秋篠宮妃紀子さま 思いのこもったお言葉に感動 文学を通しての眞子さま、佳子さま、悠仁さまとの思い出も語る 紀子さまの児童出版に対する熱い思い 紀子さまは文学博士
カンカンカン
ゴーンゴーン ゴーン
これらの音が聞こえてくるのが今回受賞し た2冊の歴史本です最初の音は蒲田歩み
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鳴らしていた音です石が切り出した巨を 村人が袖手出で船に積み込み大阪に旅する
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表情そして使う道具まで丹念に描き込まれ ています
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秋篠宮妃紀子さまが述べられたお言葉は
本日、「第72回産経児童出版文化賞」の贈賞式が開催され、皆さまにお会いできましたことを大変うれしく思います。これまで児童出版の分野で力を尽くしてこられた皆さまに、深く敬意を表します。
昨年は、4000点以上の児童書が誕生し、その中の9冊がこのたび「産経児童出版文化賞」に選ばれました。受賞された皆さまに心からお祝いを申し上げます。
この行事には、1993年に開催された第40回贈賞式以来、25年以上にわたり出席いたしました。6年前から、娘の佳子が出席するようになりましたが、今年は開催日が娘のブラジル公式訪問と重なったため、私が出席することになりました。
式典に先立ち、主催者より今年度のすべての受賞作品の説明を受ける機会がありました。その後に一冊ずつ、表紙をゆっくりと開き、見返しの質感やデザインを味わい、続けて扉のページをめくり、本の世界へ入っていきました。
大賞を受けられた大西暢夫さんの写真と文による本『ひき石と24丁のとうふ』。山奥に暮らす90歳を超えたミナさんが、わずかに見える色や形と音、手の感覚や匂いを頼りに豆腐を作る姿を追い、大豆が豆腐になるまでの様子をさまざまな視点から撮影しています。読み終えた後もしばらくその場にいるような余韻が残り、そっとカバーをめくると、静寂な雪景色とミナさんの日々の営みとがつながり、心に染み渡っていきました。
美しい色調の作品『パパはたいちょうさん わたしはガイドさん』は、以前にスペイン語の原作を見たことがあり、星野由美さんの和訳による作品が受賞されたと聞いてうれしくなりました。娘と父親が手をつなぎ、通学路をジャングルに見立てて、会話を楽しみながら探検していく様子、そして二人の深い絆に心動かされます。見えないからこそ感じるものがあり、視覚以外の感覚によって広がる豊かな世界もあることを教えてくれる絵本です。
カン!カン!カン!
ゴォーン ゴォーン
これらの音が聞こえてくるのが、今回受賞した2冊の歴史絵本です。
最初の音は鎌田歩さんの『巨石運搬! 海をこえて大阪城へ』の本から。これは400年ほど前の瀬戸内海の島で石工が鳴らしていた音です。石工が切り出した巨石を村人が総出で舟に積み込み、大阪に旅する様子が、ページごとに展開します。働く人々、楽師から子どもたちまで村人の姿や表情、そして使う道具まで丹念に描き込まれています。大阪城を作る石一つ一つにこうした人々の力と知恵があると知ることで、建物や歴史の見方が一段と深まるように思いました。
もう一つの音は小林豊さんの『えほん ときの鐘』から。江戸の日本橋に時刻を知らせる鐘の音です。「鐘役」の孫の新吉と、長崎からやって来たオランダ人のヤンとの出会いの物語です。新吉がヤンと舟にのり、江戸の掘割や川を進んで広がる風景に目を輝かせたように、私たちも江戸の町並みや人々の暮らしに一緒に見入ることができます。江戸を出発するヤンに贈られた日本の鐘の音が、今もオランダの運河沿いの町で、いつもの時間に「きこえる」ようです。
絵本は、時間をさかのぼることも、離れた場所へ旅することも可能にしてくれます。長男が小学生のとき、学校の図書ボランティアの一人として、子どもたちに本を通してアフリカの自然や文化を紹介したことがありました。その当時、また機会がありましたら、遠い国や地域を描いた作品を読んでみたいと思っていましたが、今回の受賞作でその願いが叶いました。
『おはなしはどこからきたの?』は、大昔のアフリカの小さな村から始まります。主人公のマンザンダバは、家族と焚火を囲んでいるときの会話をきっかけに「おはなし」を探しに旅に出ます。動物を訪ねてまわっても「おはなし」がみつからず、ウミガメの背に乗って海の底へ。旅から帰ったマンザンダバは、焚火を前に自分の家族や村人、動物たちに、海の底まで出かけた冒険を語ります。保立葉菜さんによる多色刷りの木版画は、この物語を力強く色鮮やかに表現しています。
よしいかずみさんが訳された『まぼろしの巨大クラゲをさがして』では、青く深い北の海や真っ赤な調査船に乗る研究チームと乗組員の旅の様子がこまやかに描かれ、まるで一緒に船で北極に出かけたように、本の世界へ引き込まれていきました。先日訪れた奥能登の図書館では、私が持っていたこの本に子どもたちが近づき、ページをめくりながら、イッカクやシロイルカの群れに心を弾ませ、なかなかクラゲを見つけられない調査員に向かって「いるいる」「ここにいるよ」と声をあげ、最後まで物語を楽しんでいました。
2人の子どもが表紙を飾る小型の本が2冊ありました。それぞれ子どもの表情や装丁の色使いは違っていて、どのような物語が始まるのだろうかと思いながら読み始めました。
1冊は安東みきえさんの『ワルイコいねが』。主人公の美海は、自分の意見を言ったり考えを伝えたりするのが苦手な小学6年生。一方、秋田から転校してきた同級生のアキトは、思ったことを素直に言葉にします。美海はアキトの言葉や行動に戸惑いながらも親しみを感じていきます。二人の心の交流を通して、相手の気持ちを想像すること、自分の思いに正直であることの大切さに気づかされる物語です。また、美海の祖母のあたたかさや語る言葉も、物語に深みを与えているように思いました。
もう1冊は清水晴木さんの『トクベツキューカ、はじめました!』。1年に1日、好きな日に好きな理由で休むことができる「トクベツキューカ」。この日をどのようにすごそうかと小学生の子どもたちが、それぞれ迷いながらも友情を育み、成長していく姿と、四季の変化とを重ねあわせた短編集です。小学生たちの心情がこまやかに描かれるこの本を手に取った子どもたちも共感する場面があるのではないでしょうか。ページをめくりながら出会った子どもたちや担任の先生がこの先歩む道を見守りたくなるような本でした。
シシシシ チチチチ
耳を澄ますと、林から親鳥と幼鳥の鳴く声が聞こえてきます。『いつも仲間といっしょ エナガのくらし』からでしょうか。エナガの姿や成長を江口欣照さんの写真がはっきり捉え、東郷なりささんの平易で親しみやすい文章でエナガの生態が書かれています。小さいエナガが群を作って助け合って暮らし、ねぐらとなる枝に並んで休む理由も知ることができました。エナガを身近に感じ、林に暮らすエナガとその仲間の鳥のことをさらに学びたいと思いました。
このような魅力あふれる9冊の本を読む機会をいただいたことをありがたく思います。
毎年、産経児童出版文化賞では多様なジャンルの良質な本が選ばれてきました。ふりかえると、これらの作品は長年にわたり私と本との豊かなつながりをもたらしてくれました。
子どもたちが小さかった頃、受賞した絵本を家で一緒に楽しみ、その内容に驚いたり、感心したり、不思議がったり、新たなことを学んだりして過ごしました。子どもが学校へ通うようになってからは、わが子が図書室から借りてきた本が受賞作だったり、ボランティアとして小学校の図書室の書架の整理をしているときに受賞作を見つけ、その本を紹介したりすることもありました。
式典に出席し、受賞した方々とお話をしたことは、皆さまの本作りへのこだわりを感じたり、手がけられた他の作品に親しむきっかけになったりしました。また、賞の運営を担当されている方々や選考委員の皆さまとお会いし、本への熱い思いについて語り合う貴重な機会になりました。
本日、受賞された皆さまにお祝いと感謝の気持ちをお伝えいたします。今後も、産経児童出版文化賞において児童出版に携わる方々が顕彰され、その作品が高い関心を得て、より多くの人たち、子どもたちの手に届き、読み継がれていきますことを願い、式典に寄せる言葉といたします。
