#空の境界 #痛覚残留

「わたし、人殺しなんかしたくないのに─」
「そうでもないよ、おまえは」

見た瞬間に気が付いた。いや、視えてしまった、と言うべきか。
敵であるという確信と、そうじゃない、という否定。

そこにいるのは自分のいる境界がわからないまま超えてしまった、少女だったモノ。
人知れず繰り返される凌辱に、しかし、彼女は無機質な視線を投げかけるばかり。

仮に人の脳に複数のチャンネルがあるとしよう。現実に即して生きているための最大公約数チャンネルがあるとして、
おそらく大多数の人間はそこにあわせて世界を見つめ、認識し、だからこそ共存できる。
けれど、どうしても皆とは異なるチャンネルにしかあわせることしかできない、そんな存在がいたとしたら─
それは、もう人外。
いや、「存在不適合者」と呼ぶ。
社会に不適合、ではなく、存在そのものが不適合だという話。
どうやらそれを「超能力者」というらしい。

そしてある晩のこと。飲み会帰りの雨の夜、どこまでも普通、けれど類い稀な探し物の才能を持つ黒桐幹也は
闇にうずくまるひとりの少女を拾ってしまう。
「それ」がいずれ、自身が探すことになる対象とも気付かずに、探す前から見つけていた……が、その事実を知ることはない。

行方不明になった後輩。
会えなかった妹とその友人。

手足どころか首までもがねじ切られた惨殺死体は、今日もまたひとつ、増える。

てんでに別方向へ手前勝手に進行する出来事は、やがてひとつの結末へと辿り着く─まごうことなき、死闘へと。

夏の雨の夜、瞳に映るすべてをねじ曲げ破壊する少女と、すべての死線を瞳に映す少女は、殺意を胸に対峙する。

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