「天球(そら)のMúsica」。言語の壁を超えたシンガロングと白く神々しいライトアップによって、Ave Mujicaの世界が上海を染めていく。
ここまでのセトリを見てわかるように、TVアニメ『BanG Dream! Ave Mujica』オープニング曲の「KiLLKiSS」から始まり、最終回で初披露となった「八芒星ダンス」「顔」「天球(そら)のMúsica」が順に続いた。物語の記憶が喚起されたところに、清々しい表情のモーティス(あるいはムツミ)を演じ切った渡瀬結月(Gt.)の姿には涙を禁じえない。
シンガロングとともに幕を閉じる「天球(そら)のMúsica」の演奏後は、多くを語らないまま暗転。まだ第2部の終了時点だというのにアンコールを叫び求める声に包まれるなか、Ave Mujicaのマスカレードは終幕した。
