妹がお母さんの帽子に吐いた。
よく思い出す子供の頃の記憶。
バスの一番後ろの席に座っていて母は妹を抱っこして、3.4歳の私はかまってもらえないことに不機嫌だった。
母の二の腕を触っても触ってもこちらを振り返らないなんて、妹っていう生き物はなんて厄介なんだ。
「赤ちゃん、嫌い」睨んでいた。
ケポッと音がして白いミルクであろう吐物に母が咄嗟にミルクのように白い綺麗な帽子を口に当ててそれを防いだ。
泣く妹の音に気づいて揺れるバスをフラフラと知らないおばあちゃんがこっちにティッシュをもって向かってきた。白いティッシュ。
私はただそれを見ていた。
記憶はそこまでで、大人になった私はあの頃年下であったろう母親をいつまでも年上の母親として思い出し続ける。

2021.8.22

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