【怖い話】最終電車【朗読】#怖い話 #怪談 #朗読

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日常のすぐ隣に、恐怖はひそんでいる。
「身近に潜む怖い話」では、ふとした瞬間に感じる違和感、見えない気配、思い出すと眠れなくなる体験談など、誰の周りにも起こりうる“リアルな怖さ”をお届けします。
一日3話アップ予定。

最終電車

車内には霧がたちこめ、誰も言葉を発さない。列車は闇の中を滑るように進んでいた。

座席にうずくまる奈緒は、必死に現実感をつかもうとしていた。
事故。そう、たしか夜の雨道、夫と車で帰る途中。急な飛び出しにハンドルを切って……。

だが、奈緒はなぜ自分がこんな電車にいるのか、までは思い出せなかった。

「……和也……」

隣の席に、夫の姿があった。顔色が悪く、口を開けようとしない。まるで、なにかを受け入れてしまっているかのように。

窓の外には、異様な駅名が次々と現れていた。
「業火通り」「鬼哭ヶ原」「膿溜池前」……見たこともない、不吉なものばかり。

「これ……現実じゃない。夢だよね……?」

「違うよ」

低く響いた声。顔を上げると、痩せ細った男。――車掌が立っていた。制服は煤けて古びている。

「おまえらは死んだ。二人ともな。だが……まだ認めきれていない魂だけが、この列車の中で“選択”を許される」

「選択……?」

「誰か一人を、この電車から突き落とせば――おまえは戻れる。生者の世界に、もう一度だけ」

奈緒は言葉を失い、座席に沈み込んだ。列車は再び走り出す。車内には誰も動かず、誰も言葉を発さない。

ただ、窓の外に現れる駅名だけが、何かを警告していた。

「血ノ池三丁目」。
「骨供養前」
「斬首ヶ丘」
「無間地獄口」

どこで降りても、もう戻れない。
そこにいるのは皆、地獄の住人。
奈緒の手は、膝の上で震えていた。

「嘘よ……こんなの、現実なはずがない……」

隣の和也は、相変わらずうつむいたまま、何も言わない。まるで自分の運命を受け入れた人間のように。

奈緒は耐えられなかった。

目を閉じても駅名が浮かぶ。
血と炎と怨念に満ちた場所。
このまま走り続ければ、いずれ自分も、あの中に飲まれる。
そんな予感があった。

――戻りたい。
――怖い。
――ここにいたくない。

鼓動が速くなる。呼吸が浅くなる。指先が冷える。

そして、ある考えが脳裏をよぎる。

「和也が……代わりに行けばいい」

自分が行かなくてもいい。
誰か一人が落ちればいい。
だったら、彼が……。

「この人にはもう、未練がないじゃない」
奈緒は立ち上がり、夫の手を引こうとした。

「……ごめん。でも、私……生きたいの。あなたが行ってくれれば、私は――」

和也はうつむいたまま、小さく首を振った。

「……それが、おまえの本心か。最後に知れて良かったよ……」

「うるさい!。わたしの代わりに……さっさと地獄へ行って 私だけでも、生き返るの!!」

奈緒は和也の肩をつかんで窓の方へと強引に引っ張った。

そのときだった。

窓から半身を乗り出した奈緒の首元に、轟音とともに何かが振り下ろされた。
視界が一瞬で暗転し、自分の体が崩れ落ちるのを、首だけで見た。

振り向いたそこには、金棒を持った巨大な鬼。目は燃えるような赤。顔は怒りと憎悪で染まっていた。
「他者を犠牲にしようとした魂、最も深く堕ちるべし。汝、地獄の底よりさらに下、咎人の奈落へ送還す」

車掌は目を伏せたまま、無言で合図を送る。列車が再び動き出す。次の駅は「咎人絶界島」。

和也は、ただ静かに座っていた。瞼を閉じ、なにかを祈るように。

奈緒の魂は、転生も再生も許されぬ最凶の地へと引きずり込まれていった。
愛を裏切った者に、救済の光は二度と差さない――。、転生も救済も許されず――永久に沈んでいく。

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