2025年春の中国アニメのラインアップ

 この春も、日本のアニメシーンを中国アニメがいくつか席巻している。

 テレビアニメでは、この4月からフジテレビ系列で2本の中国アニメが放送中だ。一つは、『ONE PIECE』の後番組として始まった日曜の朝アニメ『TO BE HERO X』(2025年)。2016年放送の『TO BE HERO』シリーズの第3作目である。もう一つは、『TO BE HERO X』の制作元でもある中国系動画サイト「bilibili」とフジテレビの提携で2023年から設けられた深夜アニメ番組枠「B8station」で放送中の『この恋で鼻血を止めて』(2025年)である。

中国アニメに
いま何が起きているのか?

アニメ産業における中国アニメは無視できない存在となって久しい。日本でも4月4日に緊急公開された『ナタ 魔童の大暴れ』は、アニメ映…

リアルサウンド 映画部

 また映画では、4月4日から、ディズニーを抜いて、アニメーション映画の世界歴代興行収入第1位を樹立した3DCGアニメ『ナタ 魔童の大暴れ』(2025年、以下『ナタ2』)字幕版が劇場公開されている。2019年の『ナタ〜魔童降臨〜』の続編である『ナタ2』は、前作から続き、身体を失ったナタとゴウヘイが肉体を取り戻そうとするところから始まり、後半は龍王とともに敵を倒す、『封神演義』に基づいた2時間半に及ぶ超大作だ。

中国アニメの台頭

 筆者は昨今の中国アニメの動向については、専門と言えるほどさほど詳しくはない。それでも口コミで異例の大ヒットとなった映画『羅小黒戦記〜ぼくが選ぶ未来〜』(2019年)や『雄獅少年/ライオン少年』(2021年)、そして、『TO BE HERO』シリーズのリ・ハオリン(Haolin)が監督を務め、新海誠アニメの主要スタッフである丹治匠や天門が参加した『時光代理人 -LINK CLICK』シリーズ(2021年〜2023年)など、コロナ禍を前後する数年前から、日本国内でも中国アニメの存在感が急速に増してきたのをみている。中国では2000年代半ばから海外アニメのテレビ放送を制限し、一方でアニメ、ゲームなどのデジタルクリエイティブ産業(数字創意産業)を国家レベルで振興してきた。2010年代半ばに中国国内で社会現象級の大ヒットとなった『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』(2015年)を皮切りに、3DCGアニメの新時代が到来し、数年経ってその勢いが、ちょうど日本にも波及してきているのが近年の状況なのだろう。それらの作品群は、圧倒的なクオリティの3DCG技術で制作されており、また、『羅小黒戦記』で話題になったように、現代日本のアニメやマンガからの影響も目立つ。

『雄獅少年/ライオン少年』©BEIJING SPLENDID CULTURE & ENTERTAINMENT CO.,LTD ©TIGER PICTURE ENTERTAINMENT LTD. All rights reserved.

 このコラムでは、今期の2本の中国アニメが描くテーマの、各国のコンテンツとの時代的な並行性や、コメディ描写などを中心に日本アニメとの関係についてまとめてみる。

「ヒーローもの」としての共通項

 『TO BE HERO X』は、スーパーヒーローが群雄割拠する架空の未来世界が舞台。そこでは、人々のヒーローに対する「信頼」が数値化され、それが彼らの能力やランキングを左右する。物語前半(第4話まで)では、トップの人気を誇るヒーロー「ナイス」が死亡したことで、ナイスのCMを手掛ける、彼と瓜二つの平凡な青年リン・リンが成り代わる。『この恋で鼻血を止めて』は、宇宙生物に寄生されて「退屈を感じると死んでしまう」体になった平凡な会社員のモカと、彼女を救おうとするスーパー宇宙人ヤーセンのドタバタを描くラブコメディ。

 一見、物語もジャンルもバラバラな両作だが、奇しくも「スーパーヒーローもの」という要素では共通している。ちなみに、このヒーローものは、もともとはだいたい2000年代半ばから2010年代を通じて、ハリウッド映画から日本のマンガまで幅広く流行したジャンルだった。

 ハリウッドではいうまでもなく、2008年の『アイアンマン』から始まり『アベンジャーズ』(2012年)で加速していったいわゆる「マーベル映画」(MCU)が代表例だろう。『TO BE HERO X』の3DCGから2Dまで、作中でいくつか変化する作画スタイルのうち(この演出は『スパイダーマン:スパイダーバース』シリーズを思わせる)、MCUのアメコミ風オープニングクレジットを髣髴とさせる表現も混じっている。また同時に、スーパーヒーローが私企業の広告塔になっていたり、彼らの活躍がメディアを通じた大衆の支持や娯楽に直結していたり、あるいは、未熟な主人公が真のヒーローを目指すという『TO BE HERO X』の設定や展開は、これもMCUとほぼ同時期に大ヒットしていた『TIGER & BUNNY』(2011年)や『僕のヒーローアカデミア』(2014年〜2024年)といった日本のアニメやマンガとも共通する。

 繰り返すように、『TO BE HERO X』では、作中で「信頼値」と呼ばれる大衆の期待の度合いが可視化され、それが個々のヒーローの能力の有無や社会的評価に直結している。また、いかにも制作元がbilibiliらしく、作中にはユーザのコメント弾幕がついた配信映像も登場する。このような、いわば認知資本主義や評価経済に組み込まれていたり、最初から絶対的な「正義」を体現していないヒーローものが、ここ15年ほど国内外で流行り続けている。リーマン・ショック以降のヒーロー物語を鮮烈に示してみせたクリストファー・ノーラン監督の映画『ダークナイト』(2008年)がMCU第1作の『アイアンマン』と同じ年に公開されたことが象徴的だが、ここには、現代的なヒーローものの時代的条件が如実に映し出されている。同様の特徴を、中国アニメの『TO BE HERO X』も共有しているのだ。

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